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第276回

黒字倒産の2つのメカニズムと回避方法

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



最近、倒産が増えているとの報道を耳目にします。前回は調査会社の報告から現状を確認、「黒字倒産が増えている」という実感についてお話しました。今回はそのメカニズムを究明して黒字倒産を避ける方法を考えます。



何時の間にかキャッシュが不足して起こる黒字倒産

これまで黒字倒産というと、決算書・残高試算表上は黒字なのにキャッシュが不足してしまい、それが原因で手形を決済できなかったり金融機関への返済を連続して滞らせてしまった結果、金融機関取引停止処分を受けて倒産に至る例のことを、主に指していました。


中小企業社長との話しで「先月は黒字だったのに現預金残高が前々月よりも減っている。不思議だ」との声を聞く時があります。実は決算書や残高試算表は会計原則に従って処理されており、ビジネスや企業運営上の実感と乖離しています。売上を商品出荷時に計上する発生主義や、仕入でキャッシュアウトしても売上計上まで費用計上されない在庫の会計処理、設備投資して代金を支払っても費用計上されず資産計上され、減価償却費として費用化される固定資産取得の会計処理などです。


また掛取引だと商品・サービスを提供しても後日に締め、支払期まで現金化しません(手形払いだと現金を手にできるのはもっと後です)。また金融機関からの借入が利益にならない(貸借対照表上で処理される)のは理解できても、その返済も貸借対照表で処理されると「支払うべきお金」として把握し辛くなります。また税抜方式だと損益計算書ではなく貸借対照表で処理される消費税も「支払うべきお金」としての認識から抜け落ちがちです。


以上から、このタイプの黒字倒産を避ける方法が理解できます。決算書・残高試算表では分かりにくい以上のキャッシュフローを整理する資金繰り表を作成、現預金残高を予測して不足が見込まれるなら早めに資金調達します。また売掛金回収を早めに、買掛金支払を遅めにしたり、過剰在庫を避けるなどして資金をキープします。節税のため利益を抑え込もうとする経営者もいますが、それでキャッシュフローが回らなくなるのなら元も子もありません。適正利益の見直しが必要かも知れません。



資金繰り資金の調達困難による黒字倒産

最近、新しい形の黒字倒産が増えている実感があると、前回にお話しました。左で挙げた黒字倒産は資金繰りを管理していない「うっかり」と表現できる状況ですが、新しい形の黒字倒産は資金繰り表を作成・対応しても回避できません。それは「資金繰り返済する資金を調達できないため資金繰り破たんする」という形の倒産です。


資金不足で借り入れても、ビジネスからの利益を原資に毎月の返済が行えるなら、企業として健全な状態です。しかし利益が返済額に足りないと、どうなるか?原資を確保しなければなりません。このような状況下、新たな借入で資金を確保、返済を続ける場合があります。健全とは言いにくいのですが、景気低迷時等は少なからぬ企業が「資金繰り返済」を行っています。金融機関も「支援を継続すれば倒産に至らない。景気が改善したら利益返済して欲しい」と考えて支援しているのです。


しかしコロナ禍で状況が一変しました。多くの企業が売上・利益減少に直面、政府による特別支援措置で倒産を免れたのです。2年かそれ以上、大幅赤字を出してしまい債務超過に陥った企業も少なくありません。その後、2023年春に新型コロナウイルス感染症が5類に移行してインバウンドも増加、これまで経験したことのない改善率で売上・利益を伸ばして黒字化した企業がありました。


では、このような企業が「コロナ特別支援でキープした現預金が尽きそうだ。以前のように資金繰り返済に向けて借入しよう」と申し込むと資金調達できるか?多額の債務超過が原因で借入できない場合があります。


政府は中小企業活性化パッケージNEXTを発表、以上の事態が想定される企業には事業再生に取り組むよう勧めました(2022年)。金融機関にも支援を求めています(中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針改正:2024年春)。


一方で中小企業の反応は芳しいとは言えないようです。「自社は復調している」と考えて事業再生の必要を認めないのです。しかし制度的にも、実際の企業の立ち直りの上でも、事業改善計画を策定した上での真摯な取組が不可欠です。是非、再生に向けた行動を進めてもらえるよう、啓蒙に努めたいと考えています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真は 写真AC から 78design さんご提供によるものです。78design さん、どうもありがとうございました。

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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