「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第176回

事業承継について考える

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


先日、ある企業経営者から相談を受けました。その企業は新型コロナウイルス感染症の蔓延で取引が大きく減少したため、税理士などの助言をもとに昨年度のうちにしっかりと資金調達しました。このためコロナ禍が思いの外、引き続いたとしても資金繰りの心配はあまりないのですが、借入金が増大した一方でキャッシュの流出が止まらず、財務状況が大きく損なわれてしまったのです。


この状況で社長から「自分は50才前半なので事業承継を考えるのは少し先で良いと思っていたが、財務がここまで悪化したので、前倒しで検討を始めた方が良いのだろうかと考えるようになった。如何だろう」とのご相談です。筆者は「是非、今から始めてください」とお話しました。今日は、この点について考えてみたいと思います。



なぜ考えるべき時が早まったか

その企業は装置産業に属するBtoB企業で、設備資金がかさむのに加えて売掛金回収に一定期間を要するため多額の運転資金が必要になるという、借入金が積み上がりがちな財務体質でした。過去にはリーマンショックなどの需要減退期にも資金が必要となったため、コロナ禍直前でも年商に迫るほどの借入金が積み上がっていたのです。今回のコロナ禍でも休業要請などで顧客企業の操業度が低下、売上が激減してしまったのでキャッシュの補充を再び借入に頼らざるを得なかったため、増加後の借入金を減少後の年商で比較すると2倍に近い水準まで膨れ上がってしまっていたのです。


一方で、事業承継は「何も決まっていない」という状況です。社長自身にはお子様がおられない一方で、弟がお二人おられ、「多分、長弟が承継してくれるだろう」と漠然と考えておられたようですが、ここまで業況が悪化しつつ借入が増えてしまうと、長弟が承継を断る可能性もあるというのです。「親の代から引き継いだ愛着ある事業で、かつ、多くの顧客に重宝がられる社会的意義のある事業なので、是非とも次世代に引継ぎたい。万が一長弟が承継してくれなかった場合には、従業員に引き継いでもらいたい。しかし、弟でさえ引き継いでくれない(可能性がある)事業を従業員が承継してくれるのだろうか?」と不安になったとのお話でした。


この状況、相談があった企業だけでなく、多くの企業で発生していると思います。時間をかければ選択肢が十分にあるのに、そのままにしておくと選択肢は潰え、対策が打てなくなるかもしれません。



代表者保証を免除してもらえるようにする

このような状況で事業承継を可能にするポイントの一つとして、借入金に係る代表者保証の免除が挙げられます。実は、経営者保証を免除してもらうためのガイドライン(経営者保証ガイドライン)が制定されており、金融機関はこれに沿って代表者保証免除を検討します。

https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/guideline/


代表者保証の免除を希望する中小企業について金融機関は、次の条件を軸に検討するとされています。


① 法人と経営者との関係の明確な区分・分離

法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等)を、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど


② 財務基盤の強化

財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する


③ 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保

資産負債の状況(経営者のものを含む)、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等について、債権者から情報開示要請があれば正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明し、経営の透明性を確保する(外部専門家による情報の検証、事業計画・業績見通し等に変動が生じた場合の自発的に報告などにも努める)


以上だけ見ると「財務上の必要条件を満たせば良いのだな。税理士に任せれば良い」とお感じになるかもしれません。確かに平時で、売上・利益そして自己資本などが遜色ない状況の企業なら、税理士の協力を得て財務上の条件を満たせば応じてもらえる可能性があります。しかしコロナ禍で業績も財務状況も悪化している状況では、財務上の対応だけでは済まないでしょう。「② 財務基盤の強化」には経営成績も改善して借入金の返済能力を納得してもらうことが条件だと示唆されています。企業の全体の立て直しまで含まれていると考えられます。


「承継候補者に『この会社なら継いでも良い』と考えてもらうのと、金融機関に経営者保証を免除してもらうのは、実は同じことか」その通りです。資金調達して確保した時間を有効利用して、事業改善・再構築に是非、取り組みましょう。「急がば回れ」にいち早く取り組んだ企業が、最後に笑う(承継できる)企業になれるのです。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は Unsplash から Chris Liverani さんご提供によるものです。Chris Liverani さん、どうもありがとうございました。



 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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