「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第21回

どのタイミングで金融機関を訪れるか

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
先日、事業性評価に基づいた融資や、ビジネスマッチングなど中小企業への直接的支援にも力を入れている金融機関の方とお話しする機会がありました。そこで気がついたことについて、今回はお話ししたいと思います。決算が思わしくなく事業改善しながら資金調達を目指す中小企業が、どのタイミングで金融機関に訪れるのが良いかという点についてです。


思わしくない決算となった場合

以前だと、長引く不況や突発的事象により、あまり芳しいとはいえない決算になってしまい「これまで可能だった資金調達も今期は難しいかもしれない」と思われる状況になった中小企業が金融機関に足を運ぶのは「逆効果」だったという感触があります。事業計画書を作成して改善に向かって努力するにしても、金融機関にインプットされるのは「直近決算は大幅赤字だ。警戒しなければならない」というネガティブな情報だったと感じられたからです。


以前の、望ましいタイミング

それよりも、しばらく事業改善に努力し、上向いたところで「前期は赤字だったのですが、今期は気持ちを引き締めて事業改善しています。その効果もあがってきました」と報告に行った方が、金融機関も中小企業の意図をしっかりと受け止めてくれるような気がしていました。なので、今回も金融機関担当者に、そういうタイミングでお伺いした方が良いのではないかと確認をとってみたのです。


事業性評価時代の、望ましいタイミング

しかし回答は、意外なものでした。「不本意な決算となってしまったら、すぐに金融機関を訪問して相談してください」というお話だったからです。


スタートラインを早める

その趣旨は、以下の通りです。例えば3ヶ月後に事業改善の効果が現れ始めたとして、その時に初めて金融機関を訪れると、金融機関にとってはその状況がスタートになって「もう3ヶ月頑張って、それで上向きの方向性が続いていたら、融資についてのお話し合いを始めましょう」と提案することになるから、ということでした。これがもし、赤字になった決算書をもってすぐに金融機関を訪れていると、「事業計画を策定して改善に努力されるおつもりであることはわかりました。では3ヶ月頑張って頂いて、取り組みの効果が現れてきたら、融資についてのお話し合いが始められるかもしれません」と提案できる可能性がある、ということです(ここで述べた「3ヶ月」は、あくまで仮の数字です)。


金融機関の期待や判断基準を知る

また理由のもう一つに、事業改善に向けて努力してもらいたい方向性や、改善の効果が現れているかどうかを判断する指標などについて金融機関の考え方を伝えられることも、挙げていました。確かに、金融機関の期待や判断基準を予め教えてもらっていたら、より効果的な取り組みができるでしょう。

金融機関が、このような考え方になってくれたというのは、とても素晴らしいことだと思います。これまでの「債務者格付け」の枠組みでは、一定のルールに基づいて判断された格付けを変更してもらうことは、決算書などに現れた事実をもってするしか方法はありませんでした。しかし事業評価の時代になって「改善の方向性にある」というベクトルを確認してもらうことで、前向きな判断をしてもらえる可能性が出てきたということだからです。


取引金融機関の姿勢を探る

「さりとて、全ての金融機関が、そのような考え方とは限らないだろう。」おっしゃる通りです。今回のお話を頂いたのは、冒頭でも述べたように、事業性評価に基づいた融資や直接的支援などに力を入れている、首都圏の地域金融機関の方です。メガバンクや都道府県を代表するような地方銀行の中には、これとは違った方向性の金融機関もあるでしょう。第二地銀や信用金庫、信用組合でも、もしかしたら、未だに以前のスタンスから変わっていない金融機関があるかもしれません(それを実感するケースは、少なくありません)。

このため「直近決算では不調だったが、今は事業改善に頑張っている」ことを取引金融機関に話をする前に、予めの感触を探っておいた方が良いかもしれません。「そんなことを言われても、企業としては難しいよ」とお感じの経営者もおられるでしょう。この場合には、誰か代理人に感触を探ってもらう方法があります。顧問税理士に、まず一般的な話として(つまり特定の企業名を出さないで)、金融機関の姿勢について感触を探ってもらうことができるかもしれません。


今回の会話から、事業性評価をベースにした融資に積極的に取り組み、今は不調とはいえ前向きな努力をしている企業を評価しようとする金融機関も現れている、それも思った以上にしっかりとした考え方でもって推進しているようだとの印象を受けました。全ての金融機関がそのような姿勢ではないので、取引金融機関の姿勢を予め探っておく必要もあるでしょうけれど、前向きな姿勢の金融機関があれば、そことしっかりとコミュニケーションすることが資金調達に繋がるかもしれません。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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