「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第213回

事業改善に必要な2つのメンタリィ

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



前回、事業改善に取り組むきっかけ(ナッジ)について考えました。事業改善が必要だと分かっていてもスタートさせられない場合が多いからです。理由は様々ですが「取組が失敗してしまうかもしれない」という恐怖感が障害になっていることが多いようです。この恐怖感は難物で、簡単に拭い去ることはできません。そのため「今は苦労するけれど、将来に楽になる」という動機で取り組むのではなく、「今を楽しみながら取り組む」を動機にすることを前回にお薦めしました。今回は、どうしたら今を楽しめるかについて考えていきます。



「自分事」にしつつ「みんな事」にする

「困難で、成功するかどうか分からない」という課題、意外と多くあります。偉人の伝記を読むと、彼らが困難で成功するかどうか分からない課題(意欲的な課題)に楽しみながら取り組んだ様を見ることができます。彼らはなぜ、そんなに大変な取組を楽しめるのか?多くの偉人たちは「自分が目指したものが出来上がったら凄いことになる」というビジョンを描いて取り組んでいます。


「でも、どんなに素晴らしいビジョンでも熱心に取り組まない人がいるぞ。というか、ほとんどみんなそうだ。成し遂げた人と普通の人とを分けるのは何か?」成し遂げた人は「素晴らしいビジョンの実現」を自分に与えられた特別なチャンスだと感じていることが多いようです。「これを私が実現しなければ他人には実現できない。もし実現できても、私が実現するより◯年も遅れる。私が実現するほどレベルが高くない。すると世界は大変困ったことになる。これを成し遂げるのは自分の使命なのだ」と考えているのです。自分の会社を盛り立てること、事業改善・事業再構築するにあたって最もふさわしい人は経営者でしょう。だからこそ経営者が「自分事(じぶんごと)」として取り組むよう期待されているのです。


一方で意欲的な課題は多くの場合、自分一人では実現できません。会社を立て直す場合は特にそうです。意欲的なビジョンを社員全員にとっての「自分毎」にする必要があります。会社を盛り立てることが、社員一人一人にとって今を楽しくし、将来を安心なものにすると納得してもらうのです。事例を見ると「みんな事」を実現した経営者が会社の立て直しに成功していると分かります。



「実現に漕ぎ着ける道筋」を合理的に描く

「ビジョンを共有して自分毎にするだなんて、そんなあやふやなことで会社が立て直せるのか?」その力を侮ってはなりません。会社とは人の力を合わせるところです。皆の心を打つ信念(経営理念)や、気持ちを明るくさせる将来像(ビジョン)、あるいは晴れ晴れとした心持ちなれる環境(組織文化)を打ち立てることが、組織の力を発揮させる原動力となります。


一方で会社の現状がビジョンとは遠くかけ離れ過ぎているので、ビジョンだけを示されたのでは絵空事のように感じられてしまう、ということもあります。時に会社の立て直し(事業改善・事業再構築)には取引先や金融機関などの外部の支援を得る必要がありますが、これら関係者も社長が語るビジョンだけでは「我が社・我が金融機関もこの会社の立て直しに協力しよう」という気持ちにはなれないでしょう。ビジョンを実現していく合理的な道筋を描いていくことが必要になります。


「事業計画書のことだな。しかし、それが役に立った試しがない」という経営者も、多いと思います。そのような苦情があったケースを拝見すると、事業計画書に並べられているのは「売上・利益計画」や「顧客先別売上計画」あるいは「費用計画」、「経費節減計画」など、数値表の形式をとる計画ばかり、ということが多いのです。


これら数値表は間接的に、売上・利益の最終目標達成のため「誰に売っていく」、「何をどのように仕入れる」、「間接部門がどのような支援をする」かについての経路を示しています。しかし、達成のための方策が合理的かどうかを約束するものではありません。ここでいう「合理的」とは、自社として取組可能で、それをしっかり行ったら成果が得られる可能性が高いという意味です。行おうとする策についての案が企業の強みや弱み、機会や脅威に対応しているかどうかを検証しながらブラッシュアップすることで、合理性が高まります。現況を正しく捉えて分析し、それをもとにアクションプランをブラッシュアップすることで合理的な道筋が描けるのです。


事業改善などの意欲的な課題に楽しみながら取り組めない人を観察すると、「自分毎、みんな事にする」ことと「合理的な経路を描く」ことを忘れている人が少なくありません。是非、念頭に置いて取り組んでみて下さい。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は 写真AC から 78design さんご提供によるものです。78design さん、どうもありがとうございました。



 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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