「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第223回

企業立て直しの定性的目標(貢献を掲げる)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



今、連続企画として、金融機関に提出する事業計画について考えています。飲食業や宿泊業をはじめとしたインバウンドに支えられた産業や、自動車や建設をはじめとした部品・資材の不足・高騰の影響をもろに受ける産業に属する企業は、今でも売上・利益の大幅な下落に苦しめられています。既に調達したコロナ特別貸付等の据置期間が終わり返済が始まると資金繰りが回らなくなる恐れさえ、あります。


これらの企業が今すぐに始めるべきなのが事業改善・事業再構築です。事業計画を策定して金融機関に「この企業は持続できる、返済できる」と納得してもらえるようにするのです。


先週は「我が社の製品・サービスは世の中に貢献している」という意識が、困難の中で粘り強く取組を進める強いモチベーションになることや、「打てる手は打った。手は尽きた」と感じる状況でも効果的な打ち手を見つけるヒントになることを、考えました。今回は、この意識を事業計画の定性目標に高めていくことを、考えます。



事業立て直しのイメージ

「今までどうやったら現状を打開できるか見当がつかなかったけれど、貢献を意識すると打開のヒントになると言われて開眼した。今までとは違ったアプローチで血路が開けるかもしれない。しかし、それを事業計画の定性目標として明確化すべしとは、ちょっと意味が分からない。どういう趣旨か?」とお感じ方、多いと思います。


「厳しい事業環境下でも売上・利益の拡大を目指す」と言うと、どんなイメージを持たれるでしょうか?ある経営者は「百戦錬磨の戦士がバトルロワイヤルするリングに上がる」をイメージするかもしれません。「厳しい競争環境(レッドオーシャン)で競争に打ち勝つ」とは、まさにそう言うことです。


これに比べて、今のイメージは如何でしょうか?「乾涸びた荒野でモノを売る商店。人通りがめっきり減り、お金のない旅人が数人、通るだけになってしまった。何時になったらお金持ちの一団が来るのだろうかと、待っている」というイメージでしょうか?こうイメージすると、自分が乾涸びて倒れてしまう前にビジネスや居場所を変える大切さが分かると思います。これを実現しようとするのが、事業改善や事業再構築です。


貢献を目指す意味(イメージ)とメリット

需要の落ち込みや、物品・資材等の不足・値上がりで売上・利益が低迷する企業にとって、今はまさに乾涸びた市場に取り残された心境でしょう。そこを抜け出すべきことは分かっていますが、百戦錬磨の戦士が立ち並ぶリングに上がるのに足がすくむのも、もっともです。「ならば今のままで良い。いつか来るお客を待つ方がリスクが少ない」との判断があっても不思議ではありません。


しかし、現状から脱して売上・利益の向上を目指す選択肢は1つではありません。「そこそこの需要があるのに供給者がおらず(不足しており)困っている」市場に進出するイメージも描けると思います。自社の製品やサービスがそこで求められている、あるいは多少の調整で対応できるなら、いち早く移動するのです。自社がお客さまの不便を解消できると知らしめることができれば、お互いにWin-Winでリスクも最小な関係が築けます。「貢献を目指す」とは、隠れた需要、つまり「供給がなくて困っている需要」を提供しようとする方向性です。


「コロナ禍や戦争などで未だかつてないほど売上・利益が減少した」という企業は「V字回復」を目指す必要があります。例えば「5年後には売上が○○%、利益も◇%増加し、黒字化して債務超過も解消」という目標です。但しその目標は、実は大切なことを示していません。それを実現するために「百戦錬磨の兵士が立ち並ぶリングに上がる」のか、「そこそこの人がおり需要がある場所なのに、供給者がおらず(不足しており)困っている市場に進出する」のかを、定めていないのです。


前者(リングに上がる)と後者(不便に対応)のどちらを指向するか?前者の企業が多いと感じられますが、こちらは茨道です。例えば飲食店が立ち並ぶ地域で支援する金融機関なら、この計画を立てた企業が10社あれば、そのうち数社は脱落すると覚悟しなければなりません。どの企業を支援するか、選ばなければならないのです。後者の方向性なら、全ての企業を安心して支援できます。


「なるほど、貢献をベースにした計画を立てることで、我が社にも金融機関にもメリットがあるのだな。是非ともそのような計画を考えたい。誰かと相談できないか」と思われるなら、地域の「よろず支援拠点」などにご相談ください。StrateCutionsでもご相談に乗っています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は 写真AC から WhiiteClover さんご提供によるものです。WhiiteClover さん、どうもありがとうございました。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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