「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第162回

事業性評価はなぜ浸透しなかったか

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


新型コロナウイルス感染症の蔓延が止まらず、営業の自粛要請や行動制限等が続くことによる事業者への影響は深刻さを増すばかりです。キャッシュが底を尽きかけているのに新たな資金調達ができないままでいると、事業の継続意欲があり、資金があれば持続できる企業も立ち行かなくなるかもしれません。


事業性評価が切り札となりますが、金融機関にはおいそれと推進できない理由があります。従来の「信用格付」による審査に比べて審査に手間と時間がかかることも、理由の一つです。このためStrateCutionsでは、金融機関と中小企業をサポートするため「事業性評価支援士®︎養成講座(初級養成コース)」を開始したことを、前回にご説明しました。


今回は先週の文脈から、事業性評価がなぜ浸透しなかったかについて考えていきます。それは事業性評価支援士養成講座の特徴の一つについて、説明ともなります。



「金融検査マニュアル」で生まれた不都合な事実

事業性評価がなぜ浸透しなかったか?その理由の一つに「金融庁が正解を示さなかったから」が考えられます。


もともと、金融機関の融資審査方法に正解はありません。良かれと思った方法で審査しても貸倒れに繋がることはあります。景気の大きな落ち込みや自然災害、主要取引先である大企業の事業縮小時等では、それまで良好な経営状態であっても、財務基盤の脆弱な中小企業はひとたまりもありません。一方で、事業改善を怠るなど企業に起因する場合もあります。金融機関は、もっとしっかり審査したら回避できる貸倒れを避けるため、日々、その手法をブラッシュアップしなければなりません。


しかし平成11年にパラダイムシフトが生じました。平成9年に「金融危機」が発生、北海道拓殖銀行や三洋証券などの金融機関が破綻して日本の金融システムが大混乱に陥ったのを教訓として「金融検査マニュアル」が制定されたのです。金融庁は金融機関に、財務体質の比較的強い企業を選んで融資する「信用格付」という審査枠組みを提示しました。


それは、企業をチェックする観点や判断方法を具体的に示すもので、それに則らない方法で審査する金融機関を「金融検査」でチェック、則るよう強く促したのです。この状況が約20年続いたため金融機関は、融資審査手法を創意工夫してブラッシュアップすることから「金融庁から指示された方法を厳密に守る」というスタンスに切り替わってしまったと考えられます。



「金融検査マニュアル」の二の舞を恐れた?

その後「金融検査マニュアルに則ると、特に中小企業の資金調達に支障が出る」との声があがり、金融庁は再三、改善措置を行いました。平成14年に「別冊 中小企業編」を発表、平成26年には「事業性評価」を提示し、中小企業の実情を鑑みて弾力的な、創意工夫を発揮した審査も可能と声がけたのです。そして遂に令和元年12月、金融検査マニュアルが廃止されました。


金融機関をはじめとして関係者は、金融検査マニュアル廃止後、次は事業性評価を推進する枠組みが提示されると期待したのではないでしょうか?少なくとも筆者は期待しました。しかし、それは提示されませんでした。これはもしかしたら、金融検査マニュアルの二の足を踏みたくなかったからかもしれません。金融検査マニュアルは融資審査の包括的枠組みで、創意工夫のアドオンが難しかったのです。「今後は金融機関に創意工夫を期待したい。だから枠組みは示さない」という方針だったのではないかと考えられます。



「信用格付に事業性評価をアドオンする枠組み」を提案

一方で金融機関にとって、自力で融資審査の枠組みを更新するのは大変な仕事です。「金融検査マニュアル以前に戻せば良いではないか」との声もありそうですが、難しいでしょう。20年以上前の枠組みを再現・運用できる知見・ノウハウを持つ人材は、金融機関にもういないだろうからです。新たに作るにはあまりにも大掛かりな仕事で「強制されない限りは、やりたくない」が本音でも責める気になりません。それを金融庁も慮ってか「信用格付の枠組みを使い続けると判断しても問題ない」と示しました。しかしこのままでは事業性評価は進みません。


一方で筆者は、金融検査マニュアルが健在だった頃から事業性評価の考え方で資金調達を支援してきました。形の上では企業への支援ですが、提示する情報は金融機関が事業性評価するための支援です。これを行うにあたって筆者は「金融機関が事業性評価できる枠組み」を想定しました。自分が金融機関企画担当者なら設けたであろう枠組みを考え、それを前提に資料等を作成したのです。この枠組みに則れば事業性評価は一段と推進できると考え、新しく開始した「事業性評価支援士養成講座(初級養成コース)」に盛り込みました。このため本講座は、金融機関の審査関係者及び企画担当者にも参考になる内容となっています。ご興味があればご遠慮なく、StrateCutionsまでご照会ください。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は写真ACから TASOOさんご提供によるものです。TASOOさん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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