「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第241回

事業改善と資金繰りの「両利き経営」を目指す

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



2023年が始まって早くも約半月が過ぎました。「今年こそは」と願いをかけた企業人(経営者・管理職・社員)が多いと思われますが、既に微妙な展開となっています。一方で、このような状況であるからこそ「景気が上向くまで待とう」ではなく、「自社の将来は自社で切り拓いていこう」という気持ちになりたいと考えています。今回は1月10日から始まったコロナ借換保証と併せて行う主体的な取組ついて考えていきたいと思います。



コロナ借換保証が提供するチャンス

政府は昨年末に「コロナ借換保証(民間ゼロゼロ融資等の返済負担軽減のための保証制度)」を発表しました。新型コロナウイルス感染症蔓延が始まった2020年春から実施された「ゼロゼロ融資」を利用した企業の据置期間が終了し、返済が始まるにもかかわらず、コロナ禍の継続やウクライナ・ロシア戦争勃発等の影響で業績を回復させることができず、資金繰りがつかない企業に対して、借換できるチャンスを提供する制度です。従前の借入について更に据置期間を設定あるいは返済金額を減少させる条件変更を行うと企業の評価が下がってしまうため、新たな借入で従前借入を返済、新規借入で据置期間の設定等を行なって企業評価への影響を回避しながら資金繰りを確保できるようにする仕組みです。


「当社は地域に(サプライチェーンに)なくてはならない企業なので、コロナ禍や戦禍など一時的な悪環境に負けることなく存続しなければならない。危機を乗り越えるには資金繰り措置が必要」という企業にとっては、コロナ借換保証は命綱になると考えられます。



コロナ借換保証に潜むかもしれない「二の轍」

一方で、金融機関や行政にはこの裏で、別の懸念があると考えられます。「以前の二の轍を踏まないで済むだろうか」との想いです。2008年に発生したリーマンショックによる不況に対応するため「中小企業金融円滑化法」が創設され、多くの企業が資金調達して命運を繋げました。この法律では信用保証における要件緩和に加えて、既存借入について返済猶予が要請された場合には可能な限り認めるよう金融機関へ要請されました。再度の据置期間設定や返済金額の低減などの条件変更を、条件を満たせば企業評価を落とすことなく実施可能としたのです。その条件とは事業計画(実抜計画・合実計画)の策定です。前向きな計画を策定して事業改善・経営改善に努力しながら資金繰りを円滑化する措置を行ってもらったおかげで、多くの中小企業が再起のチャンスが訪れるまで倒産を回避でき、その後に復活することができました。


しかし、全ての企業が復活した訳ではありません。少なからぬ企業が苦境から脱することができず、2度3度と条件変更を継続する状況でした。事業計画(実抜計画・合実計画)を立てて実行しても成果を出せなかったのです(中には、計画策定が資金繰りに間に合わないため事後の作成で良いとの緩和措置の適用を受けながら、計画策定を行わなかった企業さえ、ありました)。実は、このような状態だった企業は決して少なくなく、コロナ禍前にはこのような企業の再起を促す措置を執っていた金融機関・信用保証協会もあったほどです。



両利きの経営を目指す

政府は、コロナ借換保証が金融安定化における措置の二の轍を踏むことがないよう制度上の工夫を凝らしたと感じられます。保証に当たって中小企業に事業計画書(経営行動計画書)策定を求めた上に、金融機関に「伴走支援」を求めたのです。この条件により金融機関は「企業による事業改善の取組」について「関係のない第3者」に終始することはできなくなったと考えられます(もちろん「責任を負う」ほどの関係ではないでしょうけれど)。「事業計画書を策定しても何時の間にか実行を忘れてしまう」ことがないようチェックしたり、「成果が出ないので倦み疲れてしまう」ことがないようアドバイス等することが期待されていると考えられます。


冒頭でゼロゼロ融資の返済負担は重い中で存続を目指す企業はコロナ借換保証を活用するよう、お勧めしました。一方で、この制度がゼロゼロ融資の返済負担にあえぐ中小企業なら誰にでも開かれているとは限らない可能性も、ご理解頂けると思います。自社を立て直す事業計画書(経営活動計画書)を策定すると共に、確実に実行する企業に門戸が開かれるのです。


「計画書を策定と真摯な実施が求められていることは理解できた。しかし過去の事情があって、金融機関が当社に門戸を開いてくれるか分からない。誰かに相談したい」と思われるなら、地域の「よろず支援拠点」などにご相談ください。StrateCutionsでもご相談に乗っています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は 写真AC から Haru photography さんご提供によるものです。Haru photography さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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