「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第219回

戦略・ビジョンで取組を成功させる

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



「事業改善に取り組まなければならないと理解しているが、失敗の可能性が少なくない。時にはもっと困難な状況に陥る危険性を考えると、取組に踏み切れない」という声を聞きます。しかし、現状を続ける中に活路が見出せないとするなら、恐怖感が障害になって必要な取組を始められないことは、とても残念です。今回は、これまで考えた「上手くいかない理由」を踏まえて、どうしたら挑戦的な取組に成功できるか、考えてみます。



「上手くいかない理由」を一掃する戦略

会社の立て直しのように意欲的な取組が上手くいかない理由の第1に経営者が「自分事」にしていないこと、第2に従業員が「みんな事」にしていないこと、第3に試みを成功させるための合理的な道筋が描けていないことが挙げられます。これら3つの失敗理由を予め排除しておけば、成功の可能性はかなり向上すると考えられます。では、どうすれば良いか?事業改善・事業再構築について戦略とビジョンを描くという方法があります。


こういうと「事業計画には当然、戦略を記載した。それでも成功できなかったぞ」という声があがりそうです。確かにほとんど全ての事業計画に戦略が記されていますが、多くに不足があると、前回にお話をしました。「試みを成功させるための合理的な道筋」になっていないのです。少なからぬ計画書の「戦略」欄に記載されている内容には不足があることが失敗の原因になっています。


例えば技術的難度が高い山を踏破しようとする時を考えてみましょう。登山道を確認し、季節に応じた装備を決め、歩くスピード等から休憩場所・宿泊場所を決め、日程(予備日も含む)に応じた飲食料を準備すること等をしっかり計画することで成功確率が高まります。「◯◯岳登山計画」と銘打ちながら登山道と宿泊場所だけが記載され、装備や休憩場所、飲食料に触れていない計画では、成功は覚束ないのです。


経営改善・事業再構築に挑もうとする計画に、同様の「抜け落ち」があるものが少なくありません。「◯◯岳に登る」と同レベルの貧弱なものさえありました。それでは到底、成功はできません。事業改善や事業再構築を成功させるために「必要だと考えられる取組は全て計画した」と言えるほどの戦略を立てることで、成功確率を高めることができます。



「みんな事」のために役立つ「ビジョン」

会社立て直しが失敗する第2の理由は、従業員が「みんな事」にしないことです。立て直しを「みんな事」にするよう「従業員を巻き込む」とは、「力づくで関与させる」ことではありません。「この会社の先行は不安だが、社長は『会社を立て直す』と息巻いている。面白そうだし、成功したら私も気分が良いだろう。自分の力を試す意味で取り組んでみよう」という気分にさせることです。従業員のみんな事と経営者の自分事はワンセットです。


「みんな事」を成立させるには「従業員の貢献を明確化する」ことと、「従業員にとってなくてはらない会社である」ことがポイントです。前者はアクションプランで多くの企業で明確化していますが、成功しないのは何故か?後者、つまり「ビジョン」が描かれてないからです。


今まで拝見した事業計画の多くは「企業が売上を伸ばし、利益を増大させる。弱りきった財務体質を改善し、金融機関からも信頼される会社になる」が結論で、「金融機関から見た企業像」にフォーカスされています。別途聞いてみても「従業員から見た企業像」が描かれている計画書は、極めて少数です。一方で、従業員が生き生きと働く企業に事業計画を見せてもらうと、例外なくと言えるほど「従業員から見た企業像」が描かれています。


ビジョンは、その言葉の通り「将来像」が主です。「売上を伸ばし利益が増大したら、給料や仕事環境、福利厚生などで還元される」という構図です。一方で会社の立て直しの場合、かなり遠い将来像、実現にリスクある像だけに頼ると従業員のモチベーションが下がってしまうかもしれません。


このため、戦略目標が実現するタイミングよりも前の、比較的近い未来のビジョンも描いておくことが勧められます。「従業員が会社に貢献すればするほどメリットがある」構図を描くのです。以前にもご説明したように、地域になくてはならないサービス、お客様から「あなたの会社がなくなったら困るよ」と言われるビジネスを目指すという方法もあります。


「会社を立て直す取組、次は絶対に成功させたい」と思われるなら是非、戦略とビジョンを工夫してください。「自分にできるだろうか?誰かと相談したい」と思われるなら地域の「よろず支援拠点」などにご相談ください。StrateCutionsでもご相談に乗りますのでご連絡ください。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は 写真AC から keisuke3 さんご提供によるものです。keisuke3 さん、どうもありがとうございました。




 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。