「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第260回

まだまだある「自己診断の罠」

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



前回「自己診断の罠」についてお話しました。早めに病院に行って検査・診断・治療を受ければ大きな問題にならないのに自分が診断して問題を看過してしまい、大きな痛手を受ける現象を指す言葉です。これは人間ばかりでなく企業にも発生しがちです。前回は「まだ大丈夫」と考える罠を考えました。今回は他にもある、中小企業がはまりがちな「自己診断の罠」について考えてみます。



自己診断の罠にはまってしまう心理

自己診断は誰にでも発生しがちなことに注意が必要です。身体に一寸した不調があれば必ず病院に行けば良いかと言うと、そういう訳にはいきません。多くの確率で時間やお金の浪費になり、病院からも「軽症では来ないで欲しい。必要とする人に治療できなくなる」と言われます。このため人は寒気や熱があってもすぐには病院に行かず自己診断します。そして多くの場合「大丈夫だろう」と考えるのですが、時として罠にはまります。大きな病気の兆候を見落として大変なことになるのです。


なぜそんな罠にはまるのか?連続すると慣れてしまう心理が関係していると考えられます。発熱は人体に病原菌やウイルスが入り込む等により発生するので、それが続くとは病原菌等が体内で増殖している可能性があり治療の必要性が高まっていると考えるのが合理的ですが、慣れによって心配する気持ちが薄れてしまうのです。


企業にとっては「業務資金の日常的不足」が、上の例でいう「寒気や熱」に該当するでしょう。多くの企業は「足りなくなったら借りればよい」と自己診断して対処します。それで資金不足が解消し、次に資金が不足するまで十分な時間があるのなら問題は少ないのかも知れません。しかし借りても短期間のうちに資金不足が再発するなら「いつものことだ」とか「不景気なので仕方ない」と自己診断の罠にはまると、再生のチャンスが失わる可能性があります。


第3者の助けを得ながら事業環境等にまで眼を向けると「以前は優位性が十分にあったが今はほとんどない」、あるいは「原材料が高騰して利益が出なくなった」などビジネスモデルが根本的にシフトしており、対応が必要なことに気が付くかもしれません。



「この程度の目標で良いだろう」という自己診断

「まだ大丈夫」から一歩進んで「事業改善しよう」と危機感を持ったとしても自己診断の罠から完全に抜けられる訳ではありません。よく見られるのは「この程度の目標で良いだろう」という自己診断です。


今、少なからぬ企業から「業績が回復しているのに資金調達できない。金融機関がウンと言ってくれない」という声を聞きます。ある企業は前年度よりも売上を2割増やし(成長率は過去最高)大幅な赤字から収支トントンまで戻したにもかかわらず金融機関から支援を断られました。社長は「目覚ましい改善を認めてくれないのは言語道断」と怒っていましたが、実は売上・利益はもっと増やせたのに「これ以上、売上を増やすより来年度のために余力を残そう」という雰囲気が社内に蔓延、年度の後半から売上・利益の成長がパタリと止まっていたのです。


コロナ禍2年間に大きな赤字を発生させ、かなりの黒字をあげても容易に解消できない債務超過を抱えているのに、収支トントンで「省エネモード」に入る企業に対し、金融機関は強い警戒感を持ったと考えられます。金融機関の発想を知る専門家の意見を聞いていたら、このような事態に陥らなくて済んだことでしょう。



「我が社には無理」という自己診断

もう一つ、これまでとは違う方向性として「我が社に改善は無理だ。もうダメだ」という自己診断が挙げられます。コロナ禍期間中も明けてからも懸命に経営努力してきたのに業績があがらないので諦めの心境になるのは仕方ないと思われるかもしれません。しかし同業他社を見ると、危機を脱した企業もあります。


この状況を第三者の専門家は「件の企業の経営努力は認めるが、その方向性はコロナ禍期間中も明けてからも変わっていない。実はコロナ禍前から変わっていない」と気が付くかも知れません。コロナ禍前の市場・顧客は大幅に縮小したが、長所を認め喜んでくれる別の市場・顧客が出現しているのに、それに当社は気付いていない場合があるのです。このような状況なら、会社をあきらめるのは如何にも残念です。自己診断の罠から自ら抜け出し、新しい視点でのアドバイスを聞いてみるようお勧めします。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真は 写真AC から craftbeermania さんご提供によるものです。craftbeermania さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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