「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第3回

中小企業金融政策の転換理由とは?

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
橋本卓典さんの『捨てられる銀行』が大ヒットしたことで、中小企業を支える金融政策が変わりつつあることが、多くの方々の知るところとなりました。一方で、そこで指摘されている方向性について、様々な反対意見があることも報じられています。そういう事情もあってか「もしかしたら、この傾向は長くは続かないのでは」とお考えの方も少なくないように見受けられます。


中小企業金融政策のトレンドは一時的か?

中小企業金融政策のトレンドが一時的なものなのか否かは、中小企業にとって重要な問題です。その答えによって中小企業の対応も変わってくると思われるからです。これについて私は、中小企業金融政策について『捨てられる銀行』で示されている方向性は簡単には変わらない、逆にどんどん強化されていくのではないかと考えています。今日は、このことについてご説明したいと思います。


中小企業金融支援政策の柱:信用保証・信用保険制度

中小企業に対する金融支援政策は、戦後間もなくの頃から、日本政策金融公庫(現在。以前は国民金融公庫や中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫など)による直接融資と、都道府県などに設置された信用保証協会による信用保証(これにより民間金融機関による融資を引き出す)という二本立てで行われてきました。信用保証は都道府県などが設置する信用保証協会が実施するとはいえ、その保証に国による再保険が付されます(保証協会が代位弁済した金額の70~80%を補てん)から、実質的には国が運用していたといえます。

中小企業には信用保証で金融支援して、国はその再保険を行うという仕組みは、理屈上は非常に高いパフォーマンスを実現するはずです。直接的融資と違ってこの仕組みでは貸付時に多額の(融資資金に相当する)資金を準備する必要がないからです。万が一、中小企業が返済できなくなり、信用保証協会が代位弁済した時のみ資金が必要になります。そもそも保険という制度を活用しているので保険料も徴収していますから、代位弁済率が一定割合以下に抑え込まれていたら追加の資金は必要としない(収支相償)はずでした。


信用保証・信用保険制度における赤字とその影響

しかしこの期待は裏切られることになります。制度創設以来、保険が黒字になったことはほとんどありません(バブル期のみ)。後は赤字で、国家予算からの補てんを必要としました。現在、信用保険制度を運用している日本政策金融公庫についてだけでいっても、平成20年度から26年度の間で約4兆8千億円の国家資金が制度維持のために支払われました。
(該当ページはP.27)

「これだけのお金がかかったとしても、実際に中小企業が救われているならば、それは必要経費だったのではないか」という声もあるでしょう。おっしゃる通りだと思います。この期間、中小企業の倒産は最低レベルに抑えられていました。

一方で、別の見方もできそうです。中小企業経営者に対する事業承継意思に関する調査によると、自分の代で事業を廃業するつもりとしている中小企業の割合は、2009年には約2割に過ぎませんでしたが、2015 年には約5割に跳ね上がっていました。これは衝撃的な数字だとは思いませんか。今でも地方の商店街などはシャッター街化してきていると問題になっています。しかし統計は、これからさらに半分まで減少してしまう見込みだと言うのです。


中小企業金融支援制度への評価

以上にお示しした数字を見て、中小企業金融支援制度について、皆さんはどのように評価されたでしょうか?日本政策金融公庫の赤字は莫大な金額ですが、それでもって中小企業の倒産が抑えられたとしたら、確かに、一定の評価を与えても良いのかもしれません。しかし今の制度のもとで、事業承継しようとする経営者の割合がわずか約6年の間に半分以下となってしまった現状を見たなら、何らかの見直しが必要だとお考えになるのではないでしょうか?

現在に行われている中小企業金融支援制度に関する見直しは、それが議論されてきたプロセスをたどってみると、信用保証と信用保険という制度を維持するために莫大な費用がかかっていることへの問題意識が出発点になっています。倒産率については一定の成果があったが廃業率については大きな問題が隠れていることを考えてみると、これを放置する訳にはいかないでしょう。何らかの、それも大掛かりな改善策が必要となります。その策の一環として、今見ている政策転換が行われているとするなら、これが一朝一夕に終わるとは考えられません。

では、この政策転換の行く末は何になるのか?次回はそれについて考えてみたいと思います。これを知ることによって、私たち中小企業がどうすれば今後に資金調達できるようになるのかが理解できます。ご期待ください。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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