「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第170回

「実行確実性」を示す

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



今週はオリンピックが始まるのに準備万端という気がしません。コロナ禍の中でオリンピックを行うには相当の覚悟と準備が必要なのに感じられないのです。企業でいえば、コロナ禍により経営基盤が弱体化してしまった中、大きな仕事に着手すべき時が来た。この仕事を上手くこなせるか否かで社運は天と地ほど差がついてしまうのに、材料の確保や機械設備の運用計画、人員配置などは手付かずという状況に例えられると思います。


オリンピックはヤキモキして注視するしかありませんが、現状を打破するために事業改善・再構築を目指して戦略計画を立てている企業者は、似たような罠に陥らないようにしましょう。先週、どうすれば戦略計画を生きたものにできるかを考えました。今週はそのうちの1番目、実行確実性を示すことについて、考えてみます。



最適な戦略を明快に説明している

前々回に戦略計画とは「今までとは違うことに取組むことを、無謀ではなく『価値あるトライ』にできる内容が書き込まれた計画」とご説明し、「価値あるトライ」にする方法として、「転業で、過去の顧客を新事業に引き寄せる」あるいは「製品の利便性を飛躍的に高める」方法を、ご説明しました。今回は同じことを別のアプローチでご説明します。


例えば東京から大阪までいく場合に、新幹線、在来線、高速バス、自家用乗用車で高速道路利用、一般道利用などがあります。旅行の目的や人数、かけられる予算などにより最適な経路が異なります。3トンの荷物を運ぶならトラックのレンタルが最適解でしょう。同様に企業が「新製品を開発する」などの新しい取組みを行う場合、どの経路(戦略)を選ぶかは非常に大切です。何がなんでも、全てを自社開発する方法しかないと思い込むと、思わぬ罠に嵌り失敗するかもしれません。最適な戦略を選び関係者が理解できるよう明確に示すことが大切です。大阪に行く場合を例にすると、社長は新幹線を考えているが経理部長は高速バス、製造部長はトラックを考えているようでは成功は覚束きません。



実行すべき行動を明らかにする

次にポイントになるのは、実行すべき行動を明らかにすることです。東京から大阪まで新幹線で行く場合、メンバー全員が東京在住歴1年以上であるならば「午前10時に東京駅に集合」と声がけすれば良いでしょう。しかしこのイベントのために初めて東京に来る人がいるなら、宿を聞いてそこから東京駅までの経路を一緒に確認するのが、それも口頭でなく地図を見ながら確認した方が確実でしょう。企業でも初めての取組みなら同様に「あなたはどんな行動をとるべきか」をしっかりと確認しておかなければ、必要な行動が執られなかったり、想定とは全く別の行動がなされる可能性があります。


戦略実行時にアクションプランを確認することには、もう一つの意義があります。企業で経営戦略を行う場合、現場担当者が「戦略行動」にだけ携わっていることは稀で、多くの場合、普段の行動と併行して行なっているでしょう。例えば既存顧客のご用聞きをしている営業担当者に、新規顧客開拓が求められている場合などです。このような場合、得てして戦略行動は後回しになり、担当者からは「既存顧客の求めに応じるだけで精一杯だった」との言い訳の言葉を聞くことになります。


しかし忙しい中でも時間を割いて戦略行動を執らなければ会社の命運は危うくなるでしょう。このような場合に確実に実行してもらうため、行うべき行動を明確に示すアクションプランが役に立つのです。「今週はアクションAを必ず行う。必達だ!」と宣言すれば、担当者の強く意識付けられます。それでも実行できなかったら、その原因が突っ込んで議論されるでしょう。例えばセクション内で助け合うなどして、確実に実行されるよう促していきます。



実行・実現の理由がある(モチベーション)

もう一つ、実行を確実にする要素として「実行・実現の理由」が挙げられます。いわば「モチベーション」ですが、そういうと単に「やる気」と解釈される場合があり筆者はあまり使っていません。「私が実行して約束した成果を出さないと、とても困ったことになる」という意識を皆に強く持ってもらうことを意味しています。


「なるほど、ノルマやボーナスで釣るのだな。」他にもあります。例えばある製造業企業が受注生産する場合、期限に完全な製品を納めれば料金100%を受け取れるが、1日遅れたら90%の支払い、以降1週遅れると支払いも10%削減され、10週以上遅れるとペナルティーが課されるとします。このような場合には、ノルマやボーナスで釣るよりも、事情を説明した方が動機付けとなるでしょう。誰でもペナルティーの戦犯にはなりたくありません。


経営戦略の場合も同様のことがいえます。戦略を実行し成果を出す大切さ、あるいは出せなかった場合のことの重大性をしっかり説明することで、何よりの動機付けとなる場合があります。ビジョンの共有が大切なのです。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真は写真ACから mybear さんご提供によるものです。mybear さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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