「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第251回

雰囲気をマネジメントする必要性

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



現在のように変化が激しい事業環境にあっては「さっき決めたことを今、変えなければならない」という朝令暮改が発生する可能性があります。この状況に、どう対処すれば良いのか?以前なら「朝令暮改しないで済む意思決定を目指す」が正解だったかも知れませんが、今はそれでは環境変化に対応できない可能性があります。逆に朝令暮改に耐える組織を目指すのです。これを実現するために前回、雰囲気をマネジメントすることについてご説明しました。今回はそれを深堀していきます。



変化への対応能力3要素

「さっき決めたことを行うと、想定とは違う結果が出た。決定時にはまだ些細だったので織り込んでいなかった要素がいつの間にか大きくなり、結果を左右したらしい。微調整(あるいは大きく調整、更には方向転換の場合もあり得る)しなければならない」という事態が、今のような事業環境変化が激しい時には生じがちです。実行力のある企業ほど、このような状況に陥りやすいでしょう。では、朝令暮改を避ければ良いのか?それはせっかくの実行力を自ら放棄するに等しく、会社の良さや強さを弱めてしまうことに繋がりかねません。ここは、朝令暮改に対応する組織を目指したいものです。


変化への対応能力を考えると、それは3種類に分類されると考えられます。第1は物理的対応能力です。企業はこれまでの事業環境を前提に設備や機械、人材などを揃えています。事業環境が変化した場合に完全に対応しようとすると、これらの設備や機械、人材などを変更する必要が生じるでしょう。それへ対応するのです。一方で、事業遂行のために多大な設備・機械への投資が必要な産業・業種では、その自由度は限られています。


第2は仕組み的対応能力です。企業はこれまでの事業環境を前提に、社内や社外の仕組みを構築しているでしょう。社内の仕組みとしては例えば組織編成があり、同様の事業を行っている企業でもA社は地域別に事業部を設け、B社はサービス別に事業部を設けているなどと違いがあります。社外の仕組みとしては例えば販売網があり、C社は広く自社製品を卸しているが、D社は特約店制度を設けているなどと違いがあります。このように事業環境に応じて自社に適する仕組みを構築するのです。


第3は精神的(気持ち的)対応能力です。企業で働く人々は、自分の仕事や仲間との関係性、企業の方針や実績(成功・失敗体験)などをもとに「働く上での気持ち」を形成してきたでしょう。例えば規則が厳しく、違反すると厳しく責任を問われ、減給などの措置が行われている職場では、変化を恐れる精神性が育まれるでしょう。他方でルールはあるけれども上司や仲間と相談しながら新しい取組にトライし、成功すると取り入れていく職場では、変化を受け入れる精神性が生まれます。職場の「雰囲気」とは、企業のトップ・経営陣の考え方や職場で働く人々の気持ちの集合体と言えるでしょう。



短期的に効果を出せる精神的対応能力に働きかける

今挙げた変化への対応3要素のうち第1の物理的対応能力や第2の仕組み的対応能力は、比較的長期の取組になることはご理解頂けると思います。機械・設備や人材を事業環境変化に対応させるには、長期にわたるビジョンを描いた上で必要な資源を特定、投資・採用計画や回収計画を策定しながら行うことになるでしょう。仕組みを変える場合でも長期ビジョンを描いて将来に適切に対応できる社内・社外の仕組みを特定しながら行うことになるでしょう。加えて、職場の知財(暗黙知を含む)の伝承や、新しく必要になる知財の習得も取り計らわなければなりません。第1の要素と第2の要素は短期的には、変化への制約条件となると考えられます。


それでも事業環境変化に対応しようと「朝令暮改」を実行すると、どうなるか?最適ではない物理的資源や仕組み的資源の中で仕事することが求められるので、働く人々のストレスが高まります。そこに第3の要素として変化を恐れる雰囲気が充満している職場では、そのストレスは最高潮に達するでしょう。そもそも「変化してはいけない」という精神性を刷り込まれているのです。対応は絶望的だと言わざるを得ません。


逆に変化を受け入れる雰囲気がある職場では「朝令暮改」へのストレスは少ないでしょう。第1・第2の要素が制約条件となっていることで引き起こされるストレスも軽減されると考えられます。このように考えると、変化への対応能力は、短期的には精神的(気持ち的)対応能力にかかっていと考えられます。それに直接に働きかけるのが職場の雰囲気です。職場の雰囲気をマネジメントできるか否かが、変化への対応能力を左右するのです。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真は 写真AC から月舟さんご提供によるものです。 月舟さん、どうもありがとうございました。




 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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