「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第284回

巨大企業経営方針からの学び

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



最近ある大手流通業持株会社が計画する改革が話題になっています。巨大企業のケースですが、中小企業にとっても参考になるので、考えてみます。



組織と社名を変えるドラスティックな変革

10月10日、ある総合流通業持株会社が経営方針を発表しました。組織構成と社名を変えるドラスティックな変更です。

これまでコンビニエンスストアとスーパーマーケット等その他流通事業と金融事業を1つの持株会社が統括していましたが、スーパーマーケット事業や金融事業の統括は新設する中間持株会社に託すことにし、もともとの持株会社はコンビニエンスストア事業に集中することにしたのです。

社名も、今まではコンビニエンスストア事業に由来する名称とスーパーマーケット事業に由来する名称を掛け合わせたような名前でしたが、新社名はコンビニエンスストア事業を前面に出す名前になるそうです。コンビニエンスストア事業のテコ入れに乗り出す並々ならぬ意欲を感じられる改革でした。

一方でこの経営方針では、スーパーマーケット事業や金融事業等については新設の持株会社のもと、独自の財務規律を確立していく旨が発表されました。

確かにコンビニエンス事業とスーパーマーケット事業、金融事業その他の事業は、業績評価はもちろん、投資や組織体制、マネジメント等のあらゆる場面で違いがあります。今回の組織改編は、これに由来する混乱を避けたいとの意図だとうかがえました。

当該企業については過日、海外の同業者から買収を持ちかけられているとのニュースがありました。これを受け事業を固め企業価値を高めるため、今回の策が打ち出されたものと考えられます。



中小企業への示唆「遠慮の怖さ」

超巨大企業の経営方針がなぜ、中小企業にとっても学びとなるのでしょうか?今回の措置は、当該企業が事業を行う上での「遠慮」の怖さを認識したからではないかと感じたからです。同様の状況が中小企業にも発生している可能性があるため、教訓となるのです。

これまで当社はなぜ、一見するとカニバリズム(双方顧客の奪い合い)が生まれそうなコンビニエンス事業とスーパーマーケット事業を一つの持株会社のもとで運営していたのか?それはお互いの補完効果の方が会社(持株会社)としてはカニバリズムよりもメリットが大きいと考えたからではないかと思います。

両事業の取扱品目はかなりの部分が重複するので、商品開発や流通において両者を共通化することで、効率性の向上など大きなメリットがあったのではないかと考えられます。実際に双方の店舗において、共通の商品が並べられている姿を最近よく目にするようになっていました。流通業は過当競争にあるので、このメリットは大変大きなものであると考えられます。


ではなぜ、この企業は持株会社を分割しようと考えたのか?もちろん、持株会社を分割しても共通化によるメリットは温存できる工夫ができたのだと思います。その上で、違いのある両社を一元的に統括する不都合に注目したのでしょう。

先ほど申したように、大きく一括りに「食品と日常雑貨をメインとした小売業」と見ると共通項が多くとも、コンビニエンスストア事業とスーパーマーケット事業(その他の事業を含む)では、業績評価や投資、組織体制、マネジメント等の全てにおいて違いがあります。そこが問題だったと感じられます。


この中で特に「遠慮」に注目しました。先ほどコンビニエンスストア事業とスーパーマーケット事業の一元的運営で補完関係が生まれると言い、例として商品開発や流通の一元化を挙げました。しかし補完関係には他にもあります。

一般的に「補完」というと、一方の弱点を他方の強点でフォローすることを考えるでしょう。(これはあくまで例ですが)一方がどうしても伸び悩む理由が他方の躍進にあると考えられる場合に、強い方が躍進スピードを少し落とすなどのあり方も考えられます。

話題の企業にこのような事例が実際にあったかどうか、もちろん分かりません。「自然に芽生えてしまう互いへの遠慮を分割により排除したいとの思いがあったのではないか」とは、もちろん推察です。しかし同様の現象が中小企業にも生じている可能性があり、これを問題視した当社の取組は参考になると思われます。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

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なお、冒頭の写真は Copilot デザイナー により作成したものです。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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