「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第175回

「将来は現在の延長にある」を疑ってみる

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


もう何度も筆者が書き込み、皆さんも見飽きた状況だと思いますが、新型コロナウイルス感染症の蔓延が止まりません。8月後半からは、新生児や糖尿病を患っていた方などが入院できなかったがために亡くなってしまったという報道を目にしました。実際に、医療崩壊が始まっていると言わざるを得ません。このような医療現場でのあまりの惨状に目を奪われている間にも、実はいろいろな業種・業態、地域などで「産業崩壊」と言える状況も発生しています。このような事業環境下、企業は何を考える必要があるのか、考えようと思います。



復旧で良いのか?

これまでも日本には何度も産業に大打撃が襲ってきました。最近、特に増えたのは自然災害で、今年も豪雨が何度も発生、水没や土砂災害に見舞われた地域・企業があります。産業だけでなく生活、社会にも直接的な打撃を与えました。一方で、景気における大打撃も、最初は産業に影響を及ぼし、次第に生活、社会にも大きな影響を与えます。リーマンショックの大打撃を覚えている方も多いでしょう。このような打撃を受けた場合、企業も行政もまず考えるのが「復旧」です。以前に行なっていた産業活動、そして生活・社会基盤等を元に戻すという方向性は、とても自然な対応だと考えられます。


一方で今回のコロナ禍は、今まで経験したことのない打撃だと感じています。最初は中国武漢で発生した「対岸の火事」で、程なくして日本にも上陸しましたが、昨年までは疫病の危険性と経済への打撃を天秤にかけると対策が大袈裟だと感じる人も少なくなかったと感じます。しかし今は医療崩壊の現実を目の当たりにして、政府が及び腰なのに街の人たちの方が「ロックダウンが必要ではないか」と意見するような状況。ワクチン接種が進むまでこの状態がしばらく続くと、産業や人々の意識、そして社会に大きな変化を生じさせると考えられます。一時は一世を風靡したインバウンドも、世界中の人たちが旅行に行くどころではなくなった今、2019年の勢いを取り戻すには相当な時間がかかると考えられます。


このような状況の中、コロナ禍により経営上の大きな打撃を受けている企業経営者としては何を目指すべきなのでしょうか?筆者としては「何がなんでも復旧を目指す」あるいは「取組みとして、復旧しか視野にない」という対応はお勧めしていません。他の道も検討に入れることをお勧めしています。



復旧のリスク

そういうのは、復旧のリスクが高いと考えられるからです。一部の例外を除けば、今は皆、コロナ禍が過ぎ去って以前の状況に戻り、事業も業績も以前と同じように回復することを望んでいると思われます。「コロナ禍が過ぎ去る」期待は、当然です。しかし「以前と同じ状況に戻る」との期待にはリスクが生じる可能性があります。以前と同じ状況に戻らない可能性があるのです。そのため「以前と同じ事業を行い、以前と同じ成果が得られる」と期待することにも、リスクが生じ得ます。


このような状況下で「復旧」することには、非常に大きなリスクが伴います。復旧には費用がかかる、時には甚大な費用がかかるからです。それほどの投資をしたのに変化の程度が大きいと、その投資が無駄になる可能性があります。長引くコロナ禍によりキャッシュの流出が激しかった企業にとって、そのリスクは甚大なもの、企業の命運を左右するほどの大きさになりかねません。



今までとは違うビジョンを描く

ここにきて多くの企業経営者が、今までとは違うビジョンを描いています。「すごいな、将来は分からないのに。それとも彼らには世の中がどのように変化するのか、見えているのだろうか?」そのような経営者とて、将来が正確に見通せる訳ではありません。しかし彼らに聞くと「今までを継続しても事業の回復は望めない、失われたキャッシュを取り戻せないことだけは確実だ」と言います。例えばオフィス街の駅近に飲食店を構える経営者は「全ての要素を考えても、2019年末に訪れてくれたお客様(数)が数年で戻るとは考えられない」と言いました。彼らは新天地を求めているのではなく、危険からいち早く離れることを目指しているのです。


「どこに逃げるか分からすに行動するなんて蛮勇だ。」私はそうは思いません。彼らは大雨が降り頻る中、自分が川の中洲にいることに気が付き、すぐにそこから出る決断をしたのです。次に行く場所について、以前から決めていた既存事業から離れた事業を選んだ経営者もいれば、自分の土地勘が生きる事業を選んだ人もいます。しかし彼らのビジョンでは、そこは新天地ではないようでした。新しい事業で試行錯誤が必要との前提で、「次の新天地で楽をしている」ビジョンではなく、「次の新天地でもベストを模索している」ビジョンを描いているのです。コロナ禍が引き続く今、経営者にはこのような勇気が求められている可能性があると、筆者は強く感じています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真は写真ACから タマヤ さんご提供によるものです。タマヤ さん、どうもありがとうございました。



 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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