「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第102回

事業性評価が「事業改善評価」の場合

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



前々回そして前回で、事業性評価が進展するにつれて決算の意味合いは高まると予想されること、それゆえ税理士の力を借り、経営者も会計知識を身に付けるなどして適正な決算を目指す必要性について考えました。今回はもう一歩進めて、事業改善によって事業性を評価してもらう意味について考えたいと思います。 



事業性評価が「定性要因の評価」とは限らない

金融庁は昨年(2019年)12月、金融検査マニュアルを廃止して「中小企業の業績(定量要因)から機械的にスコアを算出し、一定以下の先には担保や保証が提供される場合に限り融資する」という「信用格付け」ではなく、「経営理念や経営戦略、従業員の能力・資質や知的財産などの定性要因にも鑑みつつ、企業の潜在的な稼ぐ力や将来性を評価する」という「事業性評価」にシフトするよう、金融機関に促しています。今まで赤字が続いた企業でも、事業改善して「稼ぐ力」を高めている企業は資金調達できる可能性が高まるのです。


こうお伝えすると、「金融庁は、決算書でもって融資を決めるやり方を否定したのだな。だから決算書は関係ないのだな」とお考えになる経営者・経理担当者の方がおられるようですが、このような考え方では落とし穴に嵌りやすくなります。それが「金融機関は今後、融資の可否を判断する時に決算書を重視しなくなる」との予想であれば、完全なる間違いです。「定性要因を調べて魅力的な要素があれば、決算書から判断すると『到底、融資できない』と思われる場合であっても融資する」という解釈も、成り立たない場合があります。「現在の決算書からすると『到底、融資できない』と思われる場合であっても、定性要因を調べると魅力的な要素があり、これが実を結んで近いうちにその効果が決算書に現れるビジョンに確信が持てる場合」に、融資可能と判断できる場合があるのです。


例えば「技術力をアピール」すれば伝わる場合

「なんだ!我が社の優秀な技術力をアピールすれば融資が得られると考えていたのに」はい、技術力のアピールで融資が得られる企業もある一方で、それだけでは融資が受けられない企業もあると考えられます。


例えば、信用格付けでは「正常先」に今一歩届かなかったのが原因で「プロパー(信用保証のない)融資は難しい」と判断された企業があるとしましょう。得意先の廃業で売上が減少、赤字となった場合などが考えられます。このような企業なら「我が社の技術力はピカイチで、今までも取引を申し入れる企業がいくつもあった。前期は得意先が廃業したことで赤字化してしまったが、今期は申し出があった企業と取引を始めることで、前々期並の売上・利益を回復できる」と伝えることで、「予測に無理はない。この会社には事業性がある」との納得が引き出せるかもしれません。



「事業改善評価」が必要になる場合

一方で、得意先の廃業などの突発事項がない中で、もう数年に渡って赤字となっている企業であれば、技術力をアピールするだけでは不足だと考えられます。技術力があるにもかかわらず今まで売上・利益が低迷してきたのなら、「今後は違う展開となる」と伝えても、納得を引き出すのは難しいのです。


「なんだ、赤字が続いた企業などは、事業性評価でチャンスが掴めると言うのはウソなんだな。」いえ、それは違います。優れた技術力などの定性要因をアピールするだけでは融資には繋がらない場合には一歩進んで、例えば「技術力でもって素晴らしい製品を実現、その結果として売上が増え利益が向上すると予想され、企業体質が改善して返済能力が高まるとのビジョン」を示すことで、融資を受けられる可能性が出てきます。


「ビジョンと言われても、どうやって示せば良いのか?」それを示すのが事業計画書です。「予想収支(損益計算書)や予想貸借対照表のことか?」はい、その通りです。「我が社の優秀な技術力により、どれだけの売上・利益を増やせるか、結果として会社はどんな体質に生まれ変わるのか」というビジョンを、言葉で述べるだけでなく、予想収支(損益計算書)や予想貸借対照表として示して「見える化」して下さい。


「それで信じてもらえるのか?」それは、「売上・利益や体質改善の実現のため我が社は何をするのか」に関する丹念な説明があるか否かによります。充実した戦略計画やアクションプランを含む事業計画書があれば、「なるほど、この会社は○○○の取り組みで生まれ変われそうだ。その可能性が高いので、今、『事業性がある』と判断できる」と判断される可能性があります。


以上のように事業性評価には「定性要因の評価」だけでなく「具体的な取組みを前提に、将来の事業性を今、判断してもらう」という側面もあります。これが、資金調達が難しかった企業に道が拓ける構図なのです。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

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なお、冒頭の写真は写真ACからfujiwaraさんご提供によるものです。fujiwaraさん、どうもありがとうございました。




 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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