「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第67回

情報を隠すか、開示するか

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 「会社の情報」というと「秘密にしなければ」という感覚が経営者の皆さんには強いのではないかと思います。確かに「他では出せない味の出し方」や「自社だけしか実現し得ない加工技術」、「競合相手から抜きん出る新製品開発」などの情報は秘密にしなければならないでしょう。


 一方で、秘密にしない方が良い情報があると思われます。というか、秘密にしないで開示できるようにすればするほど、会社のメリットになるという情報です。それは何か?財務情報です。「そんな、身体検査の結果を公開するようなものではないか。究極のプライバシーではないか」そうお感じの方も、おられるでしょう。一般的な感覚では、それが常識かもしれませんが、長年の経験からすると、情報開示した方が企業にとってメリットを享受できることが少なくありません。今回はこの点について、考えてみましょう。



財務数字を開示する

 「会社にとってのプライバシーである財務数字を公開するだなんて、考えられない」と言われる社長さん、多いと思います。実際、公開できない事情がある会社もあるでしょう。それも前提の上にしながらも言えることは、「会社の財務数字を公開できるように体制固めすることは、会社そのものを強くすることにつながる。結局は、会社にとってメリットがある」ということです。


 「それは嘘だろう。会社の決算は、会社がこれまで積み重ねてきたノウハウの集積だ。それを見たら会社の秘密がバレてしまう。」そう仰る社長さんもおられます。しかし、会社の秘密は(よほど特殊な業種・業態について、見る人が見なければ)決算書を見ただけではわかりません。一方で、中小企業にとっての支援者は、それを行うかどうかを多くの場合、決算書を見て判断しています。つまり、情報開示する企業が、支援を受けられるのです。



金融機関による支援・その他による支援

 決算書を見て支援の可否を判断する最右翼は金融機関です。ご存知の通り金融機関に融資を申し込むと、概ね3カ年度分の決算書を提出するよう依頼されます。断ると融資を受けることはできません。情報開示が絶対条件なのです。また、提供する情報が限定されたり法律・公的規定に外れた修正(俗に「粉飾」と呼ばれる操作です)がなされていると融資が受けられなくなる場合があります。単なる情報開示ではなく正確な情報開示が求められているのです。 


 融資ではなく社債という方法で支援を得たいと思うと、融資の時以上の詳細さ、正確さで情報開示するよう求められます。株式公開により一般投資家から資金を集めたいと思う場合は、それ以上です。このように、情報開示をすればするほど、その内容を詳細・正確にすればするほど、得られる支援は大きくなります。



金融以外の支援を受ける

 金融支援を受けるには情報開示が必要ですが、支援は経営支援だけではあります。売上やコストダウン、従業員教育などの「経営支援」の場面でも、情報開示すればするほど、広範囲な、的確な支援が受けられるようになります。 


 中小企業診断士として筆者が企業支援を行う場合にも、決算書が出発点になります。「そんな、会社について一番知っているのは経営者だろう。経営者の求めに応じて支援してくれるだけで良いのではないか」という声が聞こえそうですが、実際には、そうはいかないことが少なくありません。大怪我をしている人が「痛い!麻酔を打ってくれ!」、「出血した!輸血してくれ!」と言っても、医者は止血を優先するでしょう。企業にも、そのような場面があります。企業がどのような状況にあるのか、正確に知る一番良い方法は、正確に作られた決算書を見て判断することです。 


 正確な決算書を拝見することにより、中小企業診断士は、企業をさまざまな側面から把握することが可能になります。会社がうまく立ち回らなくなった時に経営者は「あれもしなくてはならない、これもしなければならない」と思いつくことをどんどんと行っていき、収束がつかなくなることが少なくありません。逆に、やらなければならないことが多すぎて、全く手を動かすことができない経営者もおられます。このような場合には、優先順位をつけながら対処していくことが肝要ですが、その客観的な判断基準になるのが決算書、つまり開示情報です。実際、会計についてのしっかりとした情報開示がなければ、第三者からの適切な支援は不可能だと言っても過言ではありません。



支援に見合った情報開示

 「情報開示をしろというけれど、一度それに応じると『あれも教えて欲しい、これもどうだ?』と際限がない。だから最初に断っておくのだ」と仰る社長さんもおられます。実際、例えば借入時には詳細な情報の開示を求められる場合があり、社長さんが「またか」と感じるお気持ちは理解できます。他方で、金融機関に長年勤めていた経験からすると、金融機関が情報開示を求めるのは「この会社を支援したい」という気持ちから出ていることが多いのです。支援の方向性で金融機関内で相談をしている時、一方で預金者からの大切な資金を貸倒させる訳にはいきませんから、「こういう観点では、大丈夫だろうか?」というポイントが見えてきて、それに納得する材料が欲しいので、次々と情報開示を求めるという構図です。 


 以上のように考えると、情報開示できる体制を整えていくことこそ、中小企業のメリットになります。時には大変に思えることもありますが、取り組む価値のある課題です。是非とも前向きに、取り組んでみてください。 




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。また、コラム(本欄)ではコンパクトにまとめたStrateCutionsからのご提案についても、各項目をしっかりとご説明しています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。


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プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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