「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第80回

金融円滑化法利用企業が待っている

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 4月に入り新年度が始まりました。税理士の皆さんは3月決算企業への対応が本格化する時期で、まさに正念場と言えます。そのような時期ですが、そういう時だからこそ、税理士の皆さんに銘記してもらいたいことがあります。皆さんの顧問企業にもいるかもしれない、金融円滑化法利用企業についてです。これら企業が皆さんの支援を必要としている可能性があります。 

金融円滑化法とは

 金融円滑化法とは何か?税理士の皆さんには必要はないと思われますが、この記事を読んでおられる中小企業の社長・経理担当の皆さんのためにも、簡単に復習しましょう。正式には「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」といい、リーマン・ショックによる深刻な不況から資金繰りが厳しくなった中小企業を守るため、要望があれば金融機関は返済猶予するよう規定した法律で、2009年11月に成立、当初は2011年3月までの時限立法とされました。2度の延長を経て2013年3月に終了しましたが、金融庁としてはその後も中小企業から返済猶予の要望があれば対応するよう金融機関に要請しています。 

 2011年3月までの1年間には約128万件(借入口数)の猶予が実施され、利用企業は約30万社と推算されていました。2018年3月までの1年間は約78万件が実施され、単純計算すると今でも18万社を超える「金融円滑化法利用企業」が存在することになります。

金融機関(1,353社)における貸付条件の変更等の状況

 付言すると政府は、中小企業の新規資金調達についての支援として信用保証協会による「緊急保証制度」も創設し、2008年10月から2011年3月までに約150万件、約27兆円が利用されました。

リーマン・ショック後の中小企業金融支援策


事業性評価へのシフト

 このような中、金融庁は本事務年度(2019年7月開始)から「金融検査マニュアル」を廃止することにしました。これまで金融機関は金融検査マニュアルに基づいて「債務者格付け」に基づいて融資判断することが求められてきました。しかし今後は「事業性評価」すなわち企業の事業継続・発展可能性を鑑みて融資判断するよう、促されることとなったのです。 

 これは、金融円滑化法利用企業にとって大切なポイントになると、筆者は考えています。もともと金融円滑化法では、活用にあたって事業計画書などに基づく改善努力がなされて返済正常化を目指すことが期待されていました。もちろん計画通りに進捗しなかったとしても、金融円滑化法企業を責めることはできません。但し、全ての中小企業に対して事業性を評価するよう期待される時代に、金融円滑化法利用企業に対しては「今までも条件変更したので、今回も(事業計画書の策定や、その進捗報告なく)条件変更に応じる」と金融機関が判断するなら、他企業への姿勢とバランスが欠けると言われても仕方ありません。

 こう考えると、今年7月に金融検査マニュアルが廃止された後は(徐々にではあると思いますが)、金融円滑化法利用企業(特に事業計画書通りに進捗していないなど形骸化していると言わざるを得ない企業)に対しては、事業計画書の見直しやその実現に向けてしっかりとした取り組みを行うことが求められるのではないかと考えられます。それを評価することで、金融機関にとっても、金融円滑化法利用企業へ支援を継続する理由が納得できるという構図が成り立つのです。


事業計画書の大切さ

 以上から、金融円滑化法利用企業が事業性評価の時代においても金融機関から継続的に支援を受けるに当たっては、事業の改善が見込まれる事業計画書を策定して実施することがポイントになることが、理解できるのではないかと思います。一方で、継続するデフレなどの苦しい事業環境下において将来を見通する事業計画書を策定することは、中小企業にとって、簡単なことではありません。専門家の支援が必要です。 

 そこで活躍が期待されているのが、お金の専門家で、常時企業の状況を把握している支援者でもある顧問税理士です。金融行政の変化により資金調達環境が大きく変わりつつあることや、それに対応するために事業計画書の策定が有効であること、顧問税理士として支援が可能であることを伝えることにより、顧客企業からの信頼感をより深めることができるでしょう。

 税理士の皆さん。3月決算を迎える金融円滑化法利用企業がいれば、是非、決算説明のタイミングで、今後に望まれる取組みを伝えてください。「事業計画書?面倒臭いな」と考える経営者は少なくないでしょう。しかし、いやだからこそ、中小企業の最も身近な支援者である税理士が真に活躍できる場面と言えます。



<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

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プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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