「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第237回

事業再構築補助金が採択されない理由

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



年末を迎え、今年の振り返りを行いたいと思います。コロナ禍やロシア・ウクライナ戦争による景気の失速、急激な円安などにより「今までの事業を続けたのでは将来が見通せない」と考える中小企業の事業転換等に向けた斬新な取組を支えるため政府は「事業再構築補助金」を用意しました。既存の補助金は実績ある事業の推進等を目的とする中、この補助金は新たな取組への支援であること、補助額が飛躍的に高額であることなどで話題となりました。そして多くの企業が事業再構築補助金を活用して業種転換等を行い、血路を拓いてきました。


一方で「何度申請しても採択されない」と困っている企業の声を聞くこともあります。ものづくり補助金等の採択経験ある企業でも、同様の声を聞くことがあります。今回は、その原因と対策について考えてみましょう。



企業がアピールしたい点

なぜ、ある企業にとって事業再構築補助金は採択され難いのか?その理由は「従来の補助金は、実績ある事業を推進させるための補助金」だが、「事業再構築補助金は『新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編』という、企業が今行っていない事業を始めるための補助金」である、との意味合いを踏まえ難いことにあります。


企業再構築補助金を採択されない企業経営者の声を聞いていると、その多くが「新たに始める事業のユニークさを自慢する」、あるいは「新たに始める事業が、今までの事業との関係で合理的であることを説明する」ことが多いと感じます。前者は「新たな事業は、現在不調な事業とは似ても似つかないもの(例:最近流行りの商品を扱う・顧客に人気の生活観にマッチしている)なので、有望であるはずだ」、後者は「新たな事業は、現在不調な事業の良いところ(例:固定客・熟練の従業員)を残しつつ新たな取組を行うものなので、有望であるはずだ」という考え方をベースにしていると考えられます。


「その何が悪いのか?」はい、前者についても後者についても、その意見を持つこと自体が悪いと言っているのではありません。発言が、各々の意見止まりであることに問題があると言っているのです。



補助金が「支援したいこと」

事業再構築補助金は何を目的としているのか?「当然だろう。中小企業の事業再構築、つまり『新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編』推進の支援だ。」残念ながら、その答えは間違っています。事業再構築補助金の目的は、中小企業がコロナ禍など未曽有の苦境にある中で、『新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編』を行うことで持続化し、さらには発展・繁栄することの支援です。


「大した違いはなさそうだが。」いいえ、大違いです。前者だと「新たに始める事業のユニークさ」あるいは「新たに始める事業が、今までの事業との関係で合理的である」ことが評価され採択が判断されると考えられますが、後者ではそれに加えて「それらの策により利益を得、企業として立ち直れると期待される」ことが評価され採択が判断されると考えられます。


以前の記事(第208回)でポイントをまとめました。

https://www.innovations-i.com/column/sme_fs/208.html

① これまで当社で試みたことがない試みである(新規性)

② 地域・市場・商圏で際立つことができる(ユニーク性)

③ チャレンジングだが取組に着手・継続が可能(実行性)

④ 業績改善可能と合理的に期待できる(計画合理性)

⑤ ゴール時期には期待した成果をあげられる(実現性)

⑥ 想定リスクに対策・対応できる(リスク耐性)


以上から、事業再構築補助金に採択されないと困っている企業の多くが①と②に集中し、③以降に関心を払っていないことが分かると思います。


しかしポイントは新事業で儲かること(事業性)にありますから、③以降が重要です。これらを丁寧に文書化する、つまり「取組が顧客に受け入れられ、売上・利益に繋がる確実性が高い」ことを明らかにする分析や、実際に事業再構築を実現して売上・利益をあげるための措置を行っていくアクションプラン、そして企業が持続化・活性化・繁栄できることを示す数値計画を、しっかりと立てる必要があります。


「確かに今まで①と②だけに着目した計画となっていた。③から⑥までしっかりと検討した計画を策定したいが、一人では難しい。誰かと相談したい」と思われるなら、地域の「よろず支援拠点」あるいは取引金融機関等にご相談ください。StrateCutionsでもご相談に乗っています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>





なお、冒頭の写真は 写真AC から craftbeermania さんご提供によるものです。craftbeermania さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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