「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第27回

日頃のコミュニケーションで貸し剥がされない企業になる

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
金融機関について「晴れの日に傘を貸してくれて、雨が降ったら傘を取り返そうとする」という批判があります。そう言われる方のお気持ち、非常によく分かります。時にはそれが中小企業にとって、とても重大な結果に繋がることも、何度も目にしてきました。

しかし、批判しても前向きな教訓は得られそうにありません。なので敢えて「金融機関とは、そういう存在なのですよ。ご自分がその立場だったとしても、同じようにされるでしょう」と申し上げる時があります。それを考えることによって、貸し剝がしされない企業になる方法が分かると思うからです。


借金を元手に融資する金融機関

金融機関は「お金のなる木」を持っていて、そこで得られるお金を貸している訳ではありません。金融機関が融資をする原資は「預金」です。ちなみに、この預金が金融機関の決算書ではどこに計上されているかといえば、一般の会社では貸付金が計上されている欄です。金融機関は、借金で集めたお金を貸すことを商売にしているのです。

みなさんが、もし、友人にお金を貸さなければならなくなったとしましょう。それも自己資金では貸せないので、自分が借金して得たお金を貸さなければならない場合です。相手の事業が順調な時には安心できますが、調子が悪くなったら回収したくなることでしょう。自分の業績があまり良くない時にも回収したくなると思います。「借金して得たお金を貸す」ことを仕事にしていると、「晴れの日に傘を貸して、雨が降ったら傘を取り返そうとする」メンタリティになるのは当然なのかもしれません。


回収したくなるか・ならないかの違い

一方で、このように考えると、何が何でも回収したくなる相手はどんな相手か、「この相手なら少し様子を見てみよう」と思える相手はどんな相手か、考えられるようになると思います。音信普通の相手からは回収したくなる一方で、普段から連絡を密に取っている相手だと「少し様子を見てみよう」と思うのではないでしょうか?

「そう言われても、どうやったら金融機関と連絡を密に取れるのだろう?」そう思われる方は多いと思います。一番簡単な方法は、財務報告に行くことです。年一回、決算書を持って行くのはもちろん、半期、四半期と回数を増やしていくことができます。試算表なら、毎月に報告することができます。


誰のために報告するのか

「毎月だって?そんなことをしている暇はない。特に売上が落ちている時などは、そのフォローで大変なんだ。金融機関を訪問するとなると、訪問する時間がかかるだけでなく、資料を作ったり、金融機関の質問に答えられるよう準備する時間もかかるだろう。そんな時間、もったいない」そうお考えになる経営者も、おられるようです。

そのような声には「でも、回復力の強い企業の経営者は、我が社の現状を見える化する資料を作ったり、なぜ売上が下がったのか、これからどうフォローするつもりなのかを時間をかけて検討していますよ。金融機関を訪問すれば、自然とそのような資料作りや検討を行うことになります」とお答えしています。つまり資料作りや検討は、金融機関のためというよりも、実は自分のためと言えます。

金融機関が「晴れの日に傘を貸してくれて、雨が降ったら傘を取り返そうとする」のは、中小企業としては、とても悔しいことだと思います。実際、それで経営に決定的な打撃を受けることさえあります。一方で、恨み言をいえば事態が改善できる訳ではありません。金融機関がそういうメンタリティを持つのは仕方のないことだと考えて、それに適した対応をするのが適切な方法ではないでしょうか。

日頃のコミュニケーションを密にしていれば、雨の日に傘を回収される可能性を低めることができます。決算書や半期・四半期決算、もしくは試算表をもって金融機関を訪問するのです。そのための準備時間は無駄ではありません。実は、経営者が自社を冷静に見つめ直すきっかけとなってくれるのです。


付き合うべき金融機関を選ぶ

この方法には、もう一つのメリットがあります。付き合うべき金融機関を選べるようになるというメリットです。同じように決算・試算表の報告に行っても、金融機関の対応に差が出る可能性があります。ある金融機関は雨の日でも以前ほど無理矢理に傘を回収しようとはしなくなるかもしれません。一方で、以前と同じように回収しようとする金融機関もあるかもしれません。

そのような特性が分かれば、今後は我が社に親身になってくれる金融機関との付き合いを厚くし、そうでない金融機関とはほどほどにしていくことができるでしょう。このように能動的に金融機関と付き合うことが、「賢い借り手」になる第一歩なのかもしれません。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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