「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第108回

特別貸付・特別保証で減額される理由

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



新型コロナウイルス感染症による景気の大ブレーキに対応するため政府は、日本政策金融公庫(以下、「日本公庫」と言います)による特別貸付や信用保証協会による特別保証を実施しています。

一方で「申し込んだ金額を満額、融資してもらえなかった」との話を聞くこともあります。企業としては、コロナ禍を乗り切るために資金調達しようと思ったのに、期待した金額を調達できないのは、経営面でも心理面でも大変なショックです。今日は、特別貸付・特別保証においても減額されるのはなぜなのか(全ての案件をフォローできているとは思いませんが)考えてみます。


既存借入と合算されて限度額が算定されている

申込金額から減額される第1の理由は、今回借入について既存の借入残高と合算して限度額が算定されることです。日本公庫の「新型コロナウイルス感染症特別貸付(新設制度で限度額6千万円)」は、最近1ヵ月の売上高が前年または前々年の同期比較で5%以上減少した方が利用できるます(業歴が1年1ヵ月以上の企業)。

現在は売上減少が5%に満たなくても今後の減少が見込まれる場合には「セーフティネット貸付」が要件緩和により利用できますが、もし既にセーフティネット貸付を活用していた場合には、限度額は既存借入と合算されます。例えば国民生活事業の限度額は4千8百万円ですが、既借入分の残高が3千万円あった場合、3千万円で申し込んでも限度額に収まるよう1千8百万円に減額されます。

このような状況ならば、今は「セーフティネット貸付」を利用して1千8百万円を調達しておき(金利減免特典なし)、1ヵ月の売上高が5%以上減少した時に改めて「新型コロナウイルス感染症特別貸付)」を申し込むことができます。資金繰りに余裕があり近いうちに1ヵ月の売上高が5%以上減少することが確実ならば、その時まで待つことで、調達金額の全額について金利の減免特典が受けられます。

信用保証協会においても同様の現象が生じる可能性があります。「危機関連保証(新設制度で限度額2.8億円)」は売上高が前年同月比15%以上減少した方が利用できますが、それほどの減少がないのでセーフティネット保証5号(売上高5%以上減少)を利用した場合、既存の借入と合算されてしまうのです。


必要金額の説明が不足している

申込金額を減額される第2の理由は必要金額の説明が不足していることです。金融機関(日本公庫・信用保証協会を含む)は借入の申し込みがあった場合に、そのお金をどのように使う予定なのかをチェックすると共に、各々が定めたルールでもって妥当と思われる貸出金額を決めています。よく耳にする「月商の3ヶ月分」は代表的なルールですが、資金使途によっては別の算出式等を用いて算出する場合もあります。

例えば公庫の利用が初めての企業が月商の6ヶ月分かそれを超えるような金額を申し込んだ場合、公庫は「本資金をどのように活用しますか?(言葉は、担当者や対象企業の状況等によって異なる可能性があります)」と質問するでしょう。その質問に対して「当分の間、売上が減少すると予想されるので、その備えとして必要と考えた金額です」と答えたら、減額される可能性が高いと思われます。公庫にとって、ルールを超える金額を認める妥当性が、その説明からは分からないないからです。

このような質問があったら是非、しっかりと計算して導いた必要金額を説明して下さい。例えば「当社は6人のエンジニアを抱え、事務所を賃借しているIT企業です。現在はほとんど仕事がなく夏頃に回復基調となり、秋頃に完全回復すると仮定すると、その間のエンジニア給料と家賃等を払い続けなければなりません。また仕事が完全回復しても売掛金を回収できるのは数ヶ月後です。このため今年一杯の固定費分を運転資金として確保する必要があると判断して申し込みました」と説明すれば、納得してもらえる可能性が高まります。できれば書面にして手渡すのが良いでしょう。


理由を聞いて対応する

申込金額を減額されて「わかりました」と言いながら帰ってから「困ったなぁ、これでは足りない」と言われる声を聞くことがあります。そうではなく、ぜひ減額理由を質問して対応を考えて下さい。妥当な理由を明確に説明すれば、事態を打開できる可能性があります。

「理由を聞いて第2の理由と分かったが、どう説明すれば良いのか分からない。」それなら是非、貴社をよく知る顧問税理士に相談して下さい。StrateCutionsでも、ご相談に乗っています。必要資金をきちんと調達して、この荒波を乗り越えましょう!

(StrateCutions連絡先)

https://www.innovations-i.com/shien/contact/13509.html



<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>

なお、冒頭の写真は写真ACからacworksさんご提供によるものです。acworksさん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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