「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第243回

「コロナ借換保証が利用できない企業」に思うこと

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



令和5年も早くも2月半ばとなりました。個人事業者にとっては確定申告の時期、12月決算の法人企業も決算申告に向けて気を使う作業を進めているところだと思います。「できあがった決算書でもって資金調達しなければならないが、大丈夫だろうか?」とお考えの経営者も少なくないでしょう。今回は今年から始まった「コロナ借換保証」について考えてみることにします。



コロナ借換保証

4年目に突入したコロナ禍による影響や物価高など厳しい事業環境下にある中小企業の中には、事業改善や事業再構築などに取り組む必要に迫られる一方で、売上・収益不足を補うため積み上げてしまった債務の返済負担に喘いでいる企業が少なくありません。このため政府はコロナ借換保証を創設しました。この制度は、ゼロゼロ融資などのコロナ特別保証だけでなく他の保証制度を利用した借入も含めて借り換えて返済負担を軽減できるだけでなく、新たな資金需要にも対応できる制度です。


<コロナ借換保証の概要>

保証限度額:1億円     保証期間:10年以内

据置期間 :5年以内    金利:金融機関所定

保証料(事業者負担):0.2%等 (補助前は0.85%等)

要件   :売上または利益率が5%以上減少など

https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/sinyouhosyou/karikae.html


要件を満たした中小企業者は、金融機関と対話して「現状認識」や「財務分析」、「計画終了時点における将来目標」、「具体的なアクションプラン」そして「収支計画及び返済計画」を盛り込んだ「経営行動計画書」を作成、金融機関による継続的な伴走支援を受けることを条件にコロナ借換保証を利用できることとなっています。



利用を勧められながら断られたケース

この制度の創設間もなく、知り合いの中小企業経営者から「金融機関からコロナ借換保証利用の打診があった」との連絡がありました。地域の製造業者を顧客とするこのBtoB企業は、コロナ禍で売上・利益が激減したのでコロナ特別融資・保証等を活用して会社を持ち堪えさせていました。しかしコロナ禍が引き続いて顧客企業の操業度が戻らなかったので「早期経営改善計画」を策定して必死の努力を行っていた最中でした。打診があった時、「努力が報われた」と安堵したとのことです。


しかし社長の期待は大きく裏切られました。コロナ借換保証は利用できないと判断されたのです。



従前制度を利用して制度設計する落とし穴

この企業はなぜコロナ借換保証を利用できなかったのか?「売上または利益率が5%以上減少など」の要件を満たしていなかったからです。「早期経営改善計画」を策定して必死に努力していたので、売上は増加、利益率も向上していました。


この企業が「売上・利益率が改善したので資金繰りは円滑化した。もともと制度を利用する必要はなかった」と言えるなら問題はありません。しかしこの企業は増加したものの売上はやっと損益分岐点に届くか届かないかの程度、返済負担が厳しいことには変わりありません。


「資金繰り円滑化が必要な企業がなぜ利用できないのか」との意識で改めて制度を見直すと、問題点が見えてきます。セーフティネット保証などの売上・利益率減少要件は「経済状況が常態から悪化した」タイミングでは機能しますが、「経済状況が長らく底を這い、企業は疲弊の極みにある。景気が少し上向いても危機を脱した訳ではない。持続化や業容拡大のために資金繰りの円滑化や新規資金調達が必要である」タイミングでは上手く機能しないのです。


確かに「景気は上向いているものの、その恩恵に与れない」企業は支援できますが、「景気上向きの波に乗り、あるいは強い意思で自助努力したため売上・利益率が向上しているが、資金繰りは依然として厳しく、成長には追加資金も必要」な企業を排除してしまいます。その裏では(あまり想定したくありませんが)「景気改善に乗る努力をしたら効果が現れるはずなのに、努力していないので売上・利益率は今も低下している」という企業は掬われることになっています。


信用保証などを利用した中小企業向け金融制度を設計する時、従前制度の利用は良くないと主張するつもりはありません。しかし、現在に中小企業の直面する状況が、従前制度が想定する状況と異なるなら「その活用だけで良いのだろうか?掬うべき企業が排除されるのではないか」との問題意識を持つ必要があると思われます。現場で起きている事象から、このことを強く感じました。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は 写真AC から メイプル555 さんご提供によるものです。メイプル555 さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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