第264回
政策転換期も生き抜く会社になる
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫

今、中小企業の金融環境が大きく変化しつつあるようです。前回、金融庁が中小企業支援の軸を資金繰りから再生支援にシフトする方向性にあるとお伝えしました。これは「融資が可能になるエスカレーターを金融機関が準備する」という意味合いではないと筆者は解釈しています。支援に乗って事業改善等に努力する企業と他力本願な企業が峻別される可能性があるのです。今回もこのことを深堀して考えていきます。
金融機関に「損失を覚悟した抜本策」を求めるとは
2023年11月26日の日本経済新聞第1面に、金融庁の金融機関向け監督指針が2024年春に大きく改正され、金融機関が行うべき中小企業支援の軸が資金繰りから再生支援にシフトすると示唆する記事が掲載されました。その中で筆者が注目したのは「一定程度の損失を覚悟したうえで抜本策に乗り出す」という表現です。
この表現は「企業再生に必要なら金融機関も債務放棄など損失の出る支援に取り組んで欲しい」との趣旨と考えられます。社内一丸での懸命な経営努力が実り業界内でも目覚ましい利益が出せる企業になったが、過去に背負った過大な債務の返済にキャッシュが流出するので財務体質は脆弱だったところ、取引先倒産のあおりを受けて資金繰りに窮する企業等へは債務免除して持続化を手助けして欲しいとの趣旨と考えられます。金融機関にとって地域や産業の持続・振興が不可欠なことを考えると合理的な判断と言えるでしょう。
一方でこの表現にはもう一つの解釈も可能と考えられます。先ほど経営改善に尽力する企業を考えましたが、ないがしろにする企業にはどう向き合うか。従来は倒産防止を目的とした追加資金融資の打診に「断る訳にはいかない。例え自行庫の不良債権が増えると分かっていても、自行庫が倒産の引き金を引いたと謗られるのは避けたい」との姿勢で対応した場合もあると考えられます。しかし改正される監督指針では、この姿勢は否定されるかも知れません。自助努力しない企業には貸倒を敢て発生させ、不良債権の増加を防止する方向性で考えるよう促す方針とも受け止められます。
実は中小企業政策と協調した動き
「『損失を覚悟した抜本策』に、債権放棄して中小企業を支えるとの意味合いと、今まで認めていた(半分なあなあと言えるかもしれないが、中小企業の倒産を避ける目的の)融資を認めないとの意味合いの両方があるとの指摘は訳が分からない。矛盾している!?」
それは中小企業視点だからです。金融庁は「金融機関に是が非とも中小企業を支援させる」役割を担う役所ではありません。「金融機関に是が非とも健全な経営をしてもらう」役所です。このため金融庁の監督指導は「債権放棄して中小企業を支援した方が金融機関の経営に資するなら積極的に行って下さい、今まで継続してきた支援にピリオドを打つ方が経営に資するなら、そうして下さい」との趣旨に解釈できるのです。
「そんな!中小企業に味方する役所はないのか?!」経済産業省・中小企業庁がその役割を担っています。これらの支援方針は、既にご説明しました。2023年9月に経済産業省は「経済環境の変化を踏まえた資金繰り支援の拡充」と「中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジの総合的支援」を2つの柱とする「中小企業活性化パッケージNEXT」を発表しました。
https://www.innovations-i.com/column/sme_fs/257.html
以上から「中小企業支援の軸を資金繰りから再生支援にシフトするように」との金融機関監督方針は、中小企業向け政策に整合した動きを取るよう金融機関に促すものだと解釈できます。金融機関の「自行庫の財務状況を健全化する」という強力な動機付けでもって、中小企業の事業改善・再生に貢献するよう、力を込めて声掛けするよう、促しているのです。
これらの誘導(圧力)により金融機関は、事業改善や再生に消極的な中小企業には「これ以上の融資よりも、貴社には事業改善が必要と思われる」とはっきりと伝えるようになる可能性が高いと思われます。記事にも企業の危機感が薄い場合は経営悪化の予兆段階で金融機関主導の事業再生に踏み込める案が示唆されていました。
「我が社も事業改善に本腰を入れよう。誰かに相談したい」と思われたら、よろず相談窓口・金融機関にご相談ください。StrateCutionsもご相談に乗っています。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。
なお、冒頭の写真は 写真AC から 78design さんご提供によるものです。78design さん、どうもありがとうございました。
プロフィール
落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。
平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。
現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。
【落藤伸夫 著書】
『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions