「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第286回

資金調達から事業改善への決心に繋げる

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



もう11月、今年も1か月半を残すばかりとなりました。「そうか、来月には年末の資金調達だ」とお考えの経営者も多いことでしょう。筆者は一部の経営者の皆さんに、前倒しで資金調達の手続きに入るようお勧めしています。「いつものように」いかない可能性があるからです。



いつもより返事が遅れているケース

事業性評価支援士協会に寄せられた事例からご説明しましょう。ある事業性評価支援士協会員が、自分の顧客企業に早めの資金調達を勧め、実際に申込みを行ったそうです。しかし金融機関からの返事がいっこうに返ってきません。

経営者に状況を聞くと「残高試算表を依頼されたので送ったが、それきり返事がない」とのことでした。経営者は「今までこんなことはないのに」といぶかりながら「年末まで時間があるから大丈夫だ、このような事態を想定して、早めの申込みを勧めてくれたのだな」と解釈している様子だそうです。その推察は当たっていますが、筆者としては楽観視できません。


そう考えるのは、この企業の状況を聞いたからです。当該企業は新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けて売上・利益を減らした後、今でも以前の業績に完全には戻せていないとのこと。売上はあともう少しの水準まで回復できましたが、諸物価の高騰から粗利益が低減、損益分岐点が上がってしまい黒字化できないのです。

当該企業は既存債務の一本化を受けるために事業計画を策定し今年が計画1年目、通年で赤字の計画ですが、既に経過した月で計画を超える赤字額を出しており、今後も赤字幅が拡大するトレンドと解釈せざるを得ません。


このような状況下、当該企業にはもうひと息の売上増大のため、新規開拓と値上げの両方が必要と考えられます。これにどのように取り組んでいるのか?聞いてみると、新規開拓については「営業マンが定年退職で欠員、人手不足で補充できない。もう一人、現場の渉外マネジャーも退職、その職を社長が担当しているのでトップ営業もままならない。社長が片手間で新規開拓するのが精一杯だ」との姿勢だそうです。訪問先リストは作成しましたが、それらへアプローチをかけていないのです。

価格については、今は赤字受注の状況です。売上増大により損益分岐点を超えられないなら値上げして黒字受注に切り替える必要がありますが、値上げについても「利益が確保できる水準まで値上げすると顧客が逃げるかもしれず、怖くて切り出せない。見積価格を少しずつ値上げしているが、利益へのインパクトはほとんどない。新規開拓できて手一杯になってきたら値上げする」と言っているそうです。


結局「従業員が数人雇えるまで、何もできない」という思考に自ら追いやっている形です。



事業改善を決心して再度トライする

この場面で「今年の冬は、資金調達を前倒しで取り組んだ方が良い」との意味を考えてみましょう。「ある金融機関で不首尾だったら、別の金融機関にアプローチする」という意図ですが、同じ状況のまま他金融機関にアプローチしても「あの企業は計画の進捗か芳しくない中、挽回策も考えていないようなので対応は難しい」との判断が続いてしまう可能性があります。


こういうと「中小企業が困った時こそ支援するのが金融機関の努めでは」との声が聞こえそうです。「その通り」と考えますが、その度合いについて考える必要はあるかと思います。

金融機関は、預金者から集めたお金を貸し出すという間接金融をビジネスとして行っています。貸し出したお金が返済されず金融機関として損をしてしまう、このため預金者への利息が低減、時には預かったお金すら返済できない(預金者が引き出せない)事態は避けなければなりません。そこまでいかなくても「貸倒が増えたので元気な企業への融資原資が不足、積極的になれない」という事態も避けたいところです。


このため「人手不足が理由なので何も手が出せない」と考える会社には前向きになりにくく、「限られた人数の中、成果に繋げていくために何かできないだろうか」と考える企業には前向きになりやすいと考えられます。

再度の資金調達で「状況が苦しい中、事態打開への取組資金と持続化に必要な資金を調達したい」と申し出れば、前向きな検討を引き出せる可能性があります。姿勢を改める、覚悟を決めるための時間を確保するため、資金調達を前倒しで行うようお勧めしているのです。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真は Copilot デザイナー により作成したものです。

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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