「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第112回

民間金融機関活用新制度を評価する

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



補正予算の成立を受けて5月1日から画期的な制度が動き出しました。「民間金融機関における実質無利子・無担保融資(以下、「民間金融機関活用新制度」と言います)」です。信用保証協会の保証付融資ながら、民間金融機関を窓口としてワンストップで融資が受けられる制度です。

https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200501008/20200501008.html

筆者はこの制度について、今までの対応から一歩踏み出す画期的な取組みと考えています。(金融を知る者からすると)ここまで踏み出すのは相当の覚悟があったと思います。これによりコロナ禍で苦しむ中小企業が今より格段に早く資金調達できるようになるでしょう。

一方で、この制度をもう少しリバイスすることで中小企業にとって、そして民間金融機関にとっても、もっと使いやすい制度になったのではないかと考えています。今日はこの点についてご説明します。


民間金融機関活用新制度の概要

新設された民間金融機関活用新制度は、要件を満たす中小企業が民間金融機関に申し込めば、実質無利子・無担保・据置最大5年の信用保証付融資が受けられる制度です。併せて信用保証料も半額又はゼロとされ、民間金融機関の信用保証付き既往債務についても民間金融機関活用新制度に借換えが可能とされました。手続きにおいては民間金融機関が一元的窓口となるので、中小企業はワンストップで効率的、迅速に各種手続きを行うことができ、迅速に資金調達することが可能になります。

(注)一部都道府県等では事業者が利子を一旦支払った後に返還する形で実質無利子化することになっている。

<対象要件>

国が補助を行う都道府県等による制度融資において、セーフティネット保証4号・5号、危機関連保証のいずれかの利用時に、売上高マイナス5%以上もしくはマイナス15%以上の減少要件(個人事業主と小・中規模事業者で異なる)を満たせば保証料・利子減免が受けられる。

<融資上限額>3000万円

<融資期間>10年以内

<据置期間>5年以内

<担保>無担保

<保証>要件充足で代表者保証不要


ワンストップのメリット

民間金融機関によるワンストップ手続については以下URLでイメージ図が提示されています。

https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200501008/20200501008-2.pdf

今まで信用保証によるコロナ禍対策制度の利用のため中小企業は、セーフティネット4号・5号・危機関連保証の対象である旨の認定を市区町村から得る必要がありました。利子や信用保証料が軽減され時には免除される利子補給や保証料補給を受けるため、窓口相談が課されている場合もありました。本制度ではそれら手続きを金融機関が代行することで中小企業の負担が軽減されます。

また従来では、信用保証付貸出しの場合、金融機関に加えて信用保証協会も改めて保証審査を行うことになっており、これが迅速な資金調達を難しくしていました。この制度においては、保証協会は金融機関の確認結果を用いて保証審査をすることとなっており、これが審査の迅速化に寄与すると期待されるのです。


民間金融機関の「金融利用歴」を活用する

ワンストップ窓口として民間金融機関を活用することは、中小企業の手間と時間の短縮に繋がり評価できます。ここで筆者はもう一歩踏み込んで、民間金融機関の審査判断まで活用することを提案します。これは、前回に提案した「コロナ特別短期保証」に導入した概念です。

https://www.innovations-i.com/column/sme_fs/111.html

金融機関が「取引履歴が長い」、「積極的に情報提供する」、「経営改善等に前向きである」、「申込金額や資金使途など信用保証を受けるにふさわしいかを金融機関がチェック済で、推薦できる」など一定条件を満たす取引歴を金融機関が証明すれば、信用保証協会は資格要件以外の審査は簡易に済ませ迅速に保証承諾するのです。

「それでは信用保証協会が意図しないリスクを押しつけられる可能性がある。」そこで保証期間1年という制度設計が生きてきます。コロナ禍が落ち着いた頃に信用保証協会が改めて審査を行い、「制度趣旨に合わない企業への貸出」や「貸出金額が過大」等の状況が確認できればコロナ特別短期保証としての更新を認めないとなると、金融機関としては、むやみな活用を控えざるを得ません。こうして迅速さと適切な制度運営が両立できます。



<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>



なお、冒頭の写真は写真ACからcoji_coji_acさんご提供によるものです。coji_coji_acさん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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