「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第11回

金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(後編)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
前回と今回は、現在も生き残っている以前からの金融判断基準をもとに、今後どうやって資金調達すればよいかについて考えます。金融の世界の共通用語である「お金」をベースに自社の説明ができる必要があるのです。前回では、決算書や試算表を使いながら「時間の経過でもって説明する」こと、そして「因果関係を説明すること」について考えました。今回も引き続き、「お金」をベースに自社を説明する方法について検討していきます。


特異な数字があったら説明する

企業は、例えば小売業なら「商品を仕入れて販売し利益を得る」という構図(ビジネスモデル)でもって事業活動を行なっており、一定の法則性を持っています。例えば売上が上がれば利益が上がり、売上が下がれば利益が下がります。売上に占める利益率も、売上が大きく変わるようなことがなければ、そんなに変わることはありません。

しかし時には、決算書や試算表がこのような法則とは違った動きをする場合があります。この場合には、是非、金融機関に説明しましょう。例えば売上は減少しているのに利益が向上している工務店の場合には、「不景気が原因で営業努力を続けてはいますが売上は減少気味です。このため売上減少しても利益を出せるように、業務システムを導入しました。見積書発行や必要部材のリストアップが簡便かつ確実にできるようになったので作業効率が大幅にアップして、利益率は向上しました」と説明できるかもしれません。

一方で、こういう説明を行わなかったら、どうでしょう。金融機関は、売上と利益が一般とは異なる動きをしていることを見て「このような場合、業務効率を向上させた可能性と、粉飾した可能性がある。本当に業務効率を改善したのなら説明してくれるだろうから、それを説明しないとは、粉飾の可能性が高いのかもしれない」と思うかもしれません。こういう誤解をされてしまうのは、とても残念なことです。説明して、正しく理解してもらうことが大切です。


今後の見込みを説明する

直近3期のトレンドやその理由、そして特異な動きについての説明があると、次には「今後はどうなるのか?」を知りたくなるのが人情です。金融機関は債権者として貴社の行く末に大きく関わっているので、多大な関心を持っています。是非、それを説明してください。


可能性をベースにした見込み

「とは言っても、将来のことなんか分かる訳がない。」おっしゃる通りではあります。しかし、それをそう答えてしまうと金融機関は貴社のことを「お金をベースにした説明ができない先かもしれない」と感じ取ってしまうかもしれません。それは、貴社にとって、とても不都合なことです。

「だからといって、でっち上げを言うこともできないし。」確かにそうです。しかし、確実なことが分からなければ、見込みが説明できない訳ではありません。パターン化して説明することはできます。例えば現在、特定のトレンドが見て取れる場合には、以下の2パターンで説明できるかもしれません。
・トレンドが続く可能性がある
・トレンドが変わる可能性がある
例えば売上が減少気味というトレンドがある場合には「このトレンドは継続すると思われる。なぜなら売上減少の理由が、競合店の進出にあると考えられるからである」と説明できるかもしれません。

特異な状況が発生している場合には、以下の3パターンで説明できるかもしれません。
・特異な状況が固定化する可能性がある
・特異な状況は解消されるが、影響は残る可能性がある
・特異な状況は解消され、影響も消える可能性がある
例えば取引先の倒産により貸倒れが発生した場合「貸倒れが連鎖するとは考えられないが、今回の損失額は大きく、当面の間は資金繰りに苦労すると考えられる」と説明できるかもしれません。


金融機関が説明を求める理由

以上、2回にわたって、金融機関はあなたの企業について「お金を言語とした説明」を期待していることについて説明してきました。決算書もしくは試算表を用いて「時系列」「因果関係」「特異事象」そして「今後の見込み」という4つの側面から説明することができます。これを実践すれば金融機関は「話のわかる会社だ」と感じることでしょう。

説明が肝心と申し上げると「金融機関とは、なんて面倒くさいところなんだ。説明を求めるだなんて、性悪説に基づいているのか」と思われるかもしれません。中小企業の皆さんの立場として、そのようにお感じなるお気持ちはよく分かりますが、必ずしもそのように解釈する必要はないと感じられます。金融機関は、数多くの企業と取引しています。担当者レベルが抱えている顧客企業数は少ないところで100程度、多いところでは300かそれ以上になると言われています。

こんなに数多くの先と取引している場合には、特定の思考パターンになっても仕方ないと思いませんか。自分がよく知らない相手に対して「自分が想定する最良の状況にあり、最良の言動をしてくれる。例えその説明をしてくれなくとも」と考えると、足元をすくわれることが多くなります。「自分が想定する選択肢のうちネガティブな状況かもしれない、都合が悪い言動をしてくるかもしれない」と考える方が、ビジネスとして合理的です。金融機関に限らず、ビジネスに携わっている者は多くの場合、こういう思考法を持っていると思います。

とすると、自分を理解してもらう最善の方法は何か。自分の状況を説明することです。金融機関の共通語は「お金」なので、お金をベースに、決算書や試算表を用いながら自社の現状や今後の見込みなどを説明できるかどうか。金融機関は、この基準でもって中小企業を評価してきました。これからも、それに変化はなさそうです。

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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