「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第135回

コロナ特別長期貸付の審査

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 




前回、コロナ特別長期貸付について、概要をお話ししました。と言いつつ、概要として挙げた事項からは、その特徴はあまり見えてきません。この貸付の最大のポイントは、審査で「事業性評価」を行うことにあります。今日は、本貸付で行う事業性評価について考えます。



事業性評価の意義

新型コロナウイルス感染症によりあらゆる需要が低迷してしまう事態が続いていることで、多くの中小企業が危機的状況に置かれています。企業が生き残っていくためには資金確保がポイントになりますが、一方でこの事態は、資金提供する金融機関にとっては融資に前向きになりにくくしています。特に春から夏に一度、融資を受けていて、それでも資金が枯渇することとなった企業は、決算書・残高試算表のバランスシートが大きく損なわれているからです。従来の審査方針からすると、このような企業に融資するハードルは、相当に高いのです。


「では、そのハードルを下げれば良いではないか」そうですね、それも一つのアプローチです。が、一度行って、痛い目にあったことのあるアプローチでもあります。平成 10 年頃の金融危機時に設けられた特別保証制度(中小企業金融安定化特別保証制度)ではネガティブリスト(当該リストに記載された事項に抵触しない限り、信用供与する)方式が採られ、これで多くの企業が倒産の危機から救われました。一方で当該制度でも倒産する企業も非常に多く、信用補完制度に多くの赤字が出てしまいました。金融支援だけでは救えない企業に対して、金融支援だけで対応してしまったので、本当に必要とされる支援が提供できなかったと解釈できます。


では、どんな支援が必要なのでしょうか?それは「危機に遭遇した中、もしくは今回のコロナ禍のように遭遇し続けている中で、どのように企業を存続させていき、危機が過ぎ去った時にはいち早く立ち直れるような計画を立てる」ことへの支援だと考えられます。今、このような状況にありながら、そして「絶対に会社は潰さない」と決意しながら、計画的な対応をしている企業は多くはないというのが実情です。「だって求められていないから」との声もあるでしょう。だから求めるのです。「いつ?」それが、資金調達のタイミングです。コロナ特別長期貸付では、コロナ禍の中で会社を持続させ、ワクチンができて平常に戻る時には以前の勢いを取り戻す計画書を求め、それでもって事業性評価を行います。



事業性評価の審査

事業計画書の提出を受けて、どのような審査をするのか?審査方法を考える前に、ゴールを考えてみましょう。「この状況が来年春まで続き、夏頃から景気が回復していくと仮定した場合に、それまで存続し続けられる会社、そして景気回復の波に乗って業績を回復させられる会社に必要な資金を提供する」ことを目的とした審査を行います。融資がなければ倒産するけれども、融資を受ければ倒産しない構図を描けた会社に、融資を行うのです。


これは、単にハードルを下げるのとは、意味が違います。特別保証制度のネガティブリスト方式では、このような構図が描けてなくても「不渡りを発生させている」 などの項目に該当しなければ保証が受けられるという形でハードルが下げられていました。しかし本制度は、ハードルを下げることに主眼が置かれている訳ではありません。「融資を受けられるほどの体力のある企業である」というハードルをクリアしているかどうかを判定するタイミングを、現在ではなく、将来に置いているのです。基本的には「本融資の貸付期間の半ば頃にはコロナ禍が発生する前の収支状況に戻ることができ、期限時にはバランスシートにおいても債務超過の解消などが図れる」ことが基準になるのではないかと考えられます。本制度名に「長期」という言葉が含まれているのは、貸付期間が前回に提案したコロナ特別短期制度より長いという意味もありますが、実は「審査における判定対象期間が長期である」という意味が込められているのです。



事業計画策定を促して事業性評価する貸付制度を

日本政策金融公庫で約30年、信用保証を支える信用保険の運営に携わり、独立から5年、中小企業の近くにあって事業改善を支援するコンサルタントとして活動してきた体験から、「風邪をひいた」程度の状況にある(正常先をキープできなくなり、一時的に要注意先・要管理先に格付られた)企業には是非、事業計画を策定して「風邪を治す」取組みに取り組んでもらいたいと考えています。その決心を固めるタイミングとして、融資を申し込む時ほど良いタイミングはありません。


実は、政府系金融機関が行う「コロナ特別資本性ローン」も事業計画の策定を求めています。これに申込んだ企業のご支援で「数値計画だけでなく取組み内容まで書き込みが求められ、上の提案にぴったりの計画書だな」と感じました。コロナ特別長期貸付で行うべき審査は、既に行われていると考えられます。実現性の高い貸付制度を是非、中小企業に提供するよう、切に求めます。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

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なお、冒頭の写真は写真ACからまぽ(S-cait)さんご提供によるものです。まぽ(S-cait)さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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