「デジタル人材がいない中小企業のためのDX」

第3回

No Code(ノンプログラミング)という武器を手に入れる

株式会社NIコンサルティング  長尾 一洋

 

プログラミングができなくてもDXは進められる

前回(第2回)のコラム「デジタル人材を採用できない企業はどうすればよいのか」で触れたNo Code(ノーコード)という言葉をご存知でしたでしょうか。ノンプログラミングでシステムを作れるツールをNo Codeツールと言います。プログラミング言語などの習得が不要ですから、デジタル人材でなくても使いこなすことが出来るようになります。


ちなみに似たようなものに、Low Code(ローコード)という用語があります。これは簡易なプログラミングを必要とするツールのことで、簡易に出来るとはいえプログラミングが必要であり、プログラムが書ければNo Codeよりも複雑なことが出来るというものです。ただ、Low Codeというのは、プログラムをバリバリ書ける人から見てLow(簡易)なだけであって、非デジタル人材には結構ハードルが高いように思います。


デジタル人材がいない中小企業は、まずNo Codeに取り組むべきでしょう。これで結構いろいろなことが出来ます。そこから始めて、No Codeツールを使いこなすNo Coderになれた人の中で興味があればLow Codeに進んでみると良いでしょう。




No Codeが使いこなせると何が良いのか

No Codeツールを駆使して、自分たちでシステムやアプリが作れるようになると何が良いのかと言うと、いちいち外部のIT事業者に委託しなくて済むようになるので、劇的に戦略実行スピードが上がり、開発コストが下がり、使ってみてダメなら直すという改善サイクルも速くなるのです。


第1回コラムで、「中小企業におけるDXの本質は限界費用ゼロでビジネスを拡大させる武器を手に入れることなのだ」とお伝えしましたが、No Codeを使いこなせるようになるということは、手に入れた武器を自分たちで使いこなせるようになるということなのです。せっかく武器を手に入れても、毎度外部の業者を呼んで操作してもらわないと戦えないとなっては宝の持ち腐れでしょう。


読者の企業でも、導入したのはいいけれどもロクに使われずに放置されているシステムやアプリがありませんか? 「ここをちょっと直して欲しい」と思ってもその修正にまた結構なコストがかかることで改修を断念して使いづらいまま我慢して使っているシステムがありませんか? これがまさに外部ベンダー依存の状態ですね。開発や導入にも時間がかかり、時間がかかる分コストも高くなって、最後は改修もままならなくなる・・・これではDXにはなりません。


実は近年、世の中にはNo Codeツールがたくさん出回って来ており、その多くが月額課金のサブスクリプションモデルでコストも安いという点もNo Codeを勧める理由です。かつては、システムはデジタル人材が一からプログラムを組んで作るしかありませんでした。パッケージソフトという予め出来上がった形でコストを抑えたものは、柔軟性に欠けていて、修正するにはカスタマイズコストがかかったりしました。ところがNo Codeツールは、月額の利用料を払うだけで、設定を変えたり自由にフォーマットが作れたりでき、ゼロからデータベースを作ったりすることもできるのです。ホームページを作る、通販サイトを作る、スマホアプリを作るといった目的に特化したものから、社内業務システムとして一定の型があってそこからNo Codeで変えていけるものや自由にデータベースを設計しデータベース同士を連携させたりできるようなものまで結構種類があります。そのツールを具体的に紹介することは本稿の趣旨に合いませんので、是非「No Code」で検索してみてください。


ここで大切なことは、このNo Codeに経営者自らチャレンジしてみてもらいたいということです。どの程度の難易度、どれくらいの時間で、どれほどのものができるのか、No Codeで体験してみてもらいたいのです。DX推進リーダーと一緒にNo Codeツールを試しに触ってみてください。細かい設定はやってもらってもいいですが、自分でも必ず操作してみたり、フォーマットを作ってみたりして欲しいのです。きっと、「これならできる」「これくらいなら自社でも取り組める」と思えるはずです。その気付き、発見が経営者を半信半疑から是非取り組もうとコミットさせ、DXがスタートして行くのです。

中小企業がアジャイル開発をするにはNo Codeが不可欠

また、第2回コラムで、DXの際に必ず出てくるシステム開発手法として、アジャイル開発に触れました。まず設計書を作り、それから開発していたのでは環境も変わり要件も変わってしまうので、アバウトな設計でいいから、トライ&エラーを繰り返しつつ機敏に開発を進めるべきだというものです。しかしこんなことは、デジタル人材もおらず外部ベンダーに依頼するしかない中小企業にはできません。なぜならシステム開発の費用見積が出来ないからです。システム開発ベンダーは要件が決まり設計がある程度固まるから工数見積ができて金額提示するわけです。この場合でも途中で要件が変わったりすることもあるからバッファを乗せて見積りを出したりします。それが要件も不明確なアジャイル開発で進めるとなったら、どれだけ工数がかかるのかも分からず、余程大きめにバッファを乗せて高くするか、不透明リスクを嫌って撤退です。


ビジネス環境も、デジタル技術もどんどん変わっていく中でDXを進めるためにはアジャイル開発が必要なのですが、そもそもそれは自社にデジタル人材が揃っているか、外部IT業者を常駐で工数に関係なく契約しておけるような企業だから言えることであって、中小企業にはまったく参考になりません。中小企業にとってはアジャイル開発にするべきだという理屈や理想論ではなく、アジャイル開発を自分たちでできるようにするNo Codeがまず必要なのです。


 

プロフィール

株式会社NIコンサルティング
代表取締役 長尾 一洋

中小企業診断士、孫子兵法家、ラジオパーソナリティ

横浜市立大学商学部経営学科を卒業後、経営コンサルタントの道に。

1991年にNIコンサルティングを設立し、日本企業の経営体質改善、営業力強化、人材育成に取り組む。30年を超えるコンサルタント歴があり8000社を超える企業を見てきた経験は、書籍という形で幅広く知られており、ビジネス書の著者でもある。(「長尾一洋 著者」と検索)

またラジオ番組の現役パーソナリティでもあり、番組内で経営者のビジネスに無料でその場で答えていくスタイルが人気。この文化放送「長尾一洋のラジオde経営塾」(毎週月曜19:30~20:00)では、聴取者からのビジネス相談を下記のホームページから受け付けている。 番組公式Twitterのアカウントは、@keiei916。(どうぞフォローをお願いします)


文化放送 月曜19時30分から放送:長尾一洋 ラジオde経営塾

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