第5回
DXでビジネスモデルを変えるポイント「フィードフォワード」
株式会社NIコンサルティング 長尾 一洋
フィードフォワードとフィードバック
DXを進めて行く上で着目すべき一つ目のポイントは「分散入力即時処理」でしたが、今回は二つ目のポイント、「フィードフォワード」について解説してみましょう。DXでビジネスモデルを変えようとする時に検討すべきポイントになります。
フィードフォワードと聞いてピンと来る人もいるでしょうが、フィードバックなら知っているけど、フィードフォワードなんて聞いたことがないという人も少なくないでしょう。
バックとフォワードの違いが重要なので頭を整理してから進めたいと思います。フィードとは運ぶという意味ですが、ここでは「働き掛け」と考えて下さい。バックは「後ろ」でフォワードは「前」です。
フィードバックとは、後ろ(過去)への働き掛け(事後処理)であり、フィードフォワードとは、前(未来)への働き掛け(事前処理)を意味します。ビジネス上でフォードバックという言葉は、過去の言動や実績に対して良かった、悪かったとまさにフィードバックする時に使いますね。読者の皆さんも「フィードバックする」という言葉は使ったことがあるでしょう。
それに対してフィードフォワードは、未来の行動や結果を良くするために「こういうことをしよう」「もっと〇〇に重点を置こう」といった形でアドバイスしたり提案したりすることを指します。フィードバックは大切ですが、それで過去の言動や実績が変わるわけではありません。それに対してフィードフォワードは未来の行動や結果を変える可能性を持った働き掛けです。
フィードフォワードとフィードバックの違いが理解できたでしょうか。
見込生産と受注生産ではどちらが競争優位性が高いか
フィードフォワードとフィードバックをビジネスモデルに当てはめて行きます。フィードフォワードは、まだ確定していない未来の注文を予想して行う見込生産(仕入)であり、フィードバックは、すでに確定した注文に基づく受注生産(発注)だと考えることができます。
確定した注文に基づいて受注生産した方がリスクはありませんが、納期が長くなり数量が小さくなるのでコストが高くなる傾向があります。見込生産は、過剰在庫を抱えたりするリスクはありますが、顧客が欲しいと言えばすぐに提供でき、数量をまとめて作るか発注しているのでコストも抑えられます。さて、見込生産と受注生産ではどちらが競争優位性が高いでしょうか? 読者の皆さんの会社のビジネスモデルはどちらですか?
同じ業種、同じビジネスのように見えても、ビジネスモデルが違えば収益構造が違います。分かりやすい例を挙げれば、寿司屋は客が注文してから寿司を握る典型的な受注生産ビジネスでしたが、回転寿司は同じ寿司屋でも客の来店及び注文を見込んで予め作っておく見込生産ビジネスです。それによってすぐに食べられるし、圧倒的に安いですね。回転しているかどうかに目が行きがちですが、そこはあまり重要ではありません。
これが、自社のビジネスモデルをフィードフォワードにするかフィードバックにするかという違いです。どちらが競争上優位だと思われますか? 答えは自社の商品やコンセプトによってどちらも正解になり得るのですが、DXでビジネスモデルを変える時の着眼点として「フィードフォワード」を覚えておいてください。
フィードフォワードを実現する3つの条件
一般的には、事後処理のフィードバックよりも事前に手を打つフィードフォワードの方が、競争優位性が高くなると思いますが、それを実現するには以下の3つの条件が必要となります。
1.外乱を事前に検知もしくは予測する手段
2.先行指標となるデータを収集・分析する手法
3.1・2から適切な修正量を決定するスピード
外乱とは自社ではどうにもできない環境変化などを指します。回転寿司では景気動向や天候の変化などが相当します。先行指標とは、来店客数、客層、子供の比率など実際に寿司をレーンから取る前に分かる情報のことです。そしてそれらの情報に基づいて最適な寿司ネタを選び、数量を考えて見込生産してレーンに流すわけですが、その修正がその日の売上データを締めてからでは遅過ぎますね。だからここにデジタルを使います。
アナログな集計や処理では時間がかかって修正が間に合いませんから、一日終わって反省するフィードバックしかできません。しかし、デジタルで事前情報を把握することが出来れば見込で生産(仕入)しても誤差を最小にすることが可能になります。大切なことは、それによって顧客により早くより安い商品提供が可能になり顧客価値が高まることです。
皆さんの会社でも、デジタル化してフィードフォワードを取り入れることでビジネスモデルを変え、顧客価値を高めることが出来ないか検討してみて下さい。
ちなみに、回転寿司は今や回転せずにタッチパネルで発注して寿司が席に届くように進化していますね。受注生産を見込生産に変え、見込生産によるデメリット(ロス)をなくすために受注生産でも待たせず低価格で提供できる仕組みを(見えないところでフィードフォワードして)作っているわけですが、それもまたデジタルの力なわけです。
どのような業種、どのような企業であっても、デジタルの力で競争優位性を高め、当たり前のようにデジタルを活用し続けるのがDXです。フィードフォワードという切り口でビジネスモデルを見直して、それを実現するためにデジタルをどう使うかを考えてみて下さい。
プロフィール
株式会社NIコンサルティング
代表取締役 長尾 一洋
中小企業診断士、孫子兵法家、ラジオパーソナリティ
横浜市立大学商学部経営学科を卒業後、経営コンサルタントの道に。
1991年にNIコンサルティングを設立し、日本企業の経営体質改善、営業力強化、人材育成に取り組む。30年を超えるコンサルタント歴があり8000社を超える企業を見てきた経験は、書籍という形で幅広く知られており、ビジネス書の著者でもある。(「長尾一洋 著者」と検索)
またラジオ番組の現役パーソナリティでもあり、番組内で経営者のビジネスに無料でその場で答えていくスタイルが人気。この文化放送「長尾一洋のラジオde経営塾」(毎週月曜19:30~20:00)では、聴取者からのビジネス相談を下記のホームページから受け付けている。 番組公式Twitterのアカウントは、@keiei916。(どうぞフォローをお願いします)
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