日常生活の著作権

ストリートピアノの演奏と著作権

弁理士の著作権情報室

はじめに


筆者の好きなテレビ番組に、世界の空港や駅、街角に置かれた誰もが自由に弾けるピアノ(いわゆるストリートピアノ)の演奏を、定点カメラで撮影して紹介する番組があります。様々な年齢、人種、国籍の演奏者の演奏とともに、その演奏者の背景、想い、エピソード等が紹介されるのがとても興味深いです。

筆者が通勤で使う私鉄の、とある駅の広場(改札の外)にも、一時期、ピアノが置かれていました。小さな子供からお年寄りまで、楽しそうに、また、人によっては少々緊張しながら演奏する様子と、それを見守る親御さんや身内の方の温かい眼差しも微笑ましいものです。

ストリートピアノの演奏と著作権

楽曲の著作権


楽曲には作曲家の著作権が発生します。ストリートピアノでは弾き語りもあるかもしれませんね。楽曲に歌詞がついていれば作詞家の著作権も発生します。著作権は利用行為ごとの権利(支分権)により構成されており、楽曲(歌詞を含む)の著作権の支分権の一つに演奏権があります。演奏権とは、その著作物(楽曲)を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として、演奏する権利です。これを、著作権者だけが持っているため、著作権者以外が楽曲を公の場で演奏(歌唱を含む)をする場合は、原則として、楽曲の著作権者から許諾を得なくてはなりません(ただし、著作権の消滅しているクラッシック音楽等であれば許諾は不要です)。しかし、ストリートピアノの演奏者は、著作権者の許諾なく楽曲を演奏しているようです。なぜ演奏権の問題にならないのでしょう。

営利を目的としない上演等


それは、ストリートピアノの演奏は、「著作権の制限される著作物の利用」に該当すると考えられるからです。著作権法は、著作権者の私的利益を保護するとともに、公正な利用については著作権を制限することで、最終的に文化の発展に寄与することを法目的としています。ストリートピアノはその制限規定の一つである「営利を目的としない上演等」にあたり、著作権者の許諾なく著作物(楽曲)を利用できると考えられます。

この「営利を目的としない上演等」に該当するには、①演奏する著作物(楽曲)が公表されたものであり、②営利を目的とせず(非営利)、③聴衆又は観衆から料金を受けず、④演奏者が報酬を得ないこと、との要件をすべて満たす必要があります。
ストリートピアノは、空港の一角、駅の広場等公共の場所に設置されており、営利を目的としていないと言えます。また、ピアノの設置者は、聴衆、観衆からの料金は受け取っておらず、演奏者も、演奏の報酬を受け取っていません。そのため、公表された著作物を演奏する限り、ストリートピアノの演奏は、「営利を目的としない上演等」に該当し、楽曲の著作権者の許諾なく、演奏(歌唱)ができるのです。

では、ストリートピアノが、ショッピングモールなどの商業施設内にある場合は、上記要件の、「②非営利」、に該当するでしょうか。これについては、モール側の設置目的が、モールに訪れるお客様に居心地の良い場や楽しんでもらう場を提供することにあり、直接的な収益を見込んでいない場合は、非営利と考えてよいと思います。

出所の明示は必要?


上記、「営利を目的としない上演等」の規定により著作物を利用する場合、その出所を明示する慣行があるときは、著作物の出所を明示することが規定されています。ストリートピアノにおいては、おそらく「明示の慣行」はないものと思いますが、もし、設置場所で楽曲の出所を明示するルールがあれば、それに従ってください。

動画サイトへのアップロード


ストリートピアノの演奏に感動し、撮影した演奏の動画を多くの人と共有しようと、動画投稿サイトに撮影した動画をアップロードすることは問題ないのでしょうか。

ストリートピアノの演奏が、上述の通り楽曲の著作権者の許諾なくできるとしても、演奏を録画し、その動画を動画サイトへアップロードすることは著作物を複製し、公衆送信する行為にあたり、原則、楽曲の著作権者の承諾が必要です。ただし、当該楽曲が、JASRAC等の楽曲の著作権管理団体が管理する楽曲であり、当該管理団体と動画投稿サービスが包括的な利用許諾契約を締結している場合には、投稿者が直接楽曲の著作権者から承諾を得る必要はありません。

動画サイトへの楽曲のアップロードについては「踊ってみた:動画をSNSに投稿して大丈夫??~」の記事で詳しく解説しているのでそちらをご参照ください。

また、演奏者はその演奏について、プロであるか素人であるかを問わず、実演家として著作隣接権を有します。従いまして、無断で演奏を録画し、録画した動画を、演奏家の許諾なく、動画サイトへアップロードする行為は、演奏者の録音・録画権および送信可能化権を侵害することになります。また、実演家の人格的権利として、氏名表示権、同一性保持権があることにも注意が必要です。さらに、これは著作権の問題ではありませんが、演奏者の写っている動画を無断で利用することは、肖像権の侵害になる可能性があります。「肖像権」は法律で明文化された権利ではありませんが、人格的権利として、民法・不法行為法に基づき認められている権利です。

そのため、街でみかけた演奏を、単に個人が楽しむために録画することは私的使用の複製にあたり問題にはなりませんが、動画サイトへのアップロードをする場合は、氏名表示の有無、表示する名称の意向も含め、演奏者の同意を得る必要があることにご注意ください。また、動画に対して、同一性保持権を侵害するような改変を加えることも避けるべきでしょう。

念のため


冒頭、ストリートピアノの番組から話を始めさせていただきました。番組を製作し、放送するにあたっては、放送事業者が、楽曲の著作権者の許諾、演奏者の同意等必要な対応を行ったうえで当該番組を放送していることは言うまでもないでしょう。

さいごに


今日もまたどこかの空港や駅、街角でピアノが演奏されていることでしょう。ピアノが弾ける方は、是非演奏してみてはいかがでしょうか。ピアノを弾けない方も、ちょっと立ち止まって、一曲聞いてみませんか。

令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 橋爪 美早子

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

※ 著作権に関するご相談はお近くの弁理士まで(相談費用は事前にご確認ください)。
また、日本弁理士会各地域会の無料相談窓口でも相談を受け付けます。以下のHPからお申込みください。

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