知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.4

第10回

Apple Music(アップルミュージック)、Spotify(スポティファイ)、LINE MUSIC(ラインミュージック)、レコチョクBest(レコチョクベスト)、AWA(アワ)、Google Play Music(グーグルプレイミュージック)などの音楽配信をお店のBGMで流しても大丈夫??~JASRACにBGMの著作権使用料を支払う音源提供事業者にまつわる話

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所  堀越 総明

 

カフェ「イノベーション」のアルバイトが就活を蹴って自分のカフェを開業


団塊世代の憩いのカフェ「イノベーション」は、相変わらずの大盛況です。脱サラしたA男さんと愛妻のB子さんは、なんとか2人でお店を切り盛りしてきましたが、利益も順調に伸びてきたこともあり、ついにアルバイトのCくんを雇うことにしました。

Cくんは、お店の近くにある私立大学の3年生です。明るい声で挨拶ができて、お客様と冗談も言い合えるなど、なかなかの好青年です。その上イケメンということもあり、早くもカフェ「イノベーション」の看板男子となりました。

B子さん 「以前は年輩の紳士のお客様ばかりだったけど、Cくんのおかけで最近は女性のお客様が増えたわよね~。」
A男さん 「Cくん効果で、売上は更に伸びて、言うことなしだね。」
B子さん 「でもCくんはそろそろ就活じゃない?アルバイト辞めちゃうかもね・・・。」

そんなある日の閉店後、A男さんとB子さんは何気なくCくんに就活のことをたずねました。すると、Cくんからは意外な返事が返ってきました。
Cくん 「ボクは就職しません!自分のカフェを開業したいんです!!もうカフェに相応しい物件も見つけました!!!」

Cくんは3年生までに真面目に単位を取っていたため、4年生はあまり大学に行かなくても大丈夫だということで、カフェはすぐにでも開業するということです。
驚くA男さんとB子さんを尻目に、Cくんは間もなくカフェ「イノベーション」を辞め、あっという間に自分のカフェ「明るい未来」をオープンさせました。

カフェのBGMにアップルミュージックを利用したところ著作権使用料の請求が・・・


A男さんとB子さんは、Cくんに辞められて痛手とはなったものの、Cくんのお店の開店にはお祝いのお花を送り、お店の定休日を利用して、早速、カフェ「明るい未来」を訪れました。お店に入って、まず耳に飛び込んできたのはBGMです。カフェ「イノベーション」とは違い、軽快なロックが流れていました。

B子さん 「すてきな音楽ね~。」
Cくん  「ネバーヤングビーチですよ!いまボクたちの世代で人気なんですよ。」
A男さん 「ちょっと懐かしい感じでいい曲だな!それはそうと、CくんもちゃんとJASRACには手続きしたんだろうね。」
Cくん  「これはCDをかけてるんじゃなくて、アップルミュージックなんです。」
A男さん 「アップル??ミュージック??」
B子さん 「あなた、アップルミュージックは音楽配信サービスよ!月々980円で4千万曲が聴き放題なのよ。」
Cくん  「お店のBGMで有線放送を流す場合は、JASRACに著作権使用料を支払わなくていいって、マスターが言ってましたよね?音楽配信サービスも有線放送みたいなもんだし、アップルミュージックには月々サービス料も支払っているし、全然OKです!」

それから半年後。カフェ「明るい未来」は、Cくんの接客の上手さとネバーヤングビーチのBGMの効果で、早くも軌道に乗り、店内はいつも若者で賑わっています。「就職しないで、思い切ってカフェをやってよかった!」と喜ぶCくんでしたが、そんなある日、某音楽著作権管理団体から1本の電話が掛かってきました。
Cくん  「ちょ、ちょ、著作権使用料を支払えだって!?うちのカフェのBGMはアップルミュージックなのに、どうしてですか!?」


アップルミュージックのBGM利用はUSENとはちがってJASRACに手続きが必要です


お店などの営業施設でBGMとして音楽を流す場合、著作権者である作詞者や作曲家などの許諾を受けなければなりません。しかし、音楽を利用するお店などが作詞者や作曲者に直接連絡をとって許諾を受けることは現実的ではありませんので、著作権者から委託を受けているJASRACなどの音楽著作権管理団体に著作権使用料を支払い、音楽の利用について許諾を受けるようになっているのです。

音楽を利用するお店などが、JASRACを通じて著作権使用料を支払うのは、市販のCDを買って、CDプレーヤーで流す場合に限ったことではなく、有線放送や、Apple Music(アップルミュージック)のような音楽配信サービスであっても同じことです。

しかし、有線放送の場合は、JASRACに手続きをしないでも、お店などのBGMとして音楽を流せるという話を耳にします。
これは、有線放送の場合は著作権使用料を支払う必要がないということではなく、有線放送を運営している株式会社USENが、音楽を利用するお店などに代わって、JASRACに著作権使用料を支払っているので、お店などは個別にJASRACに手続きする必要はないということなのです。

音楽を利用するお店などに代わって、JASRACにBGMの著作権使用料を支払っている音源提供事業者は、株式会社USEN以外にもいくつかありますが、残念ながら、アップルミュージックなどの音楽配信会社の多くは含まれていません。したがって、アップルミュージックなどの音楽配信サービスをお店などのBGMとして利用する場合は、市販のCDをかけるときと同様に、そのお店などは個別にJASRACと手続きをして、著作権使用料を支払わなくてはならないのです。

スポティファイなどは利用規約でBGM利用が禁止されています


なお、アップルミュージックは、JASRACに手続きをすれば、お店などのBGMとして利用できることとなっていますが、Spotify(スポティファイ)、LINE MUSIC(ラインミュージック)、レコチョクBest(レコチョクベスト)、AWA(アワ)、Google Play Music(グーグルプレイミュージック)は、そもそも利用規約などで営利目的などの利用を禁止しています。つまり、アップルミュージック以外の音楽配信サービスの多くは、いくらJASRACに手続きをしても、お店などのBGMとしては利用できませんので、注意が必要です。

Cくんは、知り合いの弁理士に相談して、自分の考え違いがわかると、お店のBGMについて、A男さんとB子さんに手続きの方法を聞いて、素直にJASRACに著作権使用料を支払いました。今日も、カフェ「明るい未来」では、ネバーヤングビーチだけではなく、アップルミュージックの4千万曲のBGMが、お店の活気を演出しています。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。
 

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役


「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
 
【著書】

「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
 
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。

知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.4

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