第2回
イメージやコンセプトは著作権で保護されるの?~著作物性にまつわる話
ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所 堀越 総明
BABYMETALに負けるな!売れるバンドの決め手は面白いコンセプト!
イノベーション音楽事務所の代表Aさんは、長年にわたり、ライブハウスをコツコツと巡っては優秀な若手ロックバンドを発掘して、レコード会社に売り込んではデビューさせるというビジネスを行ってきました。小さい事務所ながらも、Aさんのロックにかける情熱でこれまでがんばってきましたが、大したヒットにはつながらず事務所の経営はずっと低空飛行を続けています。
ある日、Aさんの片腕として活躍してくれていた若者のBさんが、イノベーション音楽事務所を辞めて、独立することとなりました。
Aさん 「Bくん、長い間ありがとうな。これからも良いロックバンドを発掘して、お互い切磋琢磨してがんばろう。」
Bさん 「Aさん、ボクはもうお金にならないロックバンドには懲り懲りです。ボクの事務所は、アイドル専門で勝負しますよ!」
Aさんはその夜、奥さんのC子さんにBさんがロックを捨ててアイドルの世界に行ってしまったことを話しました。ため息をつくAさんに、C子さんは発破をかけました。
C子さん「あなた!Bさんの言う通り、普通のロックなんかやっててもお金にならないわよ!でも、アイドルとヘビーメタルを融合させたBABYMETALを見なさい!コンセプトが面白ければロックだって売れるわよ!」
Aさん 「俺がやりたいのはそういう音楽じゃなくって、もっとUKロックぽい、モッズ風の・・・」
C子さん「お金を稼いでから、そういうバンドを育てればいいじゃないの。まずは面白いコンセプトのバンドで話題を作って、CDをバンバン売って、私を旅行にでも連れて行ってちょうだい!」
Aさん 「面白いコンセプトといってもなぁ。アイドルは苦手だし・・。そうだ!」
「落語ロック」のコンセプトはすぐに同業者に真似されてしまうことに・・・
1ヵ月後、イノベーション音楽事務所期待の新人バンドのデモ音源を聴いたC子さんは絶句しました。
C子さん「あなた、何よコレ!???」
Aさん 「落語とロックの融合だよ!面白いコンセプトだろ?バンド名は“THE 古今亭‘S”、デビュー曲は『火焔太鼓BABY』だぜ!」
ロックの激しいビートに乗せて歌われる江戸庶民の人情。インターネットで話題となり、『火焔太鼓BABY』はスマッシュヒットとなりました。
「あなた、やったわね!旅行は北海道がいいわ!」と喜ぶC子さん。しかし、ある朝、ワイドショーで大々的に紹介されているアイドルロックグループの映像を見て、AさんとC子さんは愕然としました。
Aさん&C子さん「アイドル落語ロックの“三YOU亭 GIRLS”!?デビュー曲は『芝浜?ダーリン』だって!!??」
すると間もなくテレビ画面にはBさんが登場し、落語ロックのコンセプトを得意気に説明しています。AさんとC子さんの怒りをよそに、“三YOU亭 GIRLS ”は、その愛らしいルックスもあり人気が爆発し、『芝浜?ダーリン』はヒットチャートで1位を獲得する大ヒットとなりました。
Aさん 「落語ロックのコンセプトを最初に考えたのはボクだぞ!これは著作権侵害だ!!」
C子さん「そうよ、あなた!Bさんに警告書を送りつけてあげましょう!!」
コンセプトのようなアイデアは著作権では保護されないのです
AさんとC子さんの怒りはよくわかります。確かに「落語ロック」というコンセプトを最初に考えたのはAさんです。Bさんは、おそらくインターネットか何かで、Aさんがプロデュースした『火焔太鼓BABY』を聴いて、真似をしたのでしょう。それでは、Aさんは、Bさんがプロデュースする“三YOU亭 GIRLS ”の活動を差し止めて、Bさんに損害賠償請求ができるのでしょうか?
著作権法で保護されている著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」である必要があります。ここで「表現したもの」とは、音楽でいうとメロディや歌詞のように創作物として具体的に表現されている必要があり、コンセプトやイメージのように単なるアイデアは含まれません。
というのも、アイデアまで保護してしまうと、後の時代の人の表現の自由を不当に制限することにもなり行き過ぎであること、またアイデアは誰でも自由に利用できるほうが、それをもとに多くの人が新しい表現を創作することができ、文化の発展にもつながるという理由からです。
曲調のようなイメージも著作権では保護されていません!
コンセプトだけでなく、イメージ、つまり音楽でいうと曲調なども著作権では保護されていません。例えば、サザンオールスターズのような雰囲気の楽曲を作り、桑田佳祐さんそっくりの歌い方で歌ったとしても、その楽曲のメロディや歌詞がサザンオールスターズのものとまったく異なるものである場合は、著作権侵害にはなりません。ただし、このような真似をしているだけのバンドの楽曲がヒットすることは考えられないとは思いますが。
「落語ロック」のコンセプトを真似されて怒り心頭のAさんとC子さんでしたが、知り合いの行政書士に相談したところBさんの行為は著作権侵害にはあたらないことを説明され、警告書を送ることを断念しました。しかし、“三YOU亭 GIRLS ”の人気に引っ張られるように、“THE 古今亭‘S”の『火焔太鼓BABY』もチャートを駆け上がり、イノベーション音楽事務所の収入は増えていきました。その後、第三、第四の落語ロックグループが登場し、落語ロックは社会現象となり、AさんとC子さんはヨーロッパ一周旅行に出かけたということです。
※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。
※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。
ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)
日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役
「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。
特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。
現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。
また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。
○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
【著書】
「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。
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