【DX】ここに気を付けろ!デジタル人材がいない中小企業が陥る罠

第2回

長い付き合いのITベンダーが離れてくれない罠

株式会社NIコンサルティング  長尾 一洋

 

長年付き合って来たことによる馴れ合い

 「うちには長い付き合いのベンダーさんがいて、安くて親切で助かっています。システム関係のことはすべてその会社に相談しているんですよ」と、ある中小企業の経営者が言い出しました。私がDXの推進には自社内にノーコーダーを養成するべきだと提案した時のことです。「長い付き合いでうちの業務もよく分かってくれているし、呼べばすぐに来てくれるので、社内にシステム要員がいるようなものです」と言って、私のノーコード提案を拒否して来たわけです。

 自社のことをよく理解してくれていて、対応も速く、長い付き合いで人間関係もできている。その企業にとって便利なベンダーさんであることは間違いないでしょう。しかし、これがDXを進める、デジタル活用でその企業を変革させていくとなった時には、逆に足かせになることがあるのです。

 特に、この企業の経営者は、この安くて便利な(と思っている)ベンダーさんがいることで、自社のデジタル活用について完全に思考停止していて、私のDX提案に対しても「とにかくベンダーに任せているから」の一点張りでした。まさに「ベンダーロックイン」状態に陥っていたわけです。

 企業変革の提案では拒否されたり、聞く耳を持ってもらえないのはよくあることですから、気にせずにいろいろ聞いていくと、たしかにそのベンダーさんは小回りを利かせてパソコンやスマホの設定までやってあげたりして、担当者は若い男性でしたが、経営者にも気に入られているようでした。しかし、電帳法の改正やインボイス制度への対応など必要最低限の法対応についての情報提供すらしていませんでした。

 ベンダー側も、長い付き合いで、何かあれば相談されるし、切られる心配もないわけですから、馴れ合い状態になってしまって、言われたことには対応するけれども、新しい提案などをするわけでもなく、現状のシステム入れ替えやパソコンなどの更新をしているだけなのです。

 こうした企業とベンダーの相互依存関係については、経済産業省の「DXレポート2.1」にも取り上げられており、ユーザー企業もベンダー企業も共に「デジタル競争の敗者」となる運命だと指摘されています。


ITベンダーのレベルで自社のDXが左右されてしまう

 私は30年以上、インターネットが登場する前のパソコンもロクに導入されていない時から中小企業の現場を数多く見て来ましたので、デジタル人材などいない中小企業が、こうした外部ベンダーに依存してしまう事情はよく分かります。何しろ自社内にシステムのことやネットワークのことが分かる人などいないのだから、ベンダーさんに頼るしかないのです。特に助かるのが、呼べばすぐに対応してくれる小回りの利くベンダー及び担当者です。提案のレベルが高いとか最新の提案があるとかは二の次、三の次になってしまいます。

 こうした経緯から、ベンダーに依存するのが当たり前になり、対応の良いベンダーさん、フットワークの良い担当者さんであればあるほど、より依存してしまうのは必然です。

もし、本稿をお読みの皆さんの会社にもそうしたベンダーさんがいたとすると、きっとそのベンダーさんは気が利いて、小回りも利く良い業者さんなのでしょう。しかし、それで良いのかと考えてみることも必要ではないでしょうか。

 失礼ながら、中小企業に対して、大した売上があるわけでもないのに、呼べばすぐに来るような対応をしてくれるベンダーさんが、DXについて知見も豊富でノウハウも持っているということがあるでしょうか? いくら良い業者さんであってもそこまでは期待できないですよね。本気でDXに取り組んで自社を変革させていこうと思うのであれば、そうしたベンダーさんとの付き合いを切る必要はありませんが、依存関係は断つ覚悟が必要です。

 冒頭の企業の話に戻しましょう。

 もちろん、その企業でもいろいろと付き合いもありますから、他のベンダーからの提案を受ける機会もあったそうです。しかし新規の提案をする際には、既存のシステムのことも知らないといけません。「現状のシステムはどうなっていますか」と聞かれても把握しているのは既存のベンダーさんですから、結局そこに相談することになります。そうすると馴染みの担当者が飛んで来て、「御社にはまだそのシステムは早いですよ」とか「うちの方で既存システムを改善した方が安上がりですよ」などと経営者に囁くわけです。自社のことを一番理解してくれているシステムの分かる人はその担当者ですし、信頼関係もありますから、「まぁそうだよな」「やっぱりお宅にお願いするしかないな」という話に落ち着いて来たそうです。

 こうして一度ベンダー依存してしまうと、そのベンダーのレベルにあなたの会社のDXが左右されることになるのです。そのベンダーにもその担当者にも悪気はありません。良かれと思って「御社にはまだ早いですよ」と忠告してくれるわけです。


ノーコードなど提案するわけがない

 ITベンダーはパソコンなどのハードやパッケージソフトなどを仕入れて売るか、システムの開発工数を積み上げて売上を作っています。仕入れたものでは利幅も大したことはありませんから、開発仕事もしたいわけですが、そこは工数をかける程売上が上がることになります。したがって、どうしても開発を効率化する、システムをシンプルにするといった提案がしにくい事業構造であり、特に、ノーコードツールを使ってユーザー企業が自分たちでシステム開発をするといった提案などできないのです。

 もし、自分たちの開発仕事が減って、売上もなくなってしまうのに、ノーコードツールの活用によってDXを進める提案をしてくるベンダーがいれば、その会社は信用していいでしょう。是非、あなたの会社が付き合っているベンダーに「ノーコードで自分たちで作ろうと思うんだけどどうかな?」と聞いてみてください。

 私は、デジタル人材がいない中小企業には、是非ノーコードに挑戦してもらいたいと考えています。そのためにはベンダー依存からの脱却が必要ですし、ノーコーダーが育つからベンダー依存から脱却できるとも言えます。それでもパソコンなどの調達やネットワークやセキュリティなど外部ベンダーの協力は必要ですから、信頼できるベンダーさんがいるなら大切にしたいところです。そのベンダーさんも既存客にしがみつくのではなく、新たな付加価値を生むビジネスへとシフトしてくれるとWin-Winになっていいですね。


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プロフィール

株式会社NIコンサルティング
代表取締役 長尾 一洋

中小企業診断士、孫子兵法家、ラジオパーソナリティ

横浜市立大学商学部経営学科を卒業後、経営コンサルタントの道に。

1991年にNIコンサルティングを設立し、日本企業の経営体質改善、営業力強化、人材育成に取り組む。30年を超えるコンサルタント歴があり8000社を超える企業を見てきた経験は、書籍という形で幅広く知られており、ビジネス書の著者でもある。(「長尾一洋 著者」と検索)

またラジオ番組の現役パーソナリティでもあり、番組内で経営者のビジネスに無料でその場で答えていくスタイルが人気。この文化放送「長尾一洋のラジオde経営塾」(毎週月曜19:30~20:00)では、聴取者からのビジネス相談を下記のホームページから受け付けている。 番組公式Twitterのアカウントは、@keiei916。(どうぞフォローをお願いします)


文化放送 月曜19時30分から放送:長尾一洋 ラジオde経営塾

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