【DX】ここに気を付けろ!デジタル人材がいない中小企業が陥る罠
第4回
補助金がもらえるからと無駄な投資をしてしまう罠
株式会社NIコンサルティング 長尾 一洋
意思決定の基準がIT導入補助金でいいのか
中小企業の経営者に、DXの提案をしていると、「補助金がもらえるなら導入するけど、もらえなかったら止めておく・・・」と言われることがあります。もらえるものはもらっておきたいという気持ちは良くわかります。しかし、補助金には予算枠があり、要件を満たしていたとしても採択されないことがあります。自社の未来にとって必要なことだと判断してDXを進めよう、デジタル投資をしようと決めたのに、補助金がもらえなかったら止めておくって・・・どうなのでしょう。「社長の意思決定の基準は補助金なのですか?」と突っ込みたくなります。
自社がDXを進める上で必要な投資は、補助金がもらえるかどうかに関わらず必要なものでしょう。結果としてその投資が補助金の対象となり、1/2でも補助金がもらえれば、経営的に助かったということにはなるでしょうが、補助金がもらえるかどうかを意思決定の基準にしていてはDXがうまく進むとは思えません。
なぜならDXとは、「デジタルの力を活用してビジネスモデルや業務プロセスを変え、競争優位性を高め続ける終わりのない取り組み」だから。何かしらのシステムやハードを購入して終わりではないのです。初期のソフトウェア購入費や導入関連費用が補助金によって安く済んだとしても、DXの本番はそこから始まるわけです。補助金がもらえるからと安易に意思決定してシステム導入したとしても、それがうまく使われ、活用が進んで、その企業の競争力強化に結び付かなければ、安く買えたつもりが、結局は高い買い物になったということになるでしょう。
実際のところ、国がデジタル化を推進しようとしていることもあって、IT導入補助金の採択率は高くなっているようです。それによって恩恵を受けているユーザー企業やITベンダーも多いと思います。筆者の会社も例外ではありません。ご提供しているシステムの費用が補助金対象になって、商談がスムーズに進むということが結構あります。
こんなことを書いたら、多くのITベンダーさんに怒られそうですが、営業的な立場で売り込むことを考えれば、「補助金も出ますから、これもついでにやっておきましょう。ついでにパソコンなども入れ替えますか」と追加提案もやりやすいわけです。
そうすると、まさに「補助金が出るならそれも入れてしまおうか」と、いつもはコストに敏感な経営者が緩いことを言い出してくれたりするのです。コストに敏感だからこそ、補助金がもらえるなら、とコスト計算をしているのだと思いますが、補助金や助成金がもらえても、全額もらえることはなく、持ち出しはあるわけですから、本当に自社に必要なものかどうか、補助金がなくてもやるべきだと意思決定するかどうかと考えてみるべきでしょう。
中には、以前は購入しないと認められなかったソフトウェア費用がクラウドサービスの利用料でも認められるようになって、その場合対象期間が1年とか2年とか決められているわけですが、全く利用もしていないのに補助金をもらったからと解約せず、対象期間が満了した瞬間に解約したという何とも意味のないことをした企業もありました。
バーゲン品のように粗末に扱ってしまう罠
さらに、問題だと思うのは、補助金をもらって導入したシステムを、まるでどこかのバーゲンセールで安く買った洋服や雑貨のように粗末に扱ってしまう会社があるということです。まったく利用していないというケースはさすがに稀ですが、なかなか活用度が上がっていないというケースは結構あります。私が「このシステムは活用されていないようですね」と言うと、「あぁ、これは補助金もらって安く買ったものだから」と、安いバーゲン品だから雑な扱いでいいのだというような返答をされるのです。
定価で買って、「高いものだから」と大切に扱って長く使うのと、半額セールで買って「バーゲン品だから」とロクに使いもせず仕舞い込まれているのとで、どちらが得したと言えるのかという問題です。
やはり、導入後においても、コストだけに着目して、補助金があるからと安易な意思決定をしたことが尾を引くことになるのです。高いか安いか、補助金がもらえるかもらえないかということに気を取られるのではなく、自社のDXの方向性やシナリオに照らして必要なものかどうかを考えるべきでしょうし、DXはデジタル活用を当たり前にする終わりのない取り組みですから、導入後の運用コストをよく考えておくべきでしょう。
補助金を有効に活用しよう
インボイス制度や電子帳簿保存法などへの対応もあり、中小企業のIT化、デジタル活用投資への補助金や助成金は、予算額も大きくなり、より要件も広がって使いやすいものになってくるでしょう。国だけでなく地方自治体の助成もありますから、WEB検索して探してみるなど、自社でもアンテナを立てて最新情報を収集するようにしておきたいものです。
一方で、自社がどうDXを実現していくか、そのために必要なものは何かという検討や議論は、補助金の対象や要件とは別にするべきです。全額支給されるならまだしも、1/2や1/3は自社の支出があるのであれば、安易な意思決定は結局無駄なコストになる可能性が高いように思います。
また、これは自社に必要な投資だと意思決定したのに、補助金が出なかったからとその投資をストップするというのも良くないですね。経営者のDXに対する意識が、補助金の有無に左右される程度のものだったのかと社内にマイナスのメッセージを発することになってしまいます。
必要な投資は補助金が出なくても断固として進める。しかし、それが補助金の対象になるのであれば、もらえるものはもらっておくという姿勢で進めてもらえればと思います。
くれぐれも、補助金がもらえるからと無駄な投資をしてしまう罠にはまってしまわないようお気をつけください。
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プロフィール
株式会社NIコンサルティング
代表取締役 長尾 一洋
中小企業診断士、孫子兵法家、ラジオパーソナリティ
横浜市立大学商学部経営学科を卒業後、経営コンサルタントの道に。
1991年にNIコンサルティングを設立し、日本企業の経営体質改善、営業力強化、人材育成に取り組む。30年を超えるコンサルタント歴があり8000社を超える企業を見てきた経験は、書籍という形で幅広く知られており、ビジネス書の著者でもある。(「長尾一洋 著者」と検索)
またラジオ番組の現役パーソナリティでもあり、番組内で経営者のビジネスに無料でその場で答えていくスタイルが人気。この文化放送「長尾一洋のラジオde経営塾」(毎週月曜19:30~20:00)では、聴取者からのビジネス相談を下記のホームページから受け付けている。 番組公式Twitterのアカウントは、@keiei916。(どうぞフォローをお願いします)
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