【DX】ここに気を付けろ!デジタル人材がいない中小企業が陥る罠

第3回

ベンダーを業者扱いして手抜きされる罠

株式会社NIコンサルティング  長尾 一洋

 

うまく使っているつもりがうまくやられている

前回は、長年の付き合いがあり、自社のことを理解してくれていて、小回りも利くベンダーさんに、ついつい依存してしまうことによる弊害について取り上げましたが、今回は、ベンダーさんを業者扱いして、うまく使っているつもりが気付かないところでサボタージュされてしまう罠について取り上げます。

中小企業の経営者とDXの話をしていると、「うちは外部のシステム会社をうまく使っていますから」とか「ITベンダーからの提案が高かったので安くさせてやりました」などと、デジタル人材もいない中小企業で、その経営者もITツールやデジタルに精通しているわけでもなさそうなのに、出入りのベンダーさんを業者扱いして、値切ったり、タダ働きや過剰サービスをさせることで「うまく」使っていると自慢げな発言が飛び出すことが少なくありません。

外部ベンダーを「うまく」使っているなら、DXの推進もさぞやうまく行っているのだろうと言いたいところですが、その経営者からは「うちにはデジタル人材もいなくてDXなどできない」「そもそも社内は紙だらけで社員もアナログ社員ばかりです」といった弱音を聞かされるのです。私は「うまく使ってないじゃないですか!」と心の中でつぶやくことになります。

参考までにと、ベンダーさんからの提案書や見積書を見せてもらうと、「こんなに高いスペックのものはこの会社に必要ないだろう」とか「クラウドサービスで充分なのにオンプレミス(サーバーやソフトウェアを自社で保有する買取型の利用形態)提案されて高い見積りになっている」とか「ここまでは必要ないだろうというような過剰なフォローサービスが見積りに入っている」ということがあったりします。

デジタル人材がいない一般の中小企業では、ITツールやその支援サービスの相場も分かっていませんから、高いとか安いとか言っても、基準も不明確な思い付きのようなものであり、値切ったつもりが、そもそも高めの見積りが出ていただけで、大して安くなっているわけではなかったといったことがあるわけです。要するに、ベンダーをうまく使っているつもりが、ベンダーにカモにされてうまくやられているかもしれないのです。



ベンダー側もビジネスなのだから事前に予防線を張る

ちなみに、敢えて過剰なスペックの割高な提案をしてくる悪徳ベンダーが多いわけではありません。元々は良心的なベンダーであっても、付き合ううちに「この会社はタダで何でもやれと言ってくる」とか「この社長は値引きをしつこく言ってくる」とか「呼ばれたらすぐに行かないとクレームをつけてくる」といったことが分かるので、当然、事前にそれを見越した提案や見積りを出すようになるわけです。ビジネスですから採算を考えるのは当たり前のことですね。

今どきは、「こちらは金を払っている客なのだから何でも言うことを聞くべきだ」と言わんばかりの態度で接するのは、カスタマーハラスメントと言われかねない所業でもありますので、気を付けたいものです。

私自身も、いろいろなITベンダーさんと共同してDXの提案をすることがありますから、ベンダーさんと一緒に業者扱いされ、値引きや無償サービスを要求されて辟易とした経験が少なからずあります。私の場合はそんなことをされると一気に提案する気も失せて、「じゃー、勝手に他の安い業者でも探してくれ」と言い放って席を立ちたくなるのですが、共同提案しているベンダーさんに悪影響があってはいけませんので、その場ではひたすら我慢です・・・。腹が立つのを何とか抑えて商談を終えてから、同席したベンダーさんに「よくあんな会社とお付き合いしていますね」と言うと、「あの社長はいつもしつこく値引きを要求してくるので初めから織り込み済みです。何かあるとすぐに来いと言って来るので、あまり新しい提案もしたくないんですよ」とさらっと言われたりもします。ベンダーさんの方が一枚上手なわけです。私はそれでまた「そんな会社に一緒に提案させないでよ・・・」と思うわけですが・・・。

DXは知恵の勝負 モノを値切るようにはいかない

自分が目利きできる業務や商品、分野であれば、高ければ値切って妥当な価格にさせたり、必要な付帯サービスを要求することもあってしかるべきでしょう。しかし、ITやDXといった領域に見識があるわけでもない「デジタル人材がいない中小企業」の人が、根拠や基準もなく、相手の採算を考えることもなく、「とにかく安くこき使ってやろう」とベンダーさんを業者扱いして過剰な要求をすることは決してその会社の得になりません。

なぜなら、DXは知恵やアイデアの勝負だから。

パソコンやサーバーなど、ハードの調達であれば、安く買い叩いて、営業担当者の気分を損ねたとしても、性能が変わるわけでもありません。定価があったりもするし、ネットで検索すれば他社での販売価格も分かったりもします。

しかし、それがDXで、デジタルを活用してその会社を変え、競争力を高めて行くという話になれば、ただハードを揃え、ソフトウェアを導入すれば良いのではなく、それをどう使い、どういうビジネスを実現して行くかという知恵やアイデアが重要になります。その時、「デジタル人材がいない中小企業」では、ベンダーの担当者から「こんな使い方はどうでしょうか」「こんな事例もありますよ」「御社の場合はこういうビジネス展開が考えられるのでは」というマニュアルにはない、パンフレットにも書いていない、ちょっとした情報や知恵をもらいたいはずです。

ところが、そのベンダーの担当者が「この会社にヘタなことを提案したら面倒なことになる」「どうせ提案しても高いと言ってやらないだろう」などと思っていたらどうでしょう。そんな情報提供や提案をしますかね? しなくても誰にもバレませんし、手を抜いても誰も気付きませんから、ちょっとしたサボタージュをしてしまう人もいるのでは?

ヘタに親切にいろいろ考えてあげて、その会社のことを思って提案しても業者扱いして、値切られるばかりであれば、余計なことをしたくないと考えても文句は言えないでしょう。

これは外部のベンダーだけのことではなく、自社の社員でも同じことです。頭を使い、知恵やアイデアを出して欲しいなら、相手をその気にさせ、思わず手伝いたくなるようにさせるべきです。

「デジタル人材がいない中小企業」であれば、外部ベンダーの協力は不可欠ですから、安くこき使うよりも、親身に自社のことを考えて知恵を出してもらえるように気遣いすることを忘れないようにしたいものです。

もちろん、適切な価格交渉はあって当然であり、素人だと思って過剰な提案をして来るような業者を見極めることも必要なので、依存関係にはならないように気をつけましょう。


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プロフィール

株式会社NIコンサルティング
代表取締役 長尾 一洋

中小企業診断士、孫子兵法家、ラジオパーソナリティ

横浜市立大学商学部経営学科を卒業後、経営コンサルタントの道に。

1991年にNIコンサルティングを設立し、日本企業の経営体質改善、営業力強化、人材育成に取り組む。30年を超えるコンサルタント歴があり8000社を超える企業を見てきた経験は、書籍という形で幅広く知られており、ビジネス書の著者でもある。(「長尾一洋 著者」と検索)

またラジオ番組の現役パーソナリティでもあり、番組内で経営者のビジネスに無料でその場で答えていくスタイルが人気。この文化放送「長尾一洋のラジオde経営塾」(毎週月曜19:30~20:00)では、聴取者からのビジネス相談を下記のホームページから受け付けている。 番組公式Twitterのアカウントは、@keiei916。(どうぞフォローをお願いします)


文化放送 月曜19時30分から放送:長尾一洋 ラジオde経営塾

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