第2回
優美な音色「愛しきヴァイオリン」のピンとキリ
■前回からの流れ
初回のコラムでは、楽器の王様「ピアノ」の誕生秘話をお届けしました。
2回目は、楽器の中でもサイズ・品質・価格、そして演奏者の技量による格差の大きい「ヴァイオリン」を取り上げ、「ピンとキリ」と題して、楽器の構造も含めた雑学をお伝えします。
■ヴァイオリンって何?
弦楽器における、擦弦楽器の一つであるヴァイオリンは、1565年頃のイタリアで、今の形状と同じ完全な形で誕生しました。形状が400年以上経っても変わらないというのは、継承力の強い楽器である証拠といえるでしょう。
標準サイズで重さ560g程のこの楽器は、軽量でありながら、非常に繊細かつ多彩な音色を奏でます。
右図はヴァイオリンの主な名称ですが、このうち青印で記した「弦」、「f 字孔(エフじこう)」、「弓毛」をクローズアップします。
まずは、弦。 素材は3種類です。
①ガット弦
古くから様々な弦楽器の弦として用いられました。
羊の腸から強い繊維を取り出して乾燥させ、よじり合わせたものにアルミや銀を巻き付けたものです。
響きが柔らかく、温かみがあります。高価で寿命が短いのがネックです。
②スチール弦
スチールの巻線でできています。柔らかさは劣りますが、力強い響きです。
低価格で寿命も長めです。
③ナイロン弦
ナイロンの巻線です。ガット弦とスチール弦の中間的な存在で、近年、とても人気があります。
参考までに、羊の腸(羊腸)は、ソーセージケーシングとして精肉店や有名百貨店で売られており、今も手作りでガット弦を作る根強い支持者がいます。
次に、洒落たフォルムのf 字孔。
本体の左右対称に開けられたf の形に似ている穴を、f 字孔(エフじこう)といいます。見た目の装飾と機能性をかねており、この穴を通して、空気が出入りすることで、響きを向上させる働きを持っています。
では、もしこのf 字孔の穴からゴミやホコリが沢山入ってしまったら、どうやって掃除するのでしょうか。
↓
内側のお掃除には、お米が大活躍します。 f 字孔から何十粒かお米を投入し、シャカシャカとシェイクする。
その後、楽器を逆さにすると米粒と一緒に細かいゴミやホコリが一気にでます。誰が考えたのかわかりませんが、先人の知恵に脱帽です。
最後に、張りのある弓。
弦を巧みに擦る弓は、全て馬の毛でできており、1本の弓には約150本の毛が張られています。
馬の毛と言ってもいろんな品種があって、中でも飼育数の多くフサフサしている、モンゴル産の白馬の毛は人気が高いです。
ヴァイオリンの良き音色のために、容赦なく尻尾の毛を抜かれていく馬…。少し複雑な想いですね。
■ヴァイオリンのピンとキリ
ヴァイオリンほど、楽器面でも技術面でも「ピンとキリ」のある楽器は他にないと言えるでしょう。以下、項目別に比較してみます。
①楽器サイズのピンとキリ サイズは全7種類。身長105㎝以下の子供から180㎝を超える成人まで、体格に合わせたヴァイオリンのサイズが5?10㎝単位で用意されています
サイズ | 4/4 | 3/4 | 1/2 | 1/4 | 1/8 | 1/10 | 1/16 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
大きさ | 58.9cm | 55.6cm | 51.6cm | 47.8cm | 43.9cm | 40.7cm | 36.1cm |
身長 (cm) |
145以上 | 145~130 | 130~125 | 125~115 | 115~110 | 110~105 | 105以下 |
②楽器価格のピンとキリ
価格については、安い物では通信販売でも売られている29,800円から、最高額は驚くなかれ、昨年(2011年)6月にロンドンのオークションで落札された額、12億7000万円までと、天と地のような価格差があります。
ヴァイオリン1本に12億以上もの金額を支払うお金持ちは誰なのでしょうか。
残念ながら、宝くじの1等当選者の非公表と同様に、落札者は公表されていません。
参考までに、この極めて高額なヴァイオリンは「レディ・ブラント」と名付けられた、イタリアの名職人ストラディヴァリの製作による1721年製のものです。
破格の一品ですが、出品者は日本音楽財団で、落札で得た収益の全額を東日本復興支援策として寄付しました。そう聞くと、納得できるオークションかもしれません。
③演奏者のピンとキリ
ヴァイオリンは先述の通り、体格に合わせたサイズが用意されていますので、その演奏も初心者のような「ギーコギーコ」と、かすれた鈍い音の羅列に聞こえるレベルから、鳥肌が絶つような繊細で奥深い美しい音色を奏でるレベルまで、これもまた差が激しいものです。
そこで、一流のヴァイオリン奏者によく見られる特徴を3つ程、取り上げます。
1)アゴのあざ
ヴァイオリンはあご当てにアゴをつけて楽器を支えて演奏しますので、アゴから首筋にかけてあざができることがあり、これは奏者にとっては勲章のようなものですが、炎症の痛み等に耐えながら演奏している方もいます。
まさに努力の証です。
2)いかり肩
長時間、楽器を構えていると、さすがに肩も固くイカってきます。
普通に生活してても、緊張したり力むと肩がイカるのですから、これはかなり納得です。
3)カエルのような指
これも想像するだけで納得です。弦をしっかり押さえて演奏する訳ですから、音符数が多い程、指への負担は避けれないです。指先が関節よりも太く丸っぽくなります。これは、ピアニストにも起こりうる特徴です。
■イタリア楽器職人の熱き想い
歴史の古いヴァイオリン、中でも希少価値の高いイタリア楽器の製作者、グァルネリやストラディヴァリの個人名は、そのまま楽器の名称(メーカー)になっています。
彼らの製作した楽器にプレミアムがつく理由には、①音色 ②響き ③フォルムの美しさや製作年度等が挙げられ、これらが仕事の精度の高さを物語っています。これは、ワインの選別(生産地、熟成期間、香り、味等)と少し似ているかもしれません。
一般的には製作年度の古いものがプレミアムとして重宝がられる傾向にはありますが、楽器としての品質が重視されるため、古ければ価格が高いとは一概に言えない面もあります。
その上で、名器たちを製作する職人の技と、何百年たっても愛好してほしいと願う熱き想いは、楽器の絶妙なボディラインの精密な削りに、装飾性の強いf 字孔の形状に、そして表面の幾重にもなるニスの塗り方に現れていると言われています。
そして職人の想いを受け継ぐかのように、演奏者達は信頼ある業者を通して、貴重な楽器と出会い、“優美な音色の「愛しきヴァイオリン」“ として、大切に奏でていくのです。
次回のコラムでは、“輝く響き「迫力のトランペット」、歴史の重みに隠された奏者の苦労”と題して、引き続き音楽雑学をお伝えしていきます。 お楽しみに!
プロフィール
株式会社 ブランディングメッセージ
代表取締役 宮川 則子
東京都新宿区生まれ。音大卒業後、商船会社の総務部に勤務。
退職後、音楽講師、音楽事務所経営を経て、2015年、箔押し印刷、彫刻加工販売の「BRANDING MESSAGE(ブランディング メッセージ)を立ち上げる。
2017年 企業・団体様のベルティ製作会社として法人化。
企業宣伝ツール、セルフイメージアップツールに有効な箔押し印刷、並びに彫刻加工をメインに、企業・店舗・団体のブランディング活動のサポート事業を行っている。
小ロット対応。デザイン提案から納品まで、親切丁寧に対応いたします。
<事業内容>
1.ブランディング事業
・箔押し印刷、彫刻加工、シルク印刷によるノベルティ製作、販売
2.ライフサポート事業
・音楽イベント、コンサート企画運営
・ビジネスセミナー企画運営
・ウェブ、デジタルブック制作
Webサイト:株式会社ブランディングメッセージ