第5回
「チョコレート」みたいな普通の言葉でも商標登録できるの??~普通名称にまつわる話
ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所 堀越 総明
憧れのショラティエとして起業!ブランド名は「チョコレート」!?
子どもの頃からチョコレートが大好きなA子さん。大学を卒業した後、事務機器メーカーに就職しましたが、ショコラティエになる夢をあきらめられず、週に2日、仕事帰りに、チョコレート作りのスクールに通って腕を磨いています。
好きこそものの上手なれとはよく言ったもので、A子さんが実習で作るチョコレートは、職場の仲間から「おいしい!」と大評判です。「早くお店始めなよ~」という、みんなの後押しもあり、A子さんは、ついに会社を辞め、チョコレートショップを開業する決意をしました。
商品のラインナップはあっという間に固めたA子さんですが、チョコレートのブランド名がなかなか決まりません。そこでA子さんは、久しぶりに高校時代の親友B子さんに電話して、相談することにしました。
B子さん 「A子もついに念願のショコラティエか~。おめでとう!」
A子さん 「でもブランド名が全然決まらないのよ。B子、なんかいいアイデアない?」
B子さん 「そうね~、よく甘党とか辛党とかいうから、『チョコレート党』なんてどう?」
A子さん 「なんか堅いイメージね。」
B子さん 「じゃ、『希望のチョコ』とかはどう?だいぶやわらかい感じでしょ?」
A子さん 「でも、ブランド名っぽくないわよね。」
B子さん 「じゃ、『立憲チョコレート』は?お店のスタートダッシュに最適よ!」
A子さん 「もうB子には相談しない・・・。」
A子さんは、結局1人で考えた結果、チョコレートのブランド名を、最もシンプルな「チョコレート」にすることにしました。早速商標登録をしようと、大学時代の友人である弁理士のHさんに相談すると、Hさんからは意外な答えが返ってきました。
Hさん 「A子さん、『チョコレート』みたいな普通の言葉は商標登録することができないんです。でも、誰も商標登録できないってことは、その商標は誰でも自由に使用できるってことなんで、A子さんがチョコレートのブランド名を『チョコレート』にしてもまったく問題ありませんよ。」
友人がアクセサリーのブランド名として「チョコレート」を商標登録!
それから半年後、ついにA子さんのお店はオープンし、ブランド名「チョコレート」の商品が発売されました。開店の日にお祝いに駆けつけたB子さんは、A子さんのお店のショーケースをのぞいて驚きました。
B子さん 「ブランド名、『チョコレート』にしたの!?」
A子さん 「そうよ。色々迷ったけど『立憲チョコレート』よりかはいいと思って。」
B子さん 「実は私も、来月に手作りのアクセサリーショップを始めるのよ。」
A子さん 「B子、おめでとう!B子は美大でアクセサリーのデザインを勉強してたもんね。」
B子さん 「で、私のアクセサリーのブランド名なんだけど、、、『チョコレート』なのよ。A子にブランド名のアドバイスしてて、なんか『チョコレート』が、かわいくていいかなって思って。」
A子さん 「別にいいのよ。『チョコレート』みたいな普通の言葉は商標登録できないし、誰でも自由に商標として使用できるって、友人の弁理士が言ってたわよ。」
B子さん 「それが、、、私『チョコレート』を商標登録したのよ。商標出願したら特許庁から普通に登録査定もらっちゃった。」
A子さん 「な、な、なんですって!それじゃ、私、もうブランド名に『チョコレート』を使用できなくなっちゃうの!?」
「チョコレート」のような普通名称は商標登録できません
A子さんは、友人の弁理士Hさんに、商標「チョコレート」は普通の言葉なので商標登録することができず、誰でも自由に使用することができるとアドバイスされていました。
Hさんの言うとおり、商標登録を受けることができない商標の代表例として、「普通名称」があります。「チョコレート」「カラーテレビ」「りんご」「美容」のような一般的な名称はもちろんのこと、「パソコン」「スマホ」のような略称も、普通名称にあたり商標登録を受けることができません。
そもそも「商標」というものは、その商品やサービスの提供者を区別できるようにするためのネーミングやマークのことです。「カラーテレビ」という商標をカラーテレビに付けて販売していたとしても、その商標が他社製品と区別できるようなブランド力をもつことはないですし、また、そのような一般的な名称に商標登録を認めて、特定のメーカーに独占的に使用させてしまったら、カラーテレビを販売したい他のメーカーは困ってしまうので、普通名称は商標登録を受けることができないこととなっているのです。
「チョコレート」でも指定商品を異なったジャンルにすれば商標登録を受けられます
しかし、もし「カラーテレビ」という商標を美容室の名前として使用する場合はどうでしょうか?決してセンスの良い名前ではありませんし、そのような美容室は流行らないでしょうが、その商標は、お客さんにとっては、「美容室『カラーテレビ』ね!知ってる、知ってる。」というように、他の美容室と区別する役割を果たすことができます。
商標登録を受けるときは、商品やサービスのジャンルを指定して商標出願することとなりますが、「カラーテレビ」のような一般的な名称でも、指定する商品がテレビなどの電化製品でなければ、商標登録を受けることができるのです。
このことについては、商標「Apple」の例が、最もわかりやすいかもしれません。商標「Apple」について、商品「りんご」を指定すれば商標登録は受けられませんが、商品「コンピュータ」を指定すれば、他社のコンピュータと区別する役割を果たせるので、アップル社の商標登録は認められているのです。
つまり、A子さんの場合は、商標「チョコレート」を商品「チョコレート」に使用しているので商標登録は受けられませんが、B子さんは商標「チョコレート」を商品「アクセサリー」に使用しているので商標登録を受けることができたというわけです。
さて、A子さんは血相を変えて弁理士Hさんに電話を掛けました。しかし、商標「チョコレート」は商品「チョコレート」に対しては普通名称だから誰でも自由に使用できるということと、そもそも商品「チョコレート」は、B子さんが商標登録を受けた商品「アクセサリー」とはまったくジャンルが異なるので、B子さんが商標登録を受けた後でも、A子さんのブランド名は「チョコレート」のまま変える必要はないと説明を受けて、ほっとしたということです。
ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)
日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役
「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。
特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。
現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。
また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。
○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
【著書】
「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。
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