これだけは知っておきたい商標の話

第6回

「秋葉原」みたいな地名を使った店名でも商標登録できるの??~記述的商標にまつわる話

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所  堀越 総明

 

フランス人の同僚のお父さんが日本でアニメショップを開業することに!


大手アパレルメーカーにデザイナーとして勤務しているAさんは、近々、同じ職場に、フランス人のデザイナーBさんが配属されることになり、そわそわしています。Aさんには、「いつかはパリコレに!」という夢があるため、Bさんが職場にやって来たら、あれこれとフランスのファッション事情を訊きだそうと張りきっています。
しかし、翌週になり、職場にやって来たBさんを見て、Aさんは唖然とします。なんと、Bさんは、全身を「機動戦士ガンダム」に登場するアムロのコスチュームに包んでいるではありませんか。


Bさん 「ボンジュ~ル!ムッシュA!ヨロシクオネガイシマス。」
Aさん 「ぼ、ぼ、ぼんじゅーる・・・。」
Bさん 「ムッシュA、ドウシマシタカ?お腹イタイデスカ?」
Aさん 「いや、キミの服装を見て驚いているんだよ。」
Bさん 「オー!アナタモ、ガンダム好きデスカ!!」
Aさん 「・・・・・。」


かなり変わり者のBさんですが、それでもなんとなく気が合う2人は、毎日ランチを共にするようになりました。
ある日の昼休み、いつものように2人でランチをしていると、Bさんは、Aさんに相談を持ち掛けました。
Bさん 「アノー、ムッシュA、コンドのニチヨウビ、イッショニ不動産屋さんイッテモラエマスカ?」
Aさん 「Bさん、どうしたの?引越でもするの?」
Bさん 「チガイマス。コンド、ワタシのパパが日本ニキマス。日本デお店ハジメマス。お店の物件サガスヨウニイワレマシタ。」
Aさん 「何のお店なの?」 Bさん 「アニメショップデス!」
Aさん 「Bさんのお父さんもガンダムが好きなの!?」
Bさん 「チガイマス!パパは“マジンガーZ”がダイスキデス!ガンダムとマジンガーZとドチラガツヨイカ、イツモケンカシテマス!」


店名「秋葉原」の商標出願はあえなく拒絶理由通知を受けることに!


Aさんの協力もあり、良い物件を見つけたBさんはご満悦です。間もなく、フランスからBさんのお父さんのCさんが来日し、物件探しを手伝ってくれたお礼にと、Aさんを招待して、3人で食事をすることになりました。


Cさん 「Aサン、ヨイ物件サガシテクレテ本当にアリガトウ!」
Aさん 「いいんですよ。いつもBさんにはお世話になっていますし。ところでアニメショップの名前は何にするんですか?」
Cさん 「“秋葉原”デス!お店ハジメルトキハ、アコガレのAKIHABARAをお店のナマエにスルト決メテイマシタ!モウ商標出願もシマシタ。」


しかし、それから数ヶ月後の朝、出勤してきたBさんは何やら落ち込んでいます。「どうしたの?」と声を掛けたAさんに、Bさんは目に涙を浮かべながら言いました。
Bさん 「“秋葉原”ノ商標出願、拒絶理由通知ウケマシタ。特許庁マチガッテイマス。ナンデ“秋葉原”ダメ!?ナンデ、パパのユメ、ウバウ!?Aさん、ヨイ弁理士ショウカイシテクダサイ!!」




「秋葉原」などの地名は一般的には商標登録は受けられません


Bさんは、お父さんの長年の夢だったお店の名前「秋葉原」の商標出願について拒絶理由通知を受けて、ショックを受けているようです。それでは、Cさんはどうして特許庁から拒絶理由通知を受け取ってしまったのでしょうか?


商標法では、前回のコラムで説明した普通名称の他にも、商標登録できない商標がいくつか規定されています。そのなかのひとつに、商標出願のときに指定する商品の産地・販売地・品質・原材料・効能・用途・形状、またはサービスの提供場所・質などを、普通に表したに過ぎない商標というのがあり、これらの商標は、少し難しい言葉ですが、商品やサービスの一定の状態を記述しているだけということなので、総称して「記述的商標」といわれています。

Cさんのお店の名前「秋葉原」は、“アニメグッズの小売”というサービスの「提供場所」をあらわしている記述的商標に過ぎません。そのため、Cさんは特許庁から拒絶理由通知を受け取ることになってしまったのです。


もし、記述的商標でも商標登録することができ、Cさんに「秋葉原」の商標登録を認めてしまったらどうなるでしょうか?その場合は、「秋葉原」の地でビジネスを行うすべての人が、ビジネス上で当然に必要となる「秋葉原」という表示を自由に使用できなくなってしまいます。これは大問題です。また、記述的商標が商標登録を受けられないその他の理由として、通常は、こうした商標は、すでに社会で一般的に使用されている場合が多いので、仮にCさんに商標登録を認めたとしても、「秋葉原」がCさんの登録商標だと消費者の間で認知されるとは考えられないため、そもそも商標登録の意味がないからだともいわれています。


商品の品質・原材料・効能・用途などを表す言葉も商標登録できません


今回は、「秋葉原」という地名(商品の産地・販売地、サービスの提供場所)を例に説明しましたが、記述的商標には、その他にも、商品「ビール」について商標「本生」(商品の品質)、商品「洋服」について商標「カシミア」(商品の原材料)、商品「入浴剤」に商標「うるおいアップ」(商品の効能)、商品「靴」について商標「登山」(商品の用途)など、様々なケースが考えられます。


さて、BさんとCさんの親子は、Aさんから紹介してもらった弁理士Hさんに相談したところ、やはり商標「秋葉原」は記述的商標なので、普通の文字商標として商標登録を受けることは難しいと説明を受け、がっくりと肩を落としました。しかし、Cさんは、憧れの街でアニメショップを開業する情熱により、すぐに気を取り直し、新しい店名を「アキバ de ボンジュール」に決め、弁理士Hさんに頼んで、すぐに商標出願したということです。



※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※本コラム記事に登場する商標はすべてフィクションです。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役


「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
 
【著書】

「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
 
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。

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