IoTキュレーション

第3回

フェイスブックの暗号資産は「いいね!」を集めるか

ピーエムグローバル株式会社  執筆

 

フェイスブック本社の正面看板=同社提供 

 会員型情報交換サイトのフェイスブック(FB)が提唱する暗号資産(仮想通貨)「Libra(リブラ)」が注目を集めている。FBは世界の巨大プラットフォーマー「GAFA」の一角として多大な影響力が指摘される一方、個人情報の管理を疑問視する向きも多く、新構想の狙いをめぐっては、さまざまな意見が出ている。


 リブラが代表的な暗号資産のビットコインなどと決定的に違うのは、円や米ドルといった複数の法定通貨が裏付けになって発行される点だ。裏付け資産があるため、FBはリブラの価値が暴落したり、高騰したりすることがない「ステーブルコイン」になり得るとしている。


 フェイスブックは企業コンソーシアムを結成して資金を集め、保有する法定通貨の資産で価格を裏付ける「通貨バスケット」を採用する。運営はスイスに本拠を構える「リブラ協会」が担い、保有資産の運用益で価格の裏付けをする。コンソーシアムには現在、決済サービスの世界大手Visaやマスターカードをはじめ、相乗りサービスなどを手掛けるウーバーなどの技術系企業や通信サービス大手ボーダフォン・グループなど20社以上が参画を表明。サービス開始を目指す2020年上半期までに100社以上のメンバーを募る予定だという。


 FBの狙いは、銀行など金融機関にアクセスできない発展途上国などへリブラを介した金融サービスを提供することとされる。リブラの価格は法定通貨によって裏付けられるため、現地の通貨に交換でき、ネット上にリブラがあれば、スマートフォンでの資産管理も可能で、現地通貨も調達できる。つまり、世界で通用する米ドルなどの法定通貨に匹敵する、新たな経済圏が誕生する可能性があるのだ。


懐疑的な声も

 運営構想が発表されたばかりのリブラについてはまだ不明なことも多い。日本など経済規制の厳しい国への参入見通しや匿名性の確保についても明らかにされていない。日本での扱いについては、リブラが投資する通貨や公債の変動で利益を生む仕組みを採用することから、有価証券とみなされる可能性も指摘されている。


 海外でも米下院金融サービス委員会のウォーターズ委員長や連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長らがリブラ構想の実現に異を唱えるなど、早くも当局から警戒の声が出ている。


 内閣府情報化参与などを歴任し、暗号通貨などに詳しい楠正憲氏は記事「なぜ金融当局はBitcoinよりLibraを警戒するのか」(6月23日付Yahoo!ニュース)でリブラは資産的な裏付けがあることから決済手段として使われる可能性に言及した上で、月間のアクティブユーザー数が27億人ともされるFBが米ドルやユーロ、中国元をしのぐ経済圏を生み出す潜在性があるため、各国の警戒を招いていると分析する。楠氏は、海外では暗号資産を規制する動きが広がりつつあることにも触れ、多国間の枠内でのマネーロンダリング対策や信用秩序の維持の視点からとらえる必要があるとしながら、金融当局と「うまく折り合う」ことができるかを重要視している。


否定しがたい潜在性

 ジャーナリストのジョン・エバンス氏はIT系ブログサイト「Tech Crunch」の6月23日付コラム‘Who’s going to use the big bad Libra?’(日本語版はこちら)の中で、評論の多くが、リブラのターゲットである「銀行口座を持たない人」の観点を軽視しているとした上で、リブラの構想文書には両替についての説明が少ない点を問題視する。新たな決済方法を普及させる難しさや、現地では納税のための両替手数料が発生することなどを挙げながら、解明すべき点が多いことを強調している。


 一方でエバンス氏は、情報流出が発覚した「前科」のあるFBの電子マネーであることが、警戒感を生んでいることに触れつつも、FBが掲げる理念に一定の評価を与えている。個人ベースでの経済圏であれば、リブラがドルのような国際通貨になる可能性や、経済的に恵まれない多くの人の生活に恩恵をもたらす潜在性を否定していない。


信用を得られるか

 恩恵から取り残されてきた人々に、金融サービスを提供するという理念を掲げるリブラ構想だが、不明な点が多いのも事実。ブロックチェーンを採用すると発表したセキュリティ対策の詳細やエバンス氏が指摘するような両替活動への考察の足りなさもそのひとつだ。


 FBに対する信頼度には個人差があるが、リブラはスマートフォンの普及によるインターネットの民主化とグローバル経済が融合する、新たな可能性を示すもの支持される可能性は十分にあるだろう。FBはドルに代表される国際通貨体系に挑戦しているととらえる向きもあるようだが、それは考え過ぎかもしれない。何よりリブラは法定通貨が資産の裏付けになっており、既存の通貨システムを破壊することは自己矛盾でもある。


 極言すれば、通貨とは信用だ。当局から警戒されているFBが通貨という信用を扱おうとしているのは、同社の今後を占う上でも興味深い。FBが信頼を勝ち得るかが、リブラ普及の鍵になるだろう。


 

プロフィール

ピーエムグローバル株式会社

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