第4回
技術の進歩と宇宙開発の意義
ピーエムグローバル株式会社 執筆
宇宙船「アポロ11号」による月面着陸から50周年となる今年は、米航空宇宙局(NASA)が新たな月面有人飛行計画を公表するなど月面探査や宇宙開発が再び脚光を浴びている。アームストロング船長らの月面歩行から半世紀をへて、技術は飛躍的な進化を遂げている。今回は月探査をはじめとする宇宙開発と技術研究について考えたい。
月を目指すインド
宇宙開発をめぐってはインドで22日、無人月探査機「チャンドラヤーン(月の乗り物)2号」を乗せた国産ロケットの打ち上げが成功した。無人月面探査機の打ち上げは2008年に続き2度目だが、今回は探査用車両も搭載し、9月7日ごろに月への軟着陸を試みる予定だ。月面着陸に成功すれば、米国、ソ連(ロシア)、中国に次いで4カ国目の快挙となる。インドのモディ首相は、チャンドラヤーン2号が前例のない月の南極地域を探査することに触れるなど、国の威信をかけた月面探査の意義を強調している。
日本も探査車で
月面探査には日本の関心も高い。宇宙航空研究開発機構(JAXA)とトヨタ自動車は16日、移動用車両「有人与圧ローバ」を共同で検討することで合意したことを発表した。両者は燃料電池車(FCV)技術を念頭にした有人与圧ローバ(最大定員4人)の開発や月面探査での活用を視野に3年にわたり研究を進める。初年度は一般市販車をベースに車両の仕様を固め、21年度までに実験や評価を行う計画だ。トヨタとJAXAは今年3月に国際宇宙探査事業に共同参画する意向を表明しており、2030年代の月面探査と有人与圧ローバの導入を視野に、29年の打ち上げ実施を目指している。
月との遠隔操作
地球から月までの距離は38万キロメートル。宇宙開発に欠かせない技術のひとつが遠隔操作だ。月面探査が進むにつれて、月での拠点設営といった作業も実現性を帯びてくる。宇宙での建設技術については、JAXAと鹿島が月面の有人拠点の設置を想定した無人重機の共同開発を行っている。ジャーナリストの大塚実氏のレポート「未来の月面拠点建設はこうなる? JAXAと鹿島建設が自動化重機のデモを公開」によると、両者は重機による作業を無人化するための開発を進めており、月と地球と間には最大8秒もの通信時間の誤差が生じるため、鹿島の「クワッドアクセル」という建設機械の自律・自動運転技術を活用しながら、安全性と生産性の両立に取り組んでいるという。来年4月には秋田県のダム建設現場で導入が予定されているなど、実用化のめども付き始めている。通信の遅れへの対策としては、遅延分を予測した映像を画面表示して時間のずれを意識させない仕組みを採用していることや、宇宙空間というGPSが使えない状況下での位置推定技術の研究のほか、複数の重機が衝突しないための技術開発も行われていることが紹介されている。
アポロ計画の意義
アポロ計画が人々の暮らしに与えた影響については、英ノッティンガム・トレント大学で講師を務めるダニエル・ブラウン氏(天文学)が記事’We can thank the Apollo moon missions for these widely used technologies’で浄水システムや呼吸用マスク、コードレス装置など実用化された技術を挙げ、現代社会への貢献ぶりを紹介している。一方、NASAがフッ素樹脂「テフロン」を開発し、マジックテープもアポロ計画の成果などいった「都市伝説」については、いずれも同計画とは無関係と指摘し、事実関係を確認する。その上でブラウン氏は、人類が「月から見た地球」を目にできたことで環境問題という視座を与えられた点を強調する。有人宇宙飛行の意義とは、モノの発明だけではなく、われわれの考え方にどう影響を与えたか、という観点でも評価すべきだとしている。
宇宙への夢
月面探査をはじめとする宇宙開発事業は、スケールの大きさから人類にとってあらゆる可能性を想起させる。鹿島の担当者も、建設業界離れが進む若者を月面での自動化技術で取り込みたいとしているように、宇宙には夢やロマンといった感情に訴える部分があるのは否定できない。ただ、そうした宇宙に対するあこがれや希望が人類の進歩を促してきたことは、宇宙開発がもたらした科学技術上の数々の成果が証明している。
実用化が近づく自動運転車がもはや「空想上の技術」ではなくなり、遠隔操作技術が月面探査に応用される時代。今後の宇宙開発で採用される新技術が、未来の暮らしに還元される日もそれほど遠くないはずだ。そうした希望が持てるのは、月面着陸から50年を経った今も影響を与え続けるアポロ計画など、宇宙開発が人類にもたらした無形の効果のひとつと言えるだろう。
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