第8回
職場へのAI導入で何が変わるか
ピーエムグローバル株式会社 執筆
IoT(モノのインターネット)に人工知能(AI)を組み込むことに期待が寄せられている。米コンサルティング企業のSASはサービス「AIoT(AIのインターネット)」に関する調査を実施。それによれば、回答企業450社のうち約9割以上がIoTプロジェクトでAIを組み入れ、期待を上回る価値(バリュー)をもたらしていると評価したほか、AIを導入した場合のほうが、IoTのみの取り組みよりも競争力が上がるとみているという。
具体的には表計算やAIを使わないような日常業務の際、7割近くがIoTデータを活用。企画の決定内容を伝える場合に関しては、AIを使わずIoTのみに依存しているのは12%だった。一方、AIを業務に取り入れた場合、日中に計画できることが3割以上増えたことも分かった。
薄れる警戒感と高まる期待
期待の表れに比例するように、昨今指摘されていたAIへの警戒感や不信感は薄れつつあることも明らかになっている。「AIを職場の同僚または上司として信頼するか」という観点だ。
ソフトウエア開発大手の米オラクルなどがまとめた職場でのAIに関する調査によれば、自分の上司よりもロボットを信頼すると答えた人は過半を超え、能力への評価ではAIのほうが人間の上司よりも仕事ができると答えたのは全体の8割余りに上ったという。性別で見ると、AIに助言を求めるのは男性が56%で、女性(44%)を上回った。ただ、AIについては厳密に定義されておらず、自動化システムや自動応答機能(チャットボット)など回答者が「AI的と考えるもの」が対象になっている。
この調査は今年7~8月にかけて、世界10カ国・地域で働く正社員8300人余りを対象に実施され、日本からは415人が回答した。
上司に対する不満
日本の場合、自分の上司よりもロボット(AI)を信頼するとした回答が76%を占め、世界平均(64%)を超えた。日本の結果からは、会社員の間には上司への不信感やマネジメント能力に対する疑念が広がっている実態が浮かび上がってくる。オラクルが言及するように、日本の場合は年功序列による昇進もあり、人心掌握などのソフトスキルを必ずしも備えていない人がマネジメントを担うもある。そうした上司に不満を持つ部下も一定数いると考えられる。
日本の調査結果ではまた、世界平均と比べ、「スケジュール管理」「予算管理」「偏りのない情報提供」の項目でAIへの信頼度が高かった。慶應義塾大学大学院の岩本隆特任教授(経営管理)が指摘するように、合理性や論理性に基づいたマネジメントが行われていないか、または部下に十分に伝わっていないことも要因のようだ。
AI効果に対するイメージの違いも
さらに海外と比較すると、AIと仕事に対する日本人の考え方の特徴も透けて見える。
AI導入のメリットについて、日本では「自由時間の創出」の面で期待が大きい一方、海外では昇進・昇給といった「キャリアアップや待遇の向上」と関連づける回答が日本より10ポイント以上も高い結果となった。日本の回答者にはAI導入のイメージが効率アップまでにとどまり、生産性の向上や業績の拡大という「結果」をもたらせば、自身の業績アップや高評価につながるところまで想像できていないことが分かる。
日本は職場へのAI導入の効果について、業務効率の改善ばかりに意識が向けられ、「(AIを使って)仕事を成功に導ける能力」への評価が得られる、といった未来像まで描けていない。会社での出世や周囲からの評価が全てではないが、職業を通じて得られる自己肯定感も職務を遂行するための原動力のひとつであることは否定できない。AIで「周囲に認められる」可能性も広がるのだ。
AIがもたらすのは、競合に勝てる高い競争力や生産性の向上だけでない。事業を通じた業績アップやそうした成果を挙げた自身への評価や信頼感も生む。AIのマネジメントを重視する意味は、上司に対する評価を再認識することでもある。
AIを導入することで、結果的に上司を含めた評価のあり方が再確認され、キャリアアップからワークライフバランスの再定義といった「働く意義」を見直す機会も生まれると言えるだろう。 (了)
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