ビジネスの著作権

自分で創作した著作物が会社のモノ?-職務著作について-

弁理士の著作権情報室

著作物を創作した人が、著作者として著作権を持つことは当たり前ですよね。では、自分が創作した著作物であれば、自分が著作者として必ず著作権を持つことができるのでしょうか。実は、自分が創作した著作物であっても、著作者ではなく著作権を持てない場合があるんです。それがいわゆる「職務著作」です。

自分で創作した著作物が会社のモノ?-職務著作について-

誰が著作者なの?


著作者とは著作物を創作した者を言い、国籍、性別、職業は関係ありません。例えば、従業員が業務中に創作した著作物については、実際に創作した従業員が著作者になるのが原則です。但し、一定の条件の場合には所属している「会社」が著作者として著作権を持つことになり、このことを「職務著作」と言います。なお、著作者には、著作権に加えて著作者人格権という権利も認められますが、職務著作の場合には、著作者人格権も会社が持つことになります(著作者人格権についてはこちら→「著作者人格権ってどんな権利?著作権とはどう違うの?」。

職務著作の条件は?


以下の①~⑤の条件をみたした場合には、従業員が創作した著作物については、所属先の会社が著作者として著作権を持つことになります。
① 会社の発意に基づいた著作であること
② 会社の業務に従事する者の創作であること
③ 職務上作成されること
④ 会社の名義で公表されること
⑤ 契約や就業規則で従業員を著作者とする別段の定めがないこと

例えば、新聞社や出版社の従業員である記者が作成した記事については、上記①から⑤の条件を満たすことから、所属している新聞社や出版社が著作者になる場合が多いと言えます。但し、記事を書いた記者の名前が記されている記事もあり、その場合には記名が著作者の表示であると捉えることができることから、上記の条件の④が適用されず、職務著作にはならないでしょう。なお、職務著作については、勤務時間の内外は無関係であるため、自宅に持ち帰った仕事の過程で創作した著作物であっても、職務著作の対象になります。

アルバイトや派遣社員の人は?


では、アルバイトや派遣社員についても、職務著作は適用されるのでしょうか?結論から言うと、アルバイトや派遣社員であっても基本的な考え方は同じです。アルバイトや派遣社員も、所属先の指示に従って業務に従事していることになるため、所属先の「業務に従事する者」に該当することになります。よって、上記①から⑤の条件を満たす場合には、アルバイトや派遣社員が創作した著作物も、職務著作として所属先が著作者となり、著作権を持ちます。

外部のデザイナーに依頼した場合は?


出版社が小説や雑誌の表紙のデザインを外部(制作会社所属)のデザイナーに依頼することはよくあります。外部のデザイナーは、出版社などの依頼(発意)に基づいてデザインを創作し、その対価を得てはいますが、出版社の従業員ではありません。よって、この場合には職務著作にはあたらないと考えられます。但し、例えば、出版社の従業員とプロジェクトチームを組んで一緒になって創作した場合には、出版社の指揮命令にしたがって業務に従事しているとも言えるため、その場合には職務著作に該当する可能性があります。

雇用関係がなくても職務著作?


では、雇用関係がなくても職務著作になることがあるんでしょうか。「RGBアドベンチャー事件(最判平成15年4月11日)」では、雇用関係がない場合でも職務著作が認められました。
この事件では、中国から観光ビザで来日したデザイナーが、明確な雇用契約は締結していない状態でアニメ制作会社の従業員用の住宅に住み込み、給料をもらいながら、キャラクターをデザインしていたところ、訴訟において、デザイナーは自ら作成したキャラクター図画の著作者は自分であり、著作権を有している旨を主張しましたが、最高裁は、
「法人等の業務に従事する者』に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものと解するのが相当である。」
と判断しました。つまり、たとえ当事者間において明確な雇用関係がなかった場合でも、給料が労働提供の対価として支払われていたなどの事情があれば、「職務著作」であるとし、会社が著作者であって著作権を持つと判断されました。

コンピュータ・プログラムの著作物の場合は?


コンピュータ・プログラムについては、職務著作となるための条件が他の著作物と異なり、「会社の名義で公表されること」(上記の④)の条件が不要であり、上記①~③および⑤の条件を満たせば職務著作となります。これは、コンピュータ・プログラムは社内でのみ使用されるなど、外部にわざわざ公表されない場合が多いという事情が考慮されています。つまり、他の著作物に比べると、コンピュータ・プログラムは職務著作になりやすいと言えます。

令和2年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 田中 陽介

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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