第6回
【須賀雄大さん】元フウガドールすみだ監督/不可能を可能にした成功体験
株式会社アゴラ 柏木 太郎
<須賀雄大さんプロフィール>
フットサル黎明期、若干22歳で監督に就任する。その後、数多くの優勝を経験し、Fリーグへ参加。墨田区を拠点にする、フウガドールすみだ元監督。
未経験から始めた監督業で学んだこと
不完全燃焼からスタート
須賀 小中高はサッカー部でした。暁星高校のサッカー部の時に全日本選手権1回戦で負けてしまって、自分達は不完全燃焼感がありました。当時、暁星高校キャプテンの北原亘(のちに日本代表キャプテン)が民間主催のフットサル大会のチラシを持ってきて、これに出てみないかという話になり、フットサルチーム「森のくまさん」を結成しました。暁星高校のコートは狭かったので練習はミニゲームが多かったし、フットサルのような狭いコートで競技するには、自分達のスタイルがストロングポイントになるんじゃないかってことで出ることに決めました。フットサルのきっかけは、不完全燃焼からのスタートでした。
フットサル黎明期
須賀 自分達が始めたのは2000年。今のようにFリーグ(フットサルリーグ)もなかったので、黎明期だったと思います。正直、フットサルに関する情報を入手したり掴むことも困難な状況でした。
3年連続で優勝
須賀 2001年に「BOTSWANA FC MEGURO(以後、BOTSWANA)」と「森のくまさん」が合流しました。「森のくまさん」は暁星高校OBで作ったチームで、「BOTSWANA」は都立駒場高校OBが作ったチームでした。高校時代サッカーで何度も戦ったチームで、フットサルの大会でも戦う機会があり、その後意気投合し、合流しました。「BOTSWANA」は、JFA主催の公式戦に出ていたチームで、自分達はどちらかというと民間主催の大会に出て優勝するタイプだったので、以後も、公式戦は「BOTSWANA」、民間大会は「森のくまさん」で出場しました。合流後、東京都オープンリーグ、東京都フットサルリーグ2部、東京都フットサルリーグ1部と3年連続で優勝しました。
関東リーグ昇格
須賀 自分の中で競技のフットサルを選手として続けるのは大学までにしようと決めていました。社会人になって仕事をしてみたいという欲求もあり、一つの区切りをつけようとしていたところ、大学を卒業するタイミングで関東リーグ昇格が決まりました。
若干22歳で監督に就任
須賀 関東リーグって、当時Fリーグがなかったので、日本の中で1番注目されるリーグでした。そういった舞台でプレーするにあたって、当時監督業も兼ねていたキャプテンも、選手に専念したいとなり、監督不在で戦うことはとてもリスクが高いものでした。自分も選手としては辞めたんですけど、社会人になっても「BOTSWANA」とはずっと関わりを持とうと考えていたので、必要であれば監督を引き受けるよという流れで監督をやることになりました。22歳の時でした。
監督未経験で苦労したこと
須賀 実際、監督業もそうなんですけど、自分の中でフットサルを論理的に解釈するっていうのが非常に難しく、今までそういう経験をしてこなかったので、言語化して伝えるということが非常に難しかったです。とても抽象度が高い指示だったり、要求になってしまうことが最初は多かった。そこをいかに言語化して具体性を高めていくか、非常に苦労しました。
Step by Step
須賀 苦労したことを克服するには、一歩一歩着実に勉強し、理解し、実践するしかなかったですね。監督を始めた当初は、ミニゲームだけやって試合に挑むの繰り返しでした。ただ、それだけだと当然プロセスがないので、どうやって試合に出るメンバーを選ぶのか非常に難しくなります。みんな試合に出たいわけで、どうしたら試合に出られるのか、その説明をしなければいけない。選手は抽象度の高い説明ではなく、具体度具体性の高い要求を期待していました。海外の強いチームや日本トップレベルのチームの戦術を観ながら、これはどうしてやっているのか?なぜこういうことをするのか?というのを注目し、一つ一つ自分の中で解釈して練習メニューに落とし込み、選手達により具体性の高い説明が出来るよう勉強、実践していくしかありませんでした。
スペイン視察
須賀 当時フットサルでスペインは最先端をいっていました。選手一人一人が自分の中で納得いく理論のもと、ボールを蹴っている印象を受けました。言語化だったり伝える技術が非常に優れていました。スペインのアイデアだったり考え方に触れられたのは本当に刺激的で、面白かった。自分の考え方にも幅ができたと実感しました。
不可能を可能にした成功体験
須賀 2009年、当時アジアNO1の名古屋オーシャンズを倒して、日本一になりました。アジアNO1をアマチュアチームが倒して優勝するっていうのは、フットサル界のみならず、スポーツ界にとってもなかなか出来ないことだと思います。それくらいのことをやったという自負はあるのですが、スタンドを見た時に、知り合いの顔がほどんどでした。こんなサプライズを身内だけで喜ぶのはもったいないなって思ってしまって、自分達もホームタウンをもって地元の人達全員で熱狂していくようなチーム、クラブを作りたいという想いが強くなりました。
フウガドールすみだ誕生
須賀 ホームタウンを持ちたいと思っていた時に、ちょうど2010年に墨田区総合体育館というアリーナが出来ると聞き、墨田区に提案しました。区には、自分達はこういうチームで、今後ホームタウンとして活動していきたい。フットサルのイベントなどやらせていただけないかと話をしたところ、快諾してもらえました。イベントを重ね、最終的には活動を認められて、ホームアリーナを使ってもよいことになりました。2010年から始めて、2011年でホームタウンスポーツチームとして正式に認めてもらえました。
印象に残っている出来事
須賀 やはり、2009年の日本一と、Fリーグ参入が決まった時ですね。この2つの出来事はかなり不可能だと思われていたことなので、達成感はありました。とくにFリーグに昇格するってことは、当時明確な基準がなかったので、何をどうすれば昇格できるのかわからないまま、とにかく目の前のことをがむしゃらに取組みました。まるで雲を掴むような話です。墨田区のバックアップやサポートがなければ、昇格できなかったと思います。本当に墨田区、区民の皆様には感謝しています。いろんな巡り合わせ、出会いがなければチャンスは掴めなかったかもしれません。
監督退任の決断
須賀 退任した理由は明確です。自分が監督を続けることがクラブにとって最良なのかベストなのかと考えた時、ベストかどうかわからないところがあって、当時は監督とかねて強化責任者でもあったので、自分で自分を任命する立場でもありました。ようは、自分が自分を任命するってことは、自分が監督をやることがベストでない限り任命できない。冷静に考えた時、ベストではないと思い、退任することにしました。
監督をして学んだこと
須賀 一言では言い表せないですね。自分という人間の半分以上は監督を通じて学んだことで出来ていると言っても過言ではないです。論理的思考を磨かなければ、具体的な説明ができない。一方、論理的な思考が磨かれると、抽象度は高いんだけれど人の心を惹きつけるような言葉や感覚が薄れてしまいます。相手が何を求めているのか、何を要求しているのかを把握し、伝えていくことが大切だと気づくことが出来ました。
次のビジョン
須賀 よい指導者として成長し、監督業をやりたいです。ただ、監督業って自分がやりたいと思ってやれることじゃないので、自分が良い指導者に成長すれば、しかるべきオファーが来ると思っています。今まで監督をしている間は、自分の指導を顧みたり、冷静に分析する時間があまり無かったので、この期間を有意義に利用し、指導者としての幅を広げて深みを増していく作業をしたいと思っています。自分がどういう指導者であるべきかという部分にフォーカスして追求していきたいです。その中でまたチャンスが巡ってくると思います。
メッセージ
須賀 自分がフットサルをする上で一番大切にしていたのは、いかに一人一人の尖った個性を大切にしていくかという事です。選手個々の尖った個性を伸ばし、足りない部分は選手同士でしっかり補完し合う。その結果が総合力で勝るアジアNO1の名古屋オーシャンズを倒す結果に繋がったと思っています。その人のストロングポイントを磨く。個人的な考えですが、会社でも一人一人の個性を大事にし、共に活かし活かされる環境を作ることで、結果、良いチームや良い組織が作れるんじゃないかなって思います。尖った個性を大切にしていって、受け入れる、聞き入れる。みんなで作業していけばとても面白いんじゃないかなって思います。
協力
撮影:山さん
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