第4回
パーティー潜入:イギリスのコロナ規制が全く効いていない実態
パケットファブリック・ジャパン株式会社 ジュリアン
直行便を利用して羽田空港からロンドンのヒースロー空港へと飛んだ。この頃、機内でマスクを着用しなければならないという規則が義務付けられるようになっていた。ちょうどニュースでは、マスク着用を拒否した乗客が飛行機から降ろされたという動画とストーリーがSNSで広まっていたので、キャビンアテンダント達も緊張していただろう。席についた僕はマスクを渡されて、不本意だったがやむを得ず着けることにした。でも、となりの列に居た西洋人がマスクを着けることに対してキャビンアテンダントに抗議しだした。なぜだか見逃されて、彼はマスク着用を強制されなかった。彼と目が合った。二人の目が合った瞬間、素晴らしいことが起きた。気持ちが通じた気がして、勢いで僕もマスクを取ったら、その西洋人が僕に向かって微笑んだのだ。仲間に会えたような気持ちで、僕は彼に向かって胸板を強く叩いた。
(僕はマスクを着ける意味が無いと思っていて、マスクを着けない理由は単純に自分の思いを行動に反映させているだけです。)
12時間の飛行時間を経てヒースロー空港に到着し、入国の行列に並ぶと驚くべき光景を見た。500人くらい並んでいたが、僕以外全員マスクを着けていた。わずか1年前なら誰もがこの光景を異常と思うだろう。規則なのか、同調圧力のせいなのかは不明。だが、敢えて僕は平然と素顔で並んで、何事もおかしくないかのように順番を待った。しかし頭の中では、くだらない同調圧力に屈するものかと思っていた。
誰一人僕がマスクを着けていないことを指摘しない。周りの目線は当然感じるが、誰も僕に何も言わない。すると、近くに居た若い女性がマスクを外した。彼女は僕を見て胸を叩いてはこなかったが、それでも十分、気持ちは伝わった。独りで世間と違う様に生きることはとても恐ろしいけど、一人でも事の異常さや違和感を感じて、世間の同調圧力に屈しないという考え方の持ち主が現れれば、集団思考を脱出することは簡単になる。
現状(2020年9月)、日本からイギリスへ行く場合、事前に連絡先や宿泊先を入国管理局に申し出なければならない(感染経路を明確にする為の名目)。また、空港のチェックイン時には全日空の従業員から、日本人がイギリスへ行く場合、14日間の自己隔離が必要とされると告げられた。しかしこれは虚偽の事実だ。イギリス政府のホームページには別の事実が記載されていて、日本からの訪問者はまったく制限なくイギリスへ入国できる。こんな時代だからしょうがない。コロコロと各国の制度が変わる中、客と直接関わる従業員が最新の情報を把握できていないことはあり得る。何が信用できるのかなんて分かりやしない。その時僕は、全日空の従業員にイギリス政府のホームページを見せて納得させた。本当にカオスだ、コロナは。
ヒースロー空港で、30分くらい並んだら入国管理局のスタッフが僕の日本のパスポートを確認。彼の質問は二つのみ。
Immigration Officer:Where are you going and what for?
Julian:Just visiting family and friends.
以上。
そのまま通してくれた。
コロナ禍だと言うのに、この公務員はどういう人間を国に入れているのか完全に無関心だった。マスクを着用して入国可否の裁きを待つ500人の列を迎える公務員自身が、マスクを着用していなかった。義務付けられたはずの連絡先、宿泊先情報も請求してこなかった。パスポートにスタンプすら押さなかった!!ここで気付いた。この国では、現場レベルで法は執行されていないと。流石イギリス。すばらしい。他の国の公務員も見習うべきではないか。公務員は自分自身の判断に沿ってケースバイケースで国の業務を実施すれば良い。そうすれば、使いものにならない政治家が考案した不合理な法律や規則は執行されず、人々はより豊かに人生を送る事ができるかもしれない。
ここで比較だが、日本だって無視されている法律はたくさんある。一例として、「サービス残業」という言葉が存在し、人々はその言葉を認知している。無賃金労働が起きていて、それに名称がついている時点で、(労働者を保護する)法律が機能していない証拠だと思う。それでは、我々の社会で執行率の低い法律は一体どのくらいあるのだろうか?確かめようとするのはおそらく反社会的と見なされ危険を伴うかもしれないが、検討するに越したことはない。いずれにしても、コロナを理由にしてどの国も自由を侵害する法律をサッと通している中、執行率の低い法律はどのくらいあるのかという質問は、コロナ時代において適切な質問だ。好奇心が湧く。
なぜなら、今イギリスではいわゆるコロナ第2波が来ているらしく、政府は感染者数を抑えるために様々な新しいルールと罰則を一方的に議会を通さず設けている。
例えば:
・6名以上の集まりは、罰金200ポンド(約2万7000円)。
・公共交通機関でマスクを着けないと罰金200ポンド。
・感染確認した者が自己隔離を破ると罰金10,000ポンド。
・危険国から帰国したイギリス人が、14日間の自己隔離を破ると罰金10,000ポンド。
・自己隔離をするべき者がきちんと隔離していない容疑があると、警察は令状なく家に入る事ができる。
・パブ等の娯楽施設は夜10時に営業を終了しなければならない。
・イギリス北部の町の大半はロックダウンしなければならない(ロックダウンの定義は不明だが)。
これらのルールは何故かプロサッカーや政治活動等は例外的に適用されない(笑)。これら新しいルールは僕がイギリスに居たおよそ3週間の間に法律となった。あまりに速度が速い上、合理性に欠けているせいか、ロンドンに居た僕からすれば、これら法律はただの掛け声だ。まったく執行されていない。
実際にバスや電車に乗った時、マスクを着けていなくても何とも言われなかった。先ほどスーパーに行ってヤギ乳を買ったが、ドアの警備員はノーマスクの僕を見て、目を輝かせて「Nice!」と言ってくれた。
9月26日土曜日は毎週行われている反コロナ規制のデモを見に行ったが、数千人の抗議者の中、マスクをしている人は誰一人いなかった(当然ながら)。むしろ大麻の臭いが四方八方から漂っていて、人々はジョイントを回していた。まさに一万人のクラスター内の濃厚接触。同日の夜、パブ等が10時に閉店した為、一斉に人々は外へと出され、道で飲み続けていた。
僕は元々ロンドン出身で知り合いも多いため、特別な集まりへの招待を受けた。土曜の夜、コロナ規制に関わらず人々は必ずパーティを開催するだろうから、DJである友達のXJB氏にパーティーを探しておいてくれと頼んでおいたのだ。彼は信頼できる若き男だ。XJBはある「Squat Party」の情報を入手して、僕を招待してくれた。
「スクワット」と言うのは、ある場所に居る権利が無いのに、その場所を使用する事。本来は難民などが物件に不法滞在する時に使われる単語(人権侵害になるのでスクワットしている人を追い出すのは法的にも難しい)。要は、無断で倉庫や長屋などを占領してパーティーを行うことを「スクワットパーティ」と呼ぶ。イギリス独特の文化だ。
僕がパーティーに行きたかった理由は、コロナ下のロンドンの「現実」を知りたかったため。この時代、僕はニュースを全く信用していないから、自分で現実を突き止める必要があると感じている。
深夜の暗闇の中、北ロンドンの倉庫団地へ僕とXJBとその他2名で行った。XJBがコネのある友人に電話したら、主催者が現れて中に入れてくれた。箱の中は真っ暗で、50人くらいが重低音に合わせて踊っていた。大体20代前半の子が多かった印象。僕は33才だからちょっとオヤジかな。「ここに居る人達と仲良くなればモノを簡単に手にいれられる」とXJBは言った。なるほどとうなずき、僕は角にあるソファに席を取って待ち構えた。東京では無数のビジネス交流会に参加していた為、人と会う戦略としてソファに座る方法が最も早くて自然だということは知っていた。交流会やパーティーではほとんどの人はテンションが高くて、話しかけづらい。無作為に人に声をかける事ほど効率の悪い交流は無い。座っていれば必然と人は寄ってくる。
と言うことで、25 万円の「Tae Ashida」のレザージャケットを着ていた僕は、クールなオーラを出しながら箱の角を自分の領地にした。すると見事にあらゆる遊び人が僕に話しかけてきた。そりゃぁ、色んな若い女の子とも話したし、色んな物質もオファーされたさ。スクワットパーティだから、客はもはや薬物の摂取は、こそこそしたり急がされることもなく、ソファーの前のテーブルで、堂々とiphone画面の上の白い粉の列を鼻から吸いあげていった。これがコロナ下のロンドン。
*僕はあくまで観察者としてパーティーに参加したので、違法行為はしていないし、推奨はしません。
これが極楽というものなのか?自由主義者、アナーキストにとって夢とは、この何でもありなモーメント。日中は仕事で頑張っているつもりの人達が週末の夜、一気にストレスを解消するという文化風習。大半のイギリス人はこうやって人生を過ごしている。平日は嫌な人たちと嫌な仕事をして時間を拘束されるが、週末にそのストレスを解消するためにパブで「Pre-drinks」(本番前の酒入れ)、クラブのトイレでコカインを鼻に吸い込んで、調子に乗って喧嘩をする。そういう文化がある。もちろん薬物は良くないものだが、魅力がないものなら人は金を払ってまで摂取しない。その週末の楽しみをイギリス政府はコロナの蔓延を阻止するためという名目で奪おうとしている。でも、それは失敗するに違いない。イギリス人は夜の楽しみだけは譲れない。この夜だけは譲れない。僕もイギリス育ちとして国民性は分かるから、これは保証できる。
プロフィール
パケットファブリック・ジャパン株式会社
マーケティング・ストラテジスト ジュリアン
日英ハーフでイギリス育ちのバイリンガル。
営業マン、寿司屋の見習いなどを経て、2015年に東京に移住し、英会話講師兼実業家として新たなキャリアをスタートさせる。
西洋文化や歴史の解説を取り入れたユニークなスタイルの英語レッスンで数多くの日本企業を顧客に持つ他、自身のスーツブランド"LEGENDARY"にてファッション業界にも進出。
2016年よりINAP Japanのマーケティング・ストラテジストとして、グローバルビジネスをサポート。
組織の形式や常識にとらわれない”自由人”として、常に先鋭的な情報を発信しビジネスに新しい発想や刺激を与え続けている。
Webサイト:パケットファブリック・ジャパン株式会社
- 第8回 パリ症候群
- 第7回 GAFA系CEOの任務
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- 第4回 パーティー潜入:イギリスのコロナ規制が全く効いていない実態
- 第3回 Signs and Premonitions (印と前兆)
- 第2回 最後の片付け
- 第1回 旅立つ決意