マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第11回

上級マネジャーの役割(財務的成果マネジメント)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「上級マネジャーの役割について、いよいよ大詰めですね。『財務的成果マネジメント』だったと思います。難しい言葉で、最初はどうなることやらと思いましたが、実は上級マネジャーがいつもやっていることなんですね。」

「財務的成果マネジメントとは、パフォーマンス、つまり組織が叩き出している数字でもって、これまで説明してきた『戦略創造・ブレークダウン』、『現場マネジャーへのマネジメント』、『部門間連携』あるいは『マネジメント体制の再構築』がうまくいっているかどうかを判断し、必要ならば調整を加えることだ。」

「調整を加えること、イコール、コントロールですね。つまりマネジメント・コントロールの根幹だということです。」

「まさに、そういうことだ。」


業績を基準に判断する

「何度も言うようだが、マネジメントがうまくいっているかどうかを判断するために、どうすれば良いのだろう?」

「何度も言ってくれたので、例えまで思い出しました。娘の勉強で考えると簡単です。娘の勉強方法が正しいかどうかは、テストの点を見ていれば分かります。テストの点が高ければ、その方法を続けさせれば良い。点が芳しくなければ、勉強法を変えるよう勧めてみる。そういう感じでした。」

「部下である現場マネジャーが行っているマネジメントがうまくいっているかどうかも、それと同じように、パフォーマンスを見れば判断できるという訳だな。」

「そうなんです。現場マネジャーがうまくパフォーマンスをあげられるように、上級マネジャーは、『戦略創造・ブレークダウン』、『現場マネジャーへのマネジメント』、『部門間連携』そして『マネジメント体制の再構築』を行なっています。現場が叩き出す数字が悪ければ、これらのマネジメントがうまくいっていない、変える必要があると言う訳です。」

「そうだ。だから財務的成果マネジメントは、全てのマネジメントの『キモ』になる訳だ。」

「了解です。」


パフォーマンスから4つの役割を見直す困難さ

「財務的成果マネジメントについてお話を聞いて以来、いつもやっていることだな、当然だなと思う反面、とても難しい仕事だなと感じました。」

「どういう意味だ?」

「2つの難しさがあると思うのです。」

「ほう?」


縦方向の区分け

「一つは、言わば縦方向の区分けだと思います。」

「縦方向の区分け?初めて聞く言葉だな。」

「ええ、私も三上部長に見習って、ちょっとした造語を作ってみました。でも、考えてみれば単純なことなんです。会社の方針が現場で守られなかったとする。その責任はどこにあるのか?」

「どこにあるんだ?」

「企業トップが示した会社の方針は、上級マネジャーと現場マネジャーの二つの階層を通じて現場にもたらされています。それがうまく行っていないとして、上級マネジャーと現場マネジャーのどちらが責任があるのか?」

「なるほど。ケースバイケースなんだろうけれど。」

「現場がパフォーマンスをあげていないので『現場マネジャーが悪い』と断罪されることが少なくないと思うのです。しかし、それで良いのでしょうか?」

「上級マネジャーの責任である場合があるというのか?」

「例えば方針に曖昧なところがある場合はどうでしょうか?例えば品質と効率のどちらを優先すべきかなどの矛盾が解消されていない場合などがあると思います。」

「なるほど。」

「そういう事情が万が一ある場合には、この問題に主に取り組むべきは現場マネジャーではなく、上級マネジャーではないでしょうか?」

「そういう考え方、とても大事だと思うよ。」


横方向の広がり

「もう一つは、言わば横方向の広がりだと思います。」

「それは、どういう意味だ?」

「上級マネジャーは『戦略創造・ブレークダウン』、『現場マネジャーへのマネジメント』、『部門間連携』そして『マネジメント体制の再構築』をマネジメントしています。企業のパフォーマンスが芳しくない時に、ではそれらのうち、どの分野での調整が必要なのか分からない。そういうことが起きそうです。」

「まさにそうだな。」

「パフォーマンスが望ましい水準になければ、何かを改善しなければなりません。でも、今あげた4つのうちの『何』が原因なのかは、分かることもあるでしょうけれど、分からないことも多いでしょう。ましてや、それをどのように変えれば良いかを知るのは大変難しいと思います。」

「本当にそうだな。仰る通りだと思うよ。『戦略が悪い』と思って何度も見直していると、現場からは朝令暮改だと思われてしまう。」

「そうなんです。実は戦略をいじり回すよりも、マネジメント体制を再構築した方が良いのかもしれません。」

「以前にも話したな。我が社の品質管理がうまくいかなかったのは、戦略が悪かったわけではなかったんだ。マネジメント体制に、必要な措置が取られていなかったんだ。」

「それに気がつかなかったら、今でも右往左往していたかもしれませんね。」

「本当に、そう思うよ。」


PDCAで対応する

「マネジメントって、今言ったように、とても複雑な構造になっていて、一筋縄にはいかないと思うのです。それを、どうすれば良いのでしょうか?」

「どうすれば良いと思う?」

「それを思いつかないから、三上取締役にお聞きしているのです。」

「そうだな。しかし俺にも、公式に則った回答はないと言わざるを得ない。」

「手が打てないということですか?」

「いやいや、そうではないよ。分からないからこそ、やらなければならないことがある。」

「それは何ですか?」

「PDCAサイクルを回すことだよ。」

「困ったときの、PDCA頼みですね。」

「まあ、そうだな。」


まずは指標を探すというアプローチ

「PDCAを回すときに、何かアドバイスはありますか?」

「俺が上級マネジャーだったとき、そして今でもなんだが、まずはポイントとなる指標を探すことにしている。」

「指標ですか?」

「そう、指標だ。」

「なぜ、そんなに指標が大事なんですか?」

「うまく考えられた指標は、トップと現場を結びつけてくれるからなんだ。」

「というと?」

「トップの方では、その指標について目標値を達成すれば、会社としての目標を実現できるとの目安が得られる。」

「なるほど。現場の方では、全社目標を掲げられても手の打ちようが分からないけれど、自分にぴったりの指標を出されたら、目標が明確になるということですね。」

「そうだ。例えばそういう指標として、何がある?」

「部門別の売上目標ですね。」


よく考えられた指標のメリット

「ご名答。それから、このような指標値を使うメリットに、もう一つある。何だと思う?」

「現場が、その目標を実現するために何をすれば良いか、きちんと検討できるようになるということでしょうか?」

「そうなんだ。現場には、そうやって、自分たちの行動を計画立ててもらう。」

「するとトップの方では、各々の部門における計画の進捗をマネジメントすることが、全社としてのマネジメントを行うことになるのですね。」

「そういうことだ。」

「いつも当たり前にやっていることですが、こうやって意義をお聞きすると、ないがしろにしてはならないことを思い知りますね。」

「その心がけを、ぜひ、忘れないでいて欲しい。」

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

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