マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第24回

部門間連携の前提となる部門第一主義

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「ここまで、上級マネジャーの役割について、戦略に関する役割と現場マネジャーへのマネジメントをについて、お伺いしました。当たり前のようですが、奥が深い内容でしたね。」

「そうだな。あたり前のことほど奥が深いのではないかと、最近は思うようになったよ。」

「同感です。で、この2つが終わったとしたら、次は他部門との連携ですね。」

「そうだな。」

「組織は分業することによって大きな仕事を成し遂げています。しかしセクショナリズムに陥ることも稀ではありません。」

「決して大きいとは言えない我が社ほどの規模でもそうだからな。」

「とすると、組織の分業を機能させることはとても大切ですよね。」

「本当にそうだ。」

「しかし、これも言うは易し、実現するは難しです。それをお教え頂けるとあって、楽しみにしています。」

「そうか。是非、楽しみにしていてくれ。」


<我を通すのが各部門の仕事>

「さて、セクショナリズムについて、先回にご質問したことが印象に残っています。」

「各部門や部署が自分の都合を押し通そうとする、時には相手の都合も考えずにそうしてしまうことについてだったな。」

「そうです。」

「三上取締役の言い分だと、それは悪のように言われるのではないかと思っていました。しかし、違っていましたね。」

「そうなんだ。部門や部署が、つまりそれを統括する現場マネジャーが、自分の部署や部門についてベストパフォーマンスをあげられるように最善を尽くすのは、言葉を変えると我が部門第一主義になるのは、当然のことだ。時には、最大限の支援が得られるよう頼んでみることさえ、すべきだと思う。」

「みんな、精一杯にやっているのに、そういうことを言われると『どれだけ我が身しか考えていないんだ、こいつは!』と思われてしまいますが。」

「それに、支援を求めるところに限って、支援を求められると『私たちには無理』なんて言いがちだからな。」

「そうなんです。でも、そういうことさえ、三上取締役は認められるのですか?」

「そうだよ。」

「それって、わがまま過ぎやしませんか?」


情報発信という役割

「そうかな。だって、それを言うだけだぞ。現場マネジャーは、支援が欲しいことや、他の部門・部署に支援できないことを主張するだけなんだ。実際にそうするとは、限らないのではないか?」

「えっ、そうなんですか?」

「現場マネジャーが支援が欲しいと言ってきたので上級マネジャーが他部門に打診すると、他部門からは支援はできないとの回答だった。なので上級マネジャーは現場マネジャーに対して『仕方ないな、独力で頑張ってくれ給え』と言ったとする。現場マネジャーとしては、どうする。」

「支援は諦めざるを得ないですね。指示通り、頑張ります。」

「そうだろう。だったら、それで良いではないか。」

「現場マネジャーとしては、その努力は無駄骨だったのですね。」

「いや、そうではないぞ。彼は、正しく仕事をしたんだ。『現場では、我が部門はノルマを果たすことができないないと予想される。すると、関連部門にも迷惑をかけてしまうだろう。それを避けるために協力して欲しい、支援して欲しい』という情報を発信したんだ。」

「でも、支援は受けられなかったではないですか。」

「しかし、そのような状況であることを上級マネジャーの耳に入れた。黙っていて、トラブルが現実化するまで自分で抱え込んでいるより、はるかに良い。」

「確かに、そうかも知れませんね。」

「自らが統括する部門のことを第一に考えて、その状況をしっかり報告する。必要だったら我が部門の都合を受け入れてくれるように依頼するし、支援を求めることさえする。それが、現場マネジャーの、そしてそれを統括する上級マネジャーの役割ではないかと、私は思っている。」


連携は、強く求めることから始まる?

「これから言うことはMCSとは関係ない、私自身の印象なんだが。」

「何でしょう?」

「会社という組織で部門間での連携を実現しようとする場合、『自分には困っていることがあるので何とかして欲しい』と強く主張することが、出発点になることが多いのではないかと思っている。」

「なるほど。」

「そういう要望がないと、他の部門とコミュニケーションする機会なんて、あまりないだろう。」

「確かにそうですね。私にも覚えがあります。新しい製品ラインナップを打ち出すプロジェクトで、製造部門では当初予定した期限に製品を実現できないかも知れないと分かった時です。」

「あの時は、大変だったな。中川部長は、その時には現場の課長だったんだっけ。」

「課長代理です。でも、普段の時の課長の、何倍も仕事したと思いますよ。現場でマーケティング部門と話し合いするなんてことは、あの時だからこそではないかと思います。」

「そうだな。あの時、みんな苦労したからな。」

「これを思い出してみると、三上取締役の言われること、わかります。そういう切羽詰まった状況だからこそ、工場のマネジャーも、マーケティング部門と交渉することになったのです。」

「それはつまり、連携したと言うことだな。」

「そうですね。まさにあの時の私たちは、私たちの主張を通すために連携を模索したのだと言えます。」

「それって、結果的には良かったのではないか?」

「おっしゃる通りです。止むを得ず、我が部門の意を通さなければならないと思われる事情があったからこそ、マーケティング部門との交渉ができました。私たちの要望が全て通ったわけではありませんが、一部は受け入れられ、一部はマーケティング部門の顔を立てるよう全力で取り組みました。それで良かったのです。新製品ラインナップを、何はともあれ、なんとか発表できたのですから。」

「俺も、そう思うよ。」


お仕着せの「連携」との差

「そうやって比べてみると、我が社で『連携のために』と思って取り組んできたことが、結果的には十分な成果を受け入れられなかったことがありましたよね。その理由が、分かったような気がします。」

「なるほど。どんな?」

「そういう切羽詰まった状況ではななく『連携して、何かやろうよ』という話になった時です。結局、目立った成果を産むことはできませんでした。」

「確かに、そうだったな。あの時は、新製品を作ろうと言う話になっていたのだったっけ?」

「いえ、それほどでもありません。何か、部門横断の連携の証ができたら良いねと言う雰囲気でした。」

「そして結果的には、そんなものはできなかった。」

「そうです。」

「みんな、別に、手を抜いたと言う訳ではないだろうな。」

「その逆です。みんな、真面目に検討していました。」

「それでもやっぱりできなかったのは、自分たちに『困った。どうにかしなくては』という熱い思いが、なかったからなんだろうな。」

「今そう言われてみると、そう思います。」

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

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