マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第43回

継続的に改善するため無数の切り口を持つ

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

「マネジメントには弊害があり、これに対処しなければならないというお話をお聞きしています。」


「そうだな。マネジメントをしても、と言うか、マネジメントをすると、人々が目標とは違った方向に向かってしまうという弊害が生じる可能性がある。マネジメントには、そういう弊害が生じる必然性が秘められているということだ。」


「はい。弊害の原因として第1に『目標の不適正』、第2に『ロジカルな誤導』、そして第3に『ゲームズマンシップ』が挙げられていました。言われてみると、もっともなことばかりです。」


「しかし、というか、だからこそMCSは、あらかじめこれらの弊害に対処するアプローチを提示している。『目標を改善する』、『目標以外のツールを使う』、そして『絶えず改善していく』ことだ。」


「そして今日は『絶えず改善していく』ことについてお伺いしたいと思います。」



絶えず改善していくことの難しさ

「これはお決まりの『PDCAサイクルを絶えず回していく』と捉えて良いのでしょうか?」


「まさにそうだ。」


「予想した通りの答えで嬉しいのですが、しかし、一抹の不安もあります。改善活動は、それを継続すると『燃え尽き感』が生じてしまうのです。やってもやっても完璧にはならないので『万策尽きた』気持ちになってしまうとでも、申しましょうか。」


「そうだな。品質改善の場面でも、そのようなことがあった。マネジメントにおいても同様な状況になり得るという懸念があっても、もっともなことだな。」


「これについて、何か方法はあるのでしょうか?」


「では、俺の意見を話すとしよう。」



PDCAとは

「PDCAサイクルについては知っているよな。」


「はい。目標を設定すると共にその実現方法を計画し(Plan)、実行する(Do)。成果を測定・目標値と比較して(Check)、目標の実現に向けて必要な措置をとる(Act)ことでした。」


「そうだな。一回のサイクルでうまくいかなかったら、また何度も回していく。」


「そうです。」


「それでもうまくいかなかったら・・・。」


「あきらめずに続けていきます。」


「それでもうまくいかなかったら・・・。」


「万策尽きたと思うでしょうね。」


「そうだな。目指す成果をあげることをあきらめない、つまり『変えない』ということは大切だ。しかし、それで効果が出ないなら、何かを『変える』ことが必要になる。」


「なるほど。アプローチを変えるということでしょうか?」


「そうだな。同じ成果を出すための方法は、必ずしも一つではない。なので、あるアプローチでうまくいかなかったなら、別のアプローチに変えてみるということが、大切なのだろうと思う。」


「なるほど。おっしゃっていること、わかります。しかし、それをやるのは難しいと思うのです。あるアプローチがダメだったからといって、他のアプローチがポンポンと浮かんでくる訳ではありません。問題解決の技法では『オズボーンのチェックリスト』などもありました。しかし、それがマネジメントの改善に役に立つとは思えないのです。」


「そうだな。オズボーンのチェックリストには『大きくしてみる、小さくしてみる』なんてものもあったな。それでマネジメントがうまくいくとは、到底思えない。」


「笑い事じゃ、ないですよ。そういうことを、三上取締役は私たちに強制しておられるのですか?」


「そうではないぞ。マネジメントに適した視点の変え方を説明しようと思う。」


「なるほど。教えてください。」



Du Pontモデル

「一つ目はDu Pontモデルと言われているものだ。」


「何ですか、それは?Du Pontといえば、ヨーロッパの大会社だったような記憶がありますが。」


「そうだな。歴史ある化学品メーカーだ。Du Pontモデルとは、利益率、特にROI(Return of Investment)の構成要素を算式で表したものだ。ROIは粗利率に資産回転率を掛け算することによって導き出すことができる。粗利率は売上から原価を引いたものだな。資産回転率は売上を総投資で割り算したものだ。総投資の構成要素は・・・と分解してROIの構成要素を明らかにすることによって、ROIを向上させるためには何をどうすれば良いのかについて詳しく検討するよう、促される。」


「なんか、難しそうですね。」


「会計に絡むから難しそうに感じるが、算術的にはとても簡単だ。小学校で学ぶ演算法則じゃ、なかったかな。」


「スミマセン。小学生並みで。」


「というか、これが難しいというと小学生以下になってしまうぞ。」


「そこまで言いますか?」


「まあ、冷静になってみろ。こうやってROIを構成する会計項目が明らかになってきたら、何ができる?」


「そうか。『ROIを改善しろ』と言われると途方に暮れますが、こうやって細かく指標を出していくと、具体的に取り組むべき項目が見えてきますね。」


「そうなんだ。Du Pontモデルを持ち出したが、それを丸覚えするよう求めている訳ではない。いざとなったら、その表を見ながら考えれば良いのだ。」


「ROIを改善するために、何をどう改善すべく努力すれば良いのかを考える訳ですね。」


「そうなんだ。そしてこれらは会計項目だ。昨年や一昨年の数字も参照することができる。」


「そうか、今年にROIが悪化したとして、その原因を会計的に探ることができるのですね。」


「そうやって改めて現場を見ると、何をどう変わったからROIが悪化したのか、因果関係をたどることができるようになるだろう。」


「なるほど。だから三上取締役は、部長がしっかりと役割を果たせるようになるためには、財務にも通じた方が良いと言っておられるのですね。」


「そうなんだ。財務数字をチェックすることに慣れ、ある数字が悪化した場合には、関係する指標をたどり、その原因となる部門・部署を特定できるようになれば、問題が推測でき、解決に至る場合があるんだ。」


「むやみやたらにPDCAを回すより、はるかに効果的な方法のようですね。」



BSC

「そしてもう一つは、バランスド・スコア・カード(BSC)だ。」


「一時期、流行りましたね。でももう、時代遅れなのではないですか?」


「俺は、そんなことはないと思うな。それとは逆で、前向きに取り組んでいる企業にはしっかりと根付いているので、以前のような騒がれ方をしなくなっただけだと思う。」


「その辺の捉え方は、三上取締役と私で、永遠に噛み合わそうな感じですね。で、実際、BSCはどのように役に立つのですか?」


「Du Pontモデルは、会社の業績を会計的に、ロジカルに展開したものだ。一方で会社は、数学的には分解できない因果関係がある。」


「どういうことですか?」


「 BSCは、長期的観点に基づいてビジネスの流れや会社の仕組み、人の関わり方などの分析をもとにした、企業業績の方程式なんだ。」


「その視点からすると、財務、顧客、業務プロセス、そして学習と成長が、企業の業績に影響していると考える訳ですね。」


「そうなんだ。企業の業績は、ただ単に『今、頑張って売っていこう』という努力だけで生まれるのではない。顧客との良好な関係や、秀でた製品やサービスを提供できる業務プロセスがあってこそ、生まれるものだ。」


「そのためには企業で働く全員が学び、成長している必要もありますね。」


「そうだな。それは組織全体の文化・風土になっている必要もあるだろう。」


「そうすることで、財務、すなわち売上や利益という成果があげられるのですね。」


「そうだな。それに財務には、もう一つの側面もあるぞ。しっかりとした蓄えがあったり、安心して投資できる裏付けとなる資金調達ができてこそ、顧客や業務プロセス、学習・成長が実現できるのだ。」


「なるほど。」


「さて、継続的な改善、つまりPDCAサイクルを連続して回すにあたって、新たな視点に基づけば切り口は無限にあること、これを覚えておけば楽しみながら取り組んでいけること、分かってもらえただろうか?」


「はい。Du Pontモデルというロジカルに導かれた視点、もしくはBSCというビジネスの流れや会社の仕組み、人の関わり方などに基づく視点を活用することによって、PDCAサイクルを回していくネタを事実上、無限に見つけ出していくことができそうですね。」


「そういうことだ。」


 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

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