第1回
儲かることを望んだドラッカー
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
「仲間の社長たちにはドラッカーの本をありがたがって読む連中がいるが、私にはその気持ちがよくわからない。」
「どういう意味ですか?」
「私も昔、ドラッカーの本を読んだ。将来についての観測などは参考になるところも少なくない。でも、『マネジメント』はいけない。ロジカルな説明がないのはマネジメントが学問として確立する前のことだから仕方ないにせよ、精神訓話に終始するのは頂けない。」
「例えばどういうところですか?」
「企業の目的は顧客の創造にあるとか、マーケティングは販売を不要にするなどの言葉だ。こういう精神訓話が、会社をダメにしていくんだと思う。」
「どのようにダメにしていくのですか?」
「企業とは、利益を出してナンボのものだろう。みんな、そのために一生懸命に顧客獲得に努めているし、販売にも力を入れている。なのにそれを『顧客の創造』だの『販売は不要』だなんて曖昧な言葉でダメ出しするなんて、企業を愚弄するにもほどがあると思う。」
「今、企業とは利益を出してナンボのものと仰いましたね。実はそれこそ、ドラッカーが目指していたことなんですよ。」
「ウソだ。『マネジメント』を見ても、利益を出す方法なんて、どこにも書いていないではないか。」
「そうですか。私には『マネジメント』は、最初から最後まで利益を出す方法について書かれているように見えるのですが。」
「自分の理解とあまりにも違いすぎて、全くイメージが湧かない。説明してくれ。」
「ドラッカーが『マネジメント』で、企業に対して利益を出すことを目指すよう勧めていることは、その冒頭で利益の機能について説明していることから読み取れると思います。」
「そうかな?私には、利益について、こ難しいことを言っているだけにしか見えない。それも、労働環境を良くしろだの、社会的サービスと満足がどうのこうのだの、企業のハードルを上げているだけのように思われる。まさにここの部分が、今はないけれど学校の修身の授業のようで、嫌いなところなんだ。」
「そう感じられたのですね。私は、全く逆のように感じられていました。」
「どういうふうに?」
「労働環境を良くしたり、社会にサービスできるほど沢山、儲けるよう、企業を励ましていると感じていました。自分の会社がギリギリ回るような利益ではなくて、もっともっと儲けられるように、ということです。これからそのノウハウを伝えるので、心して読んでくれよ!との思いがあったのかもしれません。」
「君がその部分を、そのように解釈するなら、それを否定するつもりはない。しかし、後に続く部分はどうなんだ?儲ける方法なんて、どこにも書いていないではないか?」
「では、どういう内容を期待しておられるのですか?」
「どのような製品を開発したらお客に喜ばれるとか、どのように宣伝・広告したら競争相手に勝てるかとかだ。」
「そういうお気持ち分かります。でも、ドラッカーは『マネジメント』に関する本を書いたのですよ。それらはマネジメントに関係することでしょうか?」
「そう言われると、違うと答えなければならないな。」
「お分かり頂けましたか?。ドラッカーは、この本で『マネジメントを活用して儲ける方法』を示そうとしたのです。」
「本当か?マネジメントなんかで儲けられるとは思わないけれど。」
「そうでしょうか?」
「組織とは、一人の人では出来ない仕事を複数の人々が力を合わせて行い、一人の人では実現できないような成果をあげるためにあるものですよね。」
「そうだ。当たり前ではないか。」
「では、一人の人だったら100日かかる仕事を、10人で取り組んだとしましょう。特別な技能がなくてもできる仕事で良いです。例えばダンボール箱に詰められた本を、図書館の書棚に並べていくという仕事に取り組んでもらうとします。ここで、街で『働きたい』という人を無造作に集めて、『自分のやりたいように取り組んでほしい。誰かに指示してもらったりしないで』と言って、思い思いに取り組んでもらったとします。10日でできるでしょうか?」
「それは、無理だな。たとえ20日かけてできたとしても、棚を間違っていたりして使い物にならない可能性がある。」
「そうですね。マネジメントがなければ、組織は全くと言って良いほど、機能しません。
では、これらの人々に、図書分類と、各々を図書館のどの棚に収めるべきかを予め説明したらどうでしょう。」
「少なくとも、棚を間違っていて使い物にならないという事態は避けられるかもしれないな。」
「そうですね。それを実現するための日数という点では、どうですか?」
「10日では終わらないだろう。作業時間の他に説明時間も必要だし、そもそも皆、不慣れだし。」
「そうですね、まだまだ初期段階とでもいえるマネジメントでは、1+1+・・・と10回足し算しても、10の仕事はできません。9とか8とか、場合によってはもっと効率が悪いかもしれません。」
「ここで、ダンボール箱から本を出す係と、それを図書分類毎に分ける係、書棚に持って行って並べる係を作ったらどうなると思いますか?」
「作業が早くなるだろうな。」
「力もちが分類作業をし、体力のなさそうな人が力仕事をしているなどしたら、それを改善するとどうなりますか?」
「更に効率が良くなるだろう。」
「作業者が仕事をしている間にチェックをして間違っていたらすぐに教えてあげたり、質問があったら即座に答えたりしていたら、どうでしょうか?」
「おお、もっと効率化されるだろう。」
「そうですね、ここまでいくと、実現のための日数はどうでしょうか?」
「10日はかからないかもしれないな。9日で済むかもしれない。」
「もっと上手くマネジメントをすれば8日でできるかもしれませんね。」
「確かに、そうだな。」
「さて、簡単な例で考えていただきましたが、マネジメントには不思議な力があることが、お分かりになれたと思います。マネジメントがなければ1+1+・・・と10回足し算しても仕事は完成させられず成果は出せない。仕事は完成させ、成果を出すにはマネジメントが必要です。でも、あまり練られていないマネジメントでは、10人を集めても10の成果を実現できないかもしれません。でも、上手くマネジメントすれば、1+1+・・・と10回足し算で10を超える成果を得ることができるかもしれません。マネジメントを磨けば磨くほど、成果は増えていくと考えられます。」
「そうだな。」
「そのことを、ドラッカーは伝えたかったのです。ドラッカーは、うまくマネジメントされた組織は、『部分の和よりも大きな全体』と生み出せる、言い換えると『投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す』ことができると言っています(『エッセンシャル版 マネジメント』P.128)。」
「マネジメントは、このように、組織で働く人々に働きかけて、その生産性を上げることができます。先ほどの例では仕事の成果は数量的に表せるものでしたが、例えば優れたデザインの製品を作り上げたり、今まではなかったビジネスモデルを考案したりと、成果のレベルを向上させることもできます。こういう力があるマネジメントが、企業の儲けに貢献しているとは言えないでしょうか?」
「もちろん、貢献していると言える。その効果は絶大だろう。マネジメントは、特定の部門の働きにだけ貢献するものではなく、全ての部門の働きに貢献するものだろうから。」
「そうなんです。それをドラッカーは『マネジメント』で説明していたのです。」
「そういうことなのか。ならば毛嫌いせずに勉強してみることとしよう。」
記事は、以下の図書P.14以降をベースとしています。
『ドラッカー「マネジメント」のメッセージを読みとる』
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤伸夫
ドラッカー学会会員
中小企業診断士を目指していた平成9年にドラッカーに出会って以来、ドラッカーの著書をいつも座右の銘にしてきました。MBAを取得し、コンサルタントとして活動するにあたっても、企業人が考え行動する基本はドラッカーにあると感じています。ドラッカーの教えは、時には哲学的に思えることがありますが、企業が永らく繁榮するとともに、社会にある人々が幸福になることを目指していると思います。StrateCutionsで行うマネジメント支援が何を目指しているかを、ドラッカーの言葉を学びながら、お知り頂ければと考えています。
<著書>
『ドラッカー「マネジメント」のメッセージを読みとる』
Webサイト:StrateCutions