ドラッカーから学ぶ

第4回

計画を立てて実行していくことの効果

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「ドラッカーが、『使命』として目指す姿を思い描き、『方法』として組織の体制固めをし、そして『戦略』として実行することにより儲かる会社になっていくことを目指すよう勧めていたことは分かった。しかし、すべての企業は多かれ少なかれ、それを実行しているのではないか?なのに実績をあげている企業が少ないというのは、ドラッカーのやり方では効果がないと見るべきなのではないだろうか?」
「とても良い質問だと思います。今、言われた『多かれ少なかれ』というのが、ポイントかもしれません。少なくては、効果があがらないのです。しっかりと、取り組む必要があります。」
「言葉の揚げ足を取られた感じだが、では『多い・少ない』というのはどう判断するんだ?」
「それは、計画を立てて実行していくという意味で捉えられると思います。」
「計画を立てて実行するだって?」

「多くの企業が『目指す姿を思い描く』一方で『組織の体制固めをし』、その上で『戦略的に取り組んでいく』というステップを踏むみながらも、成果はまちまちです。うまくいかない企業も少なくありません。その理由の一つに、私は、きちんと計画を立てて実行しているか否かが関係しているのではないかと思います。」
「みんな計画くらい、立てているのではないか?」
「そうですね、ほとんどの経営者は頭の中では計画を立てておられると思います。でも、紙に、きちんと書き下ろしている企業はどれくらいあるでしょうか?私は計画を丁寧に紙に書きおろして活用することをお勧めしています。」
「それは君だけの意見なのではないか?」
「ドラッカーは、『マネジメント』ではないのですが、他の書物、他の場面では、計画を紙に書きあらわすように勧めています(例:『プロフェッショナルの条件』Part3「自らをマネジメントする」)。」
「計画を紙に書くことが、どれほどの意味を持つのだろう?たかが、紙切れではないか。紙に書くことに、そんなに力があるとは思わないな。」
「そうですか?この点について、私が気がついた点をお話しして良いですか?」
「そうしてもらおう。」

「私は、計画を紙に書いていくことは、作成途上にも、それを実行する上でも、メリットがあると考えています。その第一番目は、作成途上で、考えをブラッシュアップできることです。」
「というと?」
「例えば、今度の人事異動で事務室の模様替えが必要になりましたね。新しい部署を作らなければなりません。何をすべきか、まず頭の中で考えてみてください。どうですか?イメージできましたか?」
「できた。」
「完璧ですか?」
「と、思うけど。」
「それでは、それを紙に書いてもらえますか?」
「書いた。」
「さて、それをご覧になって、何か足りないことはありませんか?」
「そう言われてみると、コンピューターへのLAN接続のことを考えていないな。」
「新たな部署では、メールも社内データベースも使えないこととして良いのでしょうか?」
「それは困る。」
「このように、一旦は良さそうだと思ったことが、紙に書くことで足りないことや不適切なことに気がつくことはないでしょうか?」
「たくさんありそうだな。」
「それが計画の、ブラッシュアップを助けてくれる効果です。」

「さて、この計画書をLAN担当者に見せるとどうなるでしょうか?」
「専門的なアドバイスをしてくれるだろうな。」
「それだけですか?」
「『これって、ただの想定ですか?それとも近々、行われるのでしょうか』と聞いてくるだろうな。」
「そうですね、近々実行すると答えると、どうでしょう。」
「それに備えて準備してくれるだろう。」
「そうです。計画には、考えを関係者に伝えるという効果もあります。」

「さて、先ほど、この計画書をLAN担当者に見せると、専門的なアドバイスをしてくれるだろうと仰いましたね。それは、また、関係者の知恵を集められることも意味していると思われます。」
「本当にそうだな。同じ計画を見ても、専門家は違った意味を汲み取れるから。我々レベルがその時にならないと気が付かない、というか、トラブルに遭遇して思い知らなければ分からないようなことでも、専門家は、事前に察知できたりする。」
「そういう知恵を集められることって、大切ですよね。」

「そして計画は、関係者の力を合わせる中心点となると思います。」
「ここまで聞くと、調子が分かってきたぞ。計画が関係者にとって、目標やノルマのような意味合いを持つということだな。」
「それは実に、マネジャーらしい表現ですね。」
「それは皮肉か?」
「いえ、そんな訳ではありません。計画は、目標やノルマのような働きをすることもあります。但し、それだけではありません。」
「というと?」
「計画は、単に目標数値を示すだけではありません。その取り組み方法や関係者も示してくれます。」
「そういう情報があれば、単に自分の仕事をこなそうというだけでなく、段取りを考えたり、関係者と力を合わせることなどまで考えられるようになるな。」
「そうです。そういう力の合わせ方です。」

「計画は、また、実行段階では里程標になってくれます。」
「それはそうだな。全体のどこまで来たか、もしくはスケジュール通り進捗しているかを判断する基準になってくれる。」

「そして計画は、スケジュールだけでなく内容についても判断基準になってくれます。」
「確かにそうだ。」
「それはつまり、基準に達していない仕事や成果があれば、早く気がつき、迅速に対応できるという意味でもあります。」
「PDCAサイクルを回す原動力になるという訳か。それをするのとしないのとでは、結果は大違いだろうな。」
「仰る通りです。」

「以上のように考えていただくと、計画を立てて実行する、それも明確に紙の上で表現して活用することの大切さがお分かり頂けたのではないでしょうか。」
「確かにそうだな。計画段階でも、それを実行する段階でも、多くのメリットがある。」
「そうなんです。計画を紙に書くことと、それを関係者に見せたり進捗管理や内容チェックの基準として活用することには、とても大きな力があります。同じ『計画を立てて実行した』と言っても、紙に書いて活用するのとしないのとでは、大きな違いがあります。」
「そのようだな。」
「ドラッカーが勧めた、使命を明確にし、組織のマネジメント体制を固めた上で戦略を実行していくという3つのステップは、企業が儲けられる体質になっていくための必要不可欠なステップです。でもそれは、なんとなく行えば効果があがるものではありません。きちんとした計画を立て、策定段階から実行段階まで関係者と共有したり基準として活用することで、最大限の力を発揮してくれるものなのです。」
「よく、理解できたよ。」
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤伸夫

ドラッカー学会会員
中小企業診断士を目指していた平成9年にドラッカーに出会って以来、ドラッカーの著書をいつも座右の銘にしてきました。MBAを取得し、コンサルタントとして活動するにあたっても、企業人が考え行動する基本はドラッカーにあると感じています。ドラッカーの教えは、時には哲学的に思えることがありますが、企業が永らく繁榮するとともに、社会にある人々が幸福になることを目指していると思います。StrateCutionsで行うマネジメント支援が何を目指しているかを、ドラッカーの言葉を学びながら、お知り頂ければと考えています。


<著書>
『ドラッカー「マネジメント」のメッセージを読みとる』


Webサイト:StrateCutions

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