「君の勧めに乗って、儲ける方法を勉強しようとドラッカーの『マネジメント(エッセンシャル版)』を読んでみたけれど、やはり、この本が儲ける方法について書いてあるとは思えない。」
「どうして、そう思われたのでしょうか?」
「私は、本を読むときには、まず、目次を見ることにしている。『マネジメント』を見てみると、3つのパートに分かれていて『マネジメントの使命』『マネジメントの方法』そして『マネジメントの戦略』となっていた。使命から始まるところなんて、やはり精神論の本なのではないか?」
「そう理解されたのも、無理もないかもしれませんね。最初は、私も、そう思いましたから。ドラッカーは、わざとこういう書き方をしたのではないかと思ったりもします。」
「わざとも何も、実際は精神論の本なのではないのか?」
「精神論が込められているというご指摘には、仰る通りだと思います。逆に言うなら、有名な近江商人にしても財閥の創始者にしても、精神論がなくて成功した事業家はいないと思います。」
「確かにそうだな。そこは、認めるとしよう。」
「では、『マネジメント』が儲ける方法について書かれた本だということについて。私は、『マネジメント』のこの構成は、儲ける企業になるためには3つのステップが必要だとの指摘だと思っています。」
「3つのステップだと?」
「そうです。何を実現しようとするのかを考える『使命』と、そのやり方を整える『方法』、そして具体的課題への対応法となる『戦略』というステップです。」
「なるほど。」
「しかし、最初になぜ『使命』などが必要になるのだろうか?『儲ける』という命題があるならば、それで十分ではないか。」
「それで十分と仰る意味は、どういうことですか?」
「競争に勝つということだ。今の世の中、儲けるとは競争に勝つということだからな。」
「そうでしょうか?」
「そうではないのか?」
「確かに、競争に勝つというのは、儲ける一番手っ取り早い方法かもしれません。しかし、それが一番良い方法なのでしょうか?」
「良いも悪いも、それしかないだろうが。今は競争社会なのだから。」
「実際に競争に勝ったらどうなりますか?」
「儲けられるだろう。」
「長続きしそうですか?」
「それは難しいだろうな。」
「とすると、競争に勝つことがハッピーなことなのでしょうか?」
「そう言われたらハッピーではないかもしれないが、それがビジネスというものではないか?」
「歌にもありましたよね。ナンバー1ではなくオンリー1という。」
「商売にも、その考えを取り込もうというのか?それは考えが甘いぞ?」
「考え方が甘いとは?」
「ビジネスでは、オンリーワンを目指すとは結局、ナンバーワンを目指すということだからだ。つまり、競争に勝つということだからだ。」
「そういうお考えからすると、もし同業のお店が2軒並んでいたら、そこには競争関係しかないということになりますね。」
「もちろんだ。熾烈な競争になるだろう。」
「最近、同じ食べ物を提供するテーマパークが流行っているようですが、もしお考えのようなら、なぜそのようなものができるのでしょうか?」
「ううん。」
「社長さんのお好きなスナックもそうですよね。なぜスナックは、一つのビルに集まるのでしょうか?バラバラに立地した方が、競争がなくて良くはないですか?」
「『私が好きな』は余計だ。でも、そう言われてみると・・・。」
「そういうお店の経営者は、知っているのでしょうね。同じような店が10軒並ぶと、1つの店が集めることのできるお客の10倍を超えて集客できるということを。」
「そうだな。」
「例えば11倍のお客を集められたら、単純計算すれば各店舗のお客が1割増えたということになります。」
「つまり『共存共栄』を目指せと言っているのだな。」
「そうです、それがドラッカーの言う『顧客の創造』の意味だと思われます。」
「私は精神訓話だと思っていたが、『顧客の創造』にはそういう意図があったのか?」
「では、このような状況下、ある店が『私の店は他の店よりも優れている。うちが1番だ』とアピールしたらどうでしょう?」
「そういう姿勢の店は、頂けないだろうな。」
「どうすれば良いのでしょうか?」
「うちはこういう特色があるので、お好きな方は来てください。それ以外がお好みなら、別のお店にどうぞ、というスタンスでいることが最善の方法だろうな。」
「そうですね。」
「でも、競争がないと『なあなあ』にならないか?それだと皆で総崩れだぞ。」
「確かに、その危険はありますね。日本でも特定の業種では護送船団方式で競争がなかったので、国際的競争力がなくなったとも言われています。」
「とすると、競争ではないやり方があるにせよ、結局は競争した方が良いということにならないか?」
「では、さっきのスナックの例で考えてみましょう。ある店が競争主義で展開して、別の店を追い出してしまった。そしてそこに支店を設けたという状況です。」
「スナックじゃなくて、ラーメン店で行こう。競争に勝って支店を出す、いいんじゃないか?」
「そうやって他の全ての競争者を追い出して、そのビル全部を自分の店で埋めてしまってもですか?」
「それはマズイだろう。競争原理が働かなくなる。」
「それもありますが、そもそも、そういうところにお客は来るでしょうか?」
「いや、来ないだろうな。魅力がない。以前の集客は見込めないだろう。」
「では、どうすれば良いのでしょうか?」
「各々が自分のユニークな特徴を打ち出していけば良いだろう。」
「それはどういう意味ですか?お客様サイドから見ると。」
「他の店では満足できないお客を、自分の店が満足させてあげるとでもいうのだろうか。」
「とても良い表現ですね。この『ある特定のお客は自分がきちんと満足させてあげる。そのためには全力を尽くす』という気持ちのことを、何と表現できますか?」
「それが『企業の使命』だと言いたい訳か。なあなあではなく、全力を尽くす使命だと。」
「そうです。ドラッカーはこのように『企業の使命』を出発点にすれば、泥沼の競争関係ではなく、共存共栄のビジネス環境が作れると言いたかったのだと思います。」
「そうか、分かったよ。だから使命から始めないといけない訳だな。」
記事は、以下の図書をベースとしています。