「ドラッカーの『マネジメント(エッセンシャル版)』は儲かる方法について書いてある本だという君の主張については、理解した。ただ単に『儲ける』を狙うのではなく、最初は理念からスタートしなければならないという話も、よく聞けばその通りなんだろうと思う。しかし、具体的にどうすれば良いのかが分からなければ、儲けることを勧める本だとは納得できない。そこは、どうなんだ?」
「その点については、先回、お気付きだったと思ったのですが。」
「先回だと?私が『マネジメント』は、『マネジメントの使命』『マネジメントの方法』そして『マネジメントの戦略』という3つのパートから構成されていると言ったことか?」
「そうです。私は、『マネジメント』のこの構成は、儲ける企業になるためには3つのステップが必要だとの指摘ではないかと考えています。」
「そういえば、『使命』『方法』『戦略』というステップを踏むことになると言っていたな。」
「おっしゃる通りです。」
「でもなぜ、そういう順番になっているんだ?儲けるためなら、売上を伸ばす努力をすれば良いだけだろうに。」
「またそのお話になりましたね。マネジメントも儲けの原動力になることは、最初にお話ししましたけれど。」
「そうだったな。しかし、あの時には『ふむふむ』と納得してしまったのだが、結局は、マネジメントがしっかりとしていると経費が削減できるというだけの話のような気がしてきた。そうではないのか?」
「そう思われたのですね。確かに、先回のお話の仕方では、そのように思われても仕方ないかもしれませんね。」
「ここで少し、話を先取りしてみましょう。ステップの3段階目は『戦略』でした。儲けられるようにするためには経営戦略が必要になるという主張です。これについては、如何でしょう?」
「それは、もちろんだ。もっと売れる市場を開拓するにせよ、コスト削減できる企業体質を目指すにしろ、経営戦略を立てて、それに向かって努力することが大切だ。」
「そうですね。ドラッカーは『マネジメント』の中で、多角化戦略やグローバル戦略などを取り上げています。こういう戦略を実行することで、儲かる企業になっていこうとする訳です。」
「その趣旨は、非常に良く分かる。」
「では、経営戦略を実施して成果をあげられるようにするためには、企業としてはどんな条件が満たされる必要があるのでしょうか?」
「経営戦略を実施して成果をあげるための条件だと?考えたことはないな。それを実施すれば良いだけではないか?」
「似たような経営戦略を掲げながら、一方は成功し、他方は失敗した。そういう例をご覧になったことはないですか?」
「それは、ある。端的にわかるのは、自動車会社だろう。自動車を生産して販売する、そこに大きな違いはない。そしてトヨタにしろニッサンにしろ、ホンダにしろマツダにしろミツビシにしろ、経営戦略を立ててそれに従って経営していると思う。多少の違いはあるにせよ、どこかの会社が決定的に間違った戦略を立てたからうまくいかなくなっている、なんてことはなさそうだ。しかし各社の業績には違いがある。とすると、経営戦略の実行力に違いがあったというべきなんだろうか。」
「そうですね。一昔前の話になりますが、ニッサンを立て直したカルロス・ゴーン社長は、それまでと全く違う戦略を立ててニッサンをV字回復に導いた訳ではありません。戦略そのものは、以前と大して違わないじゃないかと感じた社員も、多いと聞きます。ゴーン社長が優れた業績をあげることができたのは、マネジメントを立て直したからだと言われています。」
「それは、そうだな。有名なCFT(クロス・ファンクショナル・チーム)も、それまでは改革に消極的だった社員を巻き込むマネジメント上の仕組みだと言える。」
「このように考えてみると、戦略を実現するために必要な条件とは何だと思われますか?」
「そうだな、マネジメントだ。」
「それをもっと踏み込んで言ってみると?」
「戦略を実現できる組織を作るということか。マネジメントには、そういう効果もあるということなんだな。」
「そうなんです。マネジメントには、大きく分けて、2つの効果があると言えます。1つ目は、最初にご説明したように、現場の人々が効果的・効率的に働いてくれ、成果をあげてくれるようになるという効果です。2つ目は、現場の人々が、トップの定めた経営戦略を実行してくれるようになるという効果です。」
「企業が儲けられる体質になれるためのポイントの第1は、現場の仕事を効果的・効率的に行えるようにすることです。お客様がお金を払ってくれるのは現場の働きによってできあがる製品やサービスに対してですから、現場がより効果的に働けるようになればなるほど、効率的に働けるようになればなるほど、儲けられるようになります。これを実現するのが、マネジメントです。」
「でも、今の世の中、これまでやってきた仕事を効果的・効率的にこなすだけでは儲からなくなってきました。なので企業が儲けられる体質になれるためのポイントの第2は、顧客の要求により高いレベルで応えたり、新しい技術を取り入れる、その他の事業環境の変化に対応するなどの経営課題に取り組み、成果を出すことです。経営戦略を立てて、実行するということですね。それがうまくできた企業は儲かる体質を維持し、強化できますが、それができなければジリ貧になり、下手をすると市場からの退出を迫られるかもしれません。経営戦略を実現できる現場を作りあげ、うまく機能させていくのも、マネジメントの役割です。」
「そうか、だからドラッカーは、そういうマネジメントのやり方を『マネジメントの方法』で説明しようとしたのだな。」
「おっしゃる通りです。」
記事は、以下の図書をベースとしています。